受動喫煙対策シリーズ
健康が蝕まれる
飲食店従業員・アルバイトの労働環境は深刻
中田 ゆり(東京大学大学院国際地域保健学教室)
2003年、産業医大の大和浩助教授と私は首都圏のファミリーレストランや居酒屋など50カ所の飲食店における分煙対策の実情を、厚生労働省の分煙ガイドラインで定められた浮遊粉じん濃度を測定する方法で調べ、問題の深刻さを実感した。測定の結果、まったく分煙対策をとらず自由に喫煙できる店の粉じん平均濃度は、喫煙者が多い時間帯には完全禁煙店に比べて70倍、厚生労働省が示す喫煙室の評価基準値の18倍にあたる一立方メートルあたり2.7ミリグラムまで上昇する店もあったのだ。
調査を通じて、飲食店の粉じん濃度は職場など一般的な場所よりかなり高いこと、不完全分煙店では子供や妊婦が危険ともいえる受動喫煙状態にさらされていることが明らかになった。世界保健機関(WHO)は「安全なレベルの受動喫煙は存在しない」と強調している。
受動喫煙防止対策のない飲食店で、多くの未成年学生がアルバイトをしていることも、大変な社会問題である。東京都内の飲食店で働く未成年のアルバイト学生の8割が「受動喫煙」の被害を訴えていることが、中田による調査(2003年)で明らかになった。健康増進法施行後の7〜8月、ファミリーレスラン、ファストフード店、居酒屋で働く18、19歳の大学生(男女計150人)に聞き取り調査したところ、「アルバイト先で日常的にタバコの煙を浴びる環境にある」と回答した学生は、ファストフード店で76%、ファミリーレストランで68%、居酒屋では100%。全体でも81%に達した。
高校生や大学生のアルバイト先の20%前後は飲食店とみられる。どんなにきちんと分煙をしても、注文を取り、飲み物や食事を配る従業員やアルバイトは禁煙・喫煙ゾーンを選べず、煙害を避けられない。また、彼らが日常的にタバコの煙を浴びることは、将来の喫煙行動につながる可能性もある。喫煙可能な店の経営者は未成年者のバイトを雇わないこと、学生も自分の健康を守るために、受動喫煙のない安全な職場を選ぶことが大切であろう。