味つづり〈81〉 倉橋 柏山
公魚(わかさぎ)の小鍋立私の果たせなかったことに、氷に穴をあけて公魚を釣り、その場で天ぷらにして、コップ酒を飲むことであった。
76歳、元気であり、まだ一縷の望みは残っているが、私の相手をしてくれる物好きな年寄り仲間も居ず、この先はまず無理である。
公魚は、キュウリウオ科の全長10センチ前後の小魚である。もともと海水と真水が混じった汽水湖や海に生息するが、諏訪湖や山中湖、河口湖など、日本各地の淡水湖でもよく繁殖している。市場にはもっぱらこの移入増殖した淡水湖のものが出回るため、扱いは淡水魚であるとのこと。
厳寒期、雪にも負けず、厚く氷の張った湖に穴をあけて釣り糸を垂れて公魚を釣る風景は、冬の風物詩として有名で、私も一度は釣ってみたかった。
公魚は1月〜4月が産卵期の一年魚。中には2〜3年と生きながらえて13〜14センチの大きい物もあるそうだ。
味は淡泊でクセがなく、焼いても骨ごと食べることが出来る美味なる小魚で、秋から春に多く出回り、冬が旬である。冷凍物や小さな白焼きは通年出回る。
塩焼き、魚田、天ぷら、フライ、ムニエルなどが一般的な食べ方で、内臓を取らずに食べるのもこの魚の特色である。
手軽で旨い小鍋(特別小鍋でなくてもよい)立を紹介しよう。
だし汁(昆布とかつお節の一番だし汁)に一割ほどの日本酒を加え、塩と淡口醤油で吸い地強の味に調味して鍋に入れ、コンロに乗せ、煮立ったら鮮度のよい公魚を入れ、火が通ったら汁と共に小鉢に取って食べる。ざくは長葱、小角切り豆腐、椎茸、芹くらいでいいだろう。公魚のすっきりした淡泊な味を楽しむにつきる。
若い方には、ベーコンや、豚、牛などの薄切り肉で巻きバターで焼く。天ぷら衣をつけて油で揚げても旨い。
公魚の下処理は立塩(海水程度の塩水)で手早く洗って水気をよく拭き取ることである。 そして鮮度のよい物を求めることである。
味の補いは塩、コショウ、カレー塩、山椒塩、天つゆ、ポン酢醤油、紅葉おろし、レモンなど好みのものを用いる。
彩りと食感を楽しむために獅子唐やアスパラガス、赤や黄のパプリカ、プチトマトなどの他に生食出来る野菜などを添える。
日本の家庭料理も欧米化というより国籍不明に近い料理嗜好で、特に小魚を嫌うようである。その点、公魚は一寸火を通すだけで、頭から小骨まで食べることが出来、味もよく、カルシウムもあるそうだ。是非子供さんに食べさせてほしいと思う。和食が、世界無形文化遺産に登録され、日本のよき家庭料理の和食を見直してほしいものである。和食ほど日本人の体質に合った健康的な食物は世界に類を見ないことを忘れないでほしい。
小麦粉か片栗粉をまぶして油でカラッと揚げた空揚げは、旨くてとても簡単な料理である。育ち盛りのお子さんに食べさせてほしいものである。
焼き公魚の昆布巻き、油揚げ、湯葉などで巻いて煮含めても旨い。
八方だし汁という便利で重宝な調味法がある。料理人によって個人差はあるが、だし汁八に対し、みりん、酒、醤油(濃口、淡口、白醤油などがある)各一を合せた汁で昆布巻き油揚げ巻きを30〜50分煮含める。味は各自好みが異なるので、砂糖、味噌などを加えて煮る。
わかめなどで巻けば十分ほどで美味しく煮あげることが出来る。
八方だし汁という割合を頭に叩き込んでおくと、材料の多い少ないは関係ないので便利である。
料理は味を見る習慣を付けること、火にかけた最初、料理の途中、仕上げる間際。どんな料理名人の調味法でも煮る時間や火加減で味は大きく変わる。これを忘れないでほしい。