味つづり〈104〉 倉橋 柏山
 
料理にも良い着物が必要

 私は結婚以来五十年余、朝は、ご飯に味噌汁である。18,000回以上の朝食に、安手の塩鮭をどれほど食べているだろうか。
 「材料、料理、大事典」によると、さけ、ぎんざけ、ますのすけ、さくらますなど、多くの種類があるように思われるが、「鮭、鱒」は区別することはできない。学問上では、ます類としての分け方はなく、以上挙げたすべてが「鮭」の仲間として扱われている。と、記される。
 今では死語に近いが、「骨正月」という言葉がある。鮮度の良い鮭の内臓を取り出し、粗塩をまぶしたものが、新巻鮭。暮れになると贈る習わしがあり、魚屋の店頭に風物詩のごとく吊るされたが、今日ではこの光景も見られない。台所に吊るした鮭も、二十日近くなると使い切り、残るは頭と骨。この頭も骨も二十日になると使い切ることから、骨正月、骨降ろし、頭正月と呼ばれた。西のほうになると、鮭が鰤に変わる。
 サケ科の全長二メートル位になる大物を「鱒の介(マスノスケ)」と呼び、欧米人が好むことから「キングサーモン」と呼ばれる。わが国では、輸出用としていたが、近年、これを好む人が増え、輸入、販売されている。
 「サーモンに酢橘をたらす晴れし宵」(石原八束)と俳句にも詠われるほど、サーモン人気が高まっている。
 「海外日系人協会」の依頼により、ブラジル、アルゼンチンなどの日系人の料理教室が三年ほど続いており、サーモンは人気の鮨である。
 孫も社会人になり、私の酒の相手をしてくれる。サーモンに塩、コショウを振り、全体に小麦粉をまぶして、バターで焼き上げ、マッシュルームととうもろこしのソースをかけてやると、喜んで食べている。酒は強くないが、何でも飲み、土曜の夜は、私と酒と料理談義が好きなようである。
 バナナを包んだ変わり焼物がある。サーモンの切身を観音開きにして塩、コショウを振る。切身に合せてバナナを切り、たて二つにしてレモン汁を振り、サーモンに抱かせ、卵の素をぬり付けてサーモンで包み、小麦粉をまぶしてバターで焼く。あるいはオーブンで焼き、溶かしバターをぬる。菊花かぶの甘酢漬けを添える。器を変えるだけで、和食にも洋風にもなる。
 卵の素は、マヨネーズに酢の入らない調味料(卵1個に100㏄ほどのサラダ油を少しずつ注ぎながら攪拌する)である。
 サーモンの切身に淡塩をあて、二時間ほどおき、オーブンで八分程度に火を通し、卵の素を表面にたっぷりとぬり、焼き色が付かない程度に火を通す。
 若い人向きには、溶かしバターを二〜三度刷毛でぬる。また、卵の素に裏ごししたじゃがいもと生クリームを加えるという方法もある。
 料理の要は良い材料を用いること。仕上がった料理が美しいこと。そして盛り付ける器が大切である。
 北大路魯山人は、「器は料理の着物である」という名言を残している。そして仕上がった料理の形や大きさ、彩りを考え、長皿にするか、丸形か、角皿か、変形六角や八角。
 磁器か土物(陶器)に盛り付ける。余白の美。陶磁器の絵柄を生かし、器に余白を残し、品格よく、立体感をつける。鯛の姿焼きなどは、勢いのある立体的な盛りつけができるが、薄い切身は平面的になりがちである。そのような時は、縫い串、あるいはうねり串という手法で、立体感を出す。かますや太刀魚など、おろして身の薄くなる素材は、妻折と言って、両端または片方を折り曲げて串を打つ。典型的な例は「かます」で、身が細くて長く、薄い魚に向く串の打ち方である。
 「掻敷」といって南天の小枝、紅葉した柿の葉、紅葉、青笹などを添えて、料理が引き立つように花を添える。絶対に用いてはいけないのは、少しでも毒性のあるもの。料理を美しく盛るには良い着物(器)も必要である。