味つづり〈95〉 倉橋 柏山
       
田楽味噌

 「秋茄子嫁に喰わすな」。旨い茄子をにくい嫁に喰わせたくないという姑根性。体を冷やすから、かわいい大事な嫁に、食べさせたくないという、やさしい嫁をいたわる心。いずれにせよ秋にかけて茄子が旨くなる季節である。
 茄子を語る上で「しぎ焼き」もはずすことが出来ない。
 茄子をたて二つに切り、油をぬって火を通し、表面に練り味噌をぬって焼きあげ、粉山椒で賞味する料理を通称、しぎ焼きという。また、皮をむいて輪切りにして油で揚げ、串に刺して切り口に味噌をぬって焼きあげるなど、作り方は多少異なるがしぎ焼きと呼ぶ。
 私の師である山下茂先生(四條流十二世家元)の教えによるしぎ焼きは、茄子のへたと呼ばれる先端の部分を切り、茄子の芯をくり抜く。
 ミンチにした鴨肉(シギ科の野生の小鳥)と味噌、砂糖をすり鉢ですり、茄子に詰めてほうろくでじっくり蒸し焼にして、へたの部分に鴨の頭を乗せた有職料理の鴨壺焼きで、奉書を敷いた三宝に盛り付けて供する格調のある料理だと、教えられた。
 茄子の原産地はインドといわれ、日本へは中国を経由して渡来した。
 本の受け売りになるが、天平勝宝2年(750)6月21日、東大寺「正倉院文書」の茄子の献上記録が最古といわれる。
 茄子は、夏野菜の雄、燦々と輝く太陽の恵みではぐくみ、手が染まるほど紫紺の色が美しい夏野菜である。
 ぬかを用いた浅漬けをはじめ、塩漬け、油で炒める、焼く、揚げる、煮る。薄切りにして軽く塩でもみ、辛子醤油の刺身風の食べ方と料理万能で、日本料理はもとより、世界共通で愛される野菜である。
 私は焼き茄子が好きで、表面がまっ黒になるほど焼く。炭火が理想であるが、ガス火に焼網をのせ、じっくりころがしながら焼いて皮をむき、熱々を食べる。飲屋で焼茄子を注文するが、皮が茶色で蒸し焼き風で旨くない。以前は、屋台で皮がまっ黒になるほど炭火で焦がした。その味がなつかしい。
 茄子は、油と味噌がことのほか相性がいい。盛夏の加茂茄子の田楽はまことに旨い。赤と白の田楽用練味噌二種を紹介しよう。
 赤味噌200gに酒、みりん各大さじ3杯、砂糖150g、卵1個をよく混ぜ、鍋に入れて火にかけ、ぼってりと練りあげて冷して用いる。赤味噌により甘辛さが異なり、味の好みもあるので砂糖の分量は加減してほしい。
 西京味噌200g、酒、みりん各大さじ2杯、砂糖30〜35g、卵黄1個を加えて木杓子で練りあげる。西京味噌は焦げやすいので弱火で練る。いずれも使用するときはだし汁で味噌をゆるめる。木の芽をすって白味噌に加えると木の芽味噌、すった胡麻やピーナッツ、おろし柚子などで味の変化を楽しむ。けしの実や七味唐辛子、粉山椒などを振りかければ見た目と、味の変化も楽しめる。うに、海老の叩き身、カニなどでぜいたく感も味わえる。
 赤味噌には、鶏や間鴨のひき肉、刺身の手くずなどを加えると、思いもよらぬ味の変化と発見がある。
 素焼きにした魚にぬりつけて炙れば「魚田」。
 茄子の他に、里芋、こんにゃく、豆腐、椎茸などにぬりつけて焼けば田楽。野菜や魚だけではない、鶏肉、豚肉、牛肉などと使いみちはいくらもあるが、必ず素材に火を通してから表面にぬり、わずかに焦げ目が付く程度火を通すことである。
 練り味噌は冷めて時間がたつと固くなるので、だし汁が理想であるが、玉酒(酒と水を同量合わせたもの)などで程良くゆるめて用いる。
 若い方には、マヨネーズ、バター、トウバンジャン、おろしにんにくなど、適宜加えるなど、工夫次第で味はどんどん変化してゆく。
 ワンコイン前後でなんでもあるが、手作りに勝る味はない。味噌は健康に良いこと忘れないでほしい。