味つづり〈101〉 倉橋 柏山
 
春の香りと苦味

 「ほろ苦き恋の味なり蕗の薹」杉田久女。
 早春の土の匂いであるふきのとうは、独特のほろ苦さが身上である。そして蕗特有の香りが料理の味を引き立ててくれる。
 「春の料理には苦味を盛れ」という教えがある。
 ふきのとうをはじめ、わらび、ぜんまい、ふき、うど、菜の花、筍……出回る春の素材には少なからず苦味と特有の香りがある。
 これが春の「あくの味」であり、特色でもある。
 春の先がけで最も早いのが、ふきのとうである。ふきのとうは、書くまでもなく、蕗の若い花芽である。花を寒さから守ろうとして、幾重にも苞で固く包まれている。一月から二月の固い苞を摘みとる。少し開きかけたふきのとうの天ぷらは早春にふさわしい味で、私は塩を振って食べるのが好きである。
 ふき味噌、梅肉煮など、自然の野生味を生かした調理が望ましいが、食べ物は、人それぞれ味の好みが異なる。おみやげでいただくふき味噌は甘味が強すぎて私の好みではないが、それを良しとする人も多い。
 野生の強烈な苦味をきらう方は、アク抜きをおすすめする。
 汚れの強いものは、外側1枚ほどはがして水洗いする。
 沸騰したらお湯に重曹を少量、または灰汁を加えた中で3〜4分茹でて室温に冷すか、流水で良く洗い、水を2回ほど取り替えて3〜4時間さらして、水気をしぼる。小さな物ならそのまま、大きさにより、二つか四つ切りにして鍋に入れ、酒と醤油、種を取って叩きつぶした梅干しを加えて汁気がなくなるまで煮る。これは私の好みで、砂糖やみりん、味噌など適宜に加えて自分好みの味に仕上げる。
 ふきのとうは、野生味のほろ苦さを味わうもので、自然味をそこねないでほしいものである。
 天ぷらを楽しむなら、苞の頂点部分を少し開き、薄衣でカラッと色良く揚げる。早春のほろ苦さで、天つゆも旨いが、私は断然、塩で食べる。
 たて二つに切り、切り口に油をぬり、練り味噌をぬって焼いた素朴な味は、酒好きにはたまらない味で、パラッと煎り胡麻を振りかけると、胡麻の歯ざわりと、景色もいいものである。
 春の代表的な料理に、若筍椀や筍と若布、蕗の煮合わせがある。
 日本料理は、天盛りと言って、盛り付けた頂点に木の芽など、薬味を乗せるのが習わしである。
 木の芽は、山椒の若芽のこと。ピリッとした辛味と、ほのかな苦味、それに香りである。萌え出る春のすがすがしいみどりと、さわやかな香りは日本料理には欠すことが出来ない香辛料である。
 山椒は、ミカン科の落葉低木で、古名を「ハジカミ」、日本原産とされている。山椒はデリケートな植物で、山に入り、若芽を摘む場合、大声で話し合ったり、ざれ歌や騒ぎすぎたりは禁物、木が枯れるからといわれる。
 山椒の若芽を「木の芽」と言って、日本料理には欠かすことが出来ないほど珍重する。初夏には可憐な花が咲く。やがて小さな青い実が付く。すべて香辛料(薬味)として用いられる。大量に採取したら佃煮や酢煮にして保存。随時薬味として用いる。秋になる実が熟してはぜ、粉山椒として利用される。山椒のすりこ木は最上品として珍重する。
 山椒は、胃腸を刺激して食欲増進をはかり、健胃、胃拡張、胃下垂、胃痛など、古くから民間薬として用い、魚の毒や殺虫効果もあるすぐれもので、樹木も皮も余すことなく利用される。
 ふきのとうや木の芽に限らず、薬味は料理の添えものでも飾りでもない。料理の味を引き立てると共に、季節の先がけであり、食欲増進、健康健胃と日本料理には欠かせないものである。