全飲連ゼミナール
平成16年度 九州ブロック講習会
平成16年10月5日(火)別府市(別府ビーコンプラザ)ジャーナリズムの目で見てきた飲食業界の20年
大分インフォメーションハウス(株) 取締役専務 講師/宮崎 和恵 先生
●30年前に誕生したタウン誌
私はタウン情報誌の仕事をしています。この20年間、現場へ取材に出かけ、いろいろなお話を聞いたりする中で感じていることが沢山あります。今日はその現場の話をさせていただくことで、一つでも皆さんのお役に立てたらと思います。
今、私どもで「シティ情報おおいた」という月刊誌を発行しています。全国それぞれの地域にタウン誌がありますが、この「タウン誌」ができたのは、昭和48年のオイルショックの頃です。その頃、経費削減で最初に削られるのは交際費、交通費、そしてもう一つが広告費でした。
広告費が削られると印刷屋さんは一番困ります。広告などの印刷の受注が減っていった頃、ある印刷会社のオーナーが外国に行くチャンスがありました。旅先の街で、インフォメーションの頭文字「I」の看板がかかっているところへ行ってみると、その街のことがとてもよく分かった上に、その情報が冊子にもなっている。「こういうものが自分たちのまちにあれば、読者のためにも、その地域の人たちのためにも役に立つ!」と思いつき、この印刷屋さんが最初にタウン誌を作ったのです。
●タウン誌は双方向のメディア
今まで街や地域の情報は、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌というものに依存していました。若い人たちが身近な情報に触れる手段は余りなかったのです。そこにタウン誌というものが生まれ、飲食店の情報やイベント情報、映画やCDといったエンターテイメントの情報をギュッと一冊にまとめたものができました。少しずつタウン情報誌が地域の若い人たちに受け入れられる土壌ができ上がっていったのです。
私たちは今まで新聞やテレビでは取り上げなかったようなところに出かけ、使う人の身になって細かな情報を伝えています。そういう積み重ねの中で、今度は情報が私どもの方へ集まってくるようになったのです。直接取材することで、お互いにコミュニケーションをとりながら、新しい情報をいただいています。
タウン誌というのは双方向のメディアであり、街の人たちと情報のやりとりをしながら、本ができていくのです。一方通行ではないメディアであるということが、大きな特徴なのではないかと思います。
私たちは、社員一人ひとりが週2回行われる「情報会議」に、少なくとも2つの新しい情報を持ってきます。30人が集めますから、1回に60もの情報が集まります。それを週に2回で120、これが4週でひと月にすると480近い情報が集まるのです。それを取捨選択しながら、情報の共有をするのです。
「シティ情報おおいた」に聞けば、大分県の最新情報がわかるというふうに認知され始めているようで、様々な問い合わせがきます。この「情報会議」を行っていることで、問い合わせにも答えることができるのです。もし完全に答えられない場合でも名「分かりません」とは言わず、何か最低限のキーになることを答えることを目指しています。
●飲食店から情報発信
これは私たちだけではなくて、飲食店にとっても大事なことだと思います。「また行きたくなる店」につながるからです。
例えば、飲食店に電話で問い合わせたときに、「支配人じゃないと分からない」ということがよくあります。電話してみて、応答が的確だったし、しかも行ってみたら良かった。そういうことが「また行ってみる」きっかけになるのではないかと思います。
情報を発信する所に情報が集まり、人が集まるのです。何も発信し続けない所に人は集まりません。発信のチャンスはさまざまなところにあります。情報発信をずっとできているところが、お店として支持されていくのだと思っています。
大分は自然が多いところなので、自然を体験したい。野山を歩いてトレッキングなどしながら、ゆったり時間を過ごしたい。そういう情報が求められています。「時間をゆっくり過ごす」方にニーズがシフトしているのです。若い人たちにもそういうニーズが見られます。ホタル狩り≠ネど今までには若い人が興味を持ちそうにない情報が注目されてきたことをみてもわかります。
●取材現場から見える変化
そのように「お金の消費」から「時間の消費」にニーズが変わってきています。例えばお料理一つとってみても違います。十五年前ぐらいは、お店の特徴を聞くと七割くらいが「うちは手づくりです」と答えました。今考えてみるとあの頃の冷凍食品は、美味しくないものの典型のような印象で、ファミリーレストランは冷凍食品を使っているのに対し、個店は「手づくり」というものを売りにしていたのです。それが四、五年前ぐらいからは「無農薬の有機栽培の材料を使っています」「お米も自分の所で作っています」「野菜も契約農家から仕入れています」というような、安心と安全に配慮していることをお店の特徴として挙げるようになりました。「スローフード」です。スローフードは素材へのこだわりだけではなく、ゆっくり食事を楽しむということも入っています。そういったお店の雰囲気・空間づくりやメニューづくり、立地なども変わってきました。
それからバリアフリーも求められています。「子ども連れでも行けるお店を教えてください」という問合せも増えてきました。そういった要望に応えるために、子ども用の椅子やメニューを用意しているところも私たちはチェックしています。
また外食の形態も変わってきました。二、三年前からなのですが、最近は時間的なゆとりを持ち家族みんなで外食をしたり、友達などグループで食事に行くために「貸し切りができる店」「個室がある店」という問合せも多くなりました。飲食店ではありませんが、女性が一人で泊まれる宿や、ペットと一緒に泊まれる宿に人気があります。別府の街の中心街にペットの足湯ができたのですが、さすが別府と思いました。大分は温泉の多い県ですが、温泉一つとってもいろんな変化があります。バブル全盛期には「一番広い露天風呂を持っているところ」という問合せが多かったのですが、四、五年前から「貸し切りの露天風呂」に変わってきました。グループでの需要が貸し切りの温泉を必要としているのです。子ども連れのお母さんも貸し切りならゆっくりできます。貸し切りの需要が出てくるのも、時代の流れの中ではありえることなのです。
また、ペットに対する配慮も世の中に少しずつ求められていることの一つです。喫茶店のテラスで、ペット同伴でお茶が飲めますとか、ペットの食事もメニューにあったり。こういうことは、かつてはありませんでした。
街の中心部にはいろんなお店ができていますが、コストの問題があります。地価は少しずつ下がっているとはいえ、やはりかなりコストがかかることには違いありません。そこで出てきたのが「ミクスチャー」。一つのお店の中に、お客様の需要の幾つかを一緒にすることによって、ある種の常連さん作りのスピードを上げる。それからよく言われる囲い込みのようなものにも役立っているのです。一粒で二度おいしいという思いをお客様に提供することができる。例えば、お花を買ってくださったらコーヒー券を差し上げますとか、コーヒーのお代わりをしていただけたらお花を進呈しますとか、サービスも多様にできるというようなお店も増えています。
「プロ」が安穏としている間に、「素人」がお店を作り始めています。自宅をお店にして手作りケーキを提供する。営業時間は短いのですが、逆に素人の良さがうけています。特に「母と娘」というのがキーワードになっていて、母と娘でお店を始めるというのが最近の傾向です。お客さんも娘の知り合いとお母さんの知り合いで倍々に増えて層が広いのです。
●現場から見えるまた行きたくなる店
また行きたくなる店というのは、30年続く店、また繋がる店ではないかと思います。まず情報の共有はできているか。そこの支配人しか知らない、アルバイトの人たちは何にも分からないという状況は、お客さんを不愉快にし、もう二度と行かないと思わせます。普通のお客様が求めることには、お店の誰もが応えられるような社員教育をすべきです。経営者がホールでサービスをする人、接客をする人たちの役割がいかに大事かということを考えていないのではないかというお店が結構あります。お客さんと実際に接する立場の人が、厨房と同じ立場でコミュニケーションを取り合える。「今こういう状況になっているので、お料理を急いでくれないだろうか」ということが果たして言えるだろうか。料理側と「これを先に扱ってくれないか」、「少し遅れる、あと五分くらいお待ちくださいと言っておいて」というような情報のやりとりができているだろうか。
ついこの間、新しいお店に行きましたが、驚くべき事に、お店に座っている一時間半の間に、メニューは間違う、お酒はなかなか出ない、間違った料理をそのまま隣へ持っていくなどのハプニングに、ホールで働くスタッフが大変丁寧に謝っているのです。それには大変好感が持てましたが、見ていると、厨房の人たちとコミュニケーションが全くとれていないのです。これは多分、厨房の人たちの力が断然強く、コミュニケーションがとれていないので、最終的にお客さんに迷惑をかけているのだと思いました。厨房の人たちももちろん大事ですが、ホールの人たちがそこで働くことをステイタスに感じるくらいに経営者の人たちが大事に考えてあげる。そういう店はまた行きたくなります。お客様は神様ですが、いろんなことを言います。それにいかに対応できるかということが、もう一回あの店に行きたいという、大きなきっかけの一つでもあります。お店というのは総合力だと思いますので、その一つが欠けてもお客様の目が厳しいということに変わりはないと思います。
やはり接客態度の感じがいいと、ずっといいイメージがあると思います。そこがどれだけ大事かということを、是非考えていただければと思います。
また、お客さんはいろいろなわがままを言いますが、まずできないという前に、できる方法を考えて食事を作ることも必要だと思います。
先日もポテトを頼んだら、ものすごく時間がかかったのです。そこで「すみません。さっき急ぐと申し上げたのですが、いただいて帰って電車の中で食べます」と言いました。皆さんだったらどうしますか? 断る人? それは何故ですか? すぐ食べないで、腐ったら困るからというような理由だと思います。しかし私は「このまま電車に乗ってすぐ食べます」と言ったのです。それでも「ダメです」とおっしゃったのです。これはどちらも正しいかもしれません。
しかし、「こういうことがあるので、申し訳ありませんが普通は持ち出しできません。でもすぐそのまま召し上がっていただければ」というふうに、できない理由をまず言うよりも、同じできないでもどういう対応するかというほうがマシではないかと思うのです。もちろん食べ物ですから、皆さんにとって致命的だったりするのは分かっていますが、それよりもどう対応できるか、ということまで考えていただきたいのです。
それから注文を取って、五分くらい経ってから「すみません。今日はこれでおわりです」ということがよくあるのですが、「最初に言って」という感じです。
私たちは仕事柄いろんなところに取材に行くのですが、他の店の悪口を言うところは信頼できません。それは私たちが他の雑誌の悪口を言わないというところもありますが、経営者ももちろんそうですし、前線の人たちにも浸透させていかなければいけないことだと思います。
それともう一つは、出入りの業者さんに対しても、私たちと同じように接するお店というのは信頼できます。出入りの業者さんは、自分のお店のサポーターだと思います。そういう人たちを大事にすると、その店のお客さんになり、お客さんを連れてくる可能性が大いにあるからです。
やはり過不足のない接客というのが一番難しいと思います。ものすごい「うんちく」を語るお店があるのですが、いつ食べたらいいのという感じなのです。食べるために来ているわけですから、それが何かというのが分かれば十分ということもあります。お客さんは若い店員さんでも質問に対してちゃんと説明ができると、「えーすごい!」と思うのです。そういった「情報の共有」がされているかどうかということが、そのお店の実力だと思いますし、そのお店にもう一回行こうという気にさせるかどうかだと思うのです。20年続くか30年続くかは、日々の積み重ねにかかっているのです。
今、携帯が自分自身の情報を発信するメディアになっています。街の賑わいとかそこで出会う人たちとの交流が、出かけるための一つのきっかけになりつつあるのです。そうなったときに、お店が地域の一員になって果たして何ができるかを考えるべきではないでしょうか。ただお客さんが来ればいいだけではないと思います。これからは、そういうことも求められるということをお話しして、私のお話は終わらせていただきたいと思います。
●講師プロフィール
大分インフォメーションハウス株式会社・取締役専務。タウン誌「シティ情報おおいた」を20年前に2人で始め、今や40人の会社に育て上げた。企業家としても優れた女性。2002年に大分県で行なわれたワールドカップでは「ウエルカムカラー」という発想を提案。