味つづり〈91〉 倉橋 柏山
和食のすすめ私は結婚以来48年和食一辺倒であるが、やがて日本の家庭から和食が消えるのではと嘆く声も聞く。言わずもがなであるが、それは、若者たちの欧米食の嗜好が年々増大しているからである。
和食とは、ご飯を食べるための汁と菜。つまり一汁三菜が和食の基本型である。一汁三菜とは、ご飯と汁物に香の物。主菜が魚の焼物なら野菜や根菜、大豆製品などと取り合わせた煮物、青菜のお浸しなどの副菜が付いた食事のことである。が、和食の定義は広く、とんかつにご飯と味噌汁。カレーライス、鮨や麺類、餅などと和食の世界はとても広い。
茶懐石も、一汁三菜が基本である。三菜とは、向付(刺身に類似したもの)、煮物椀(具沢山の清し汁)。それに焼物。焼物といっても必ずしも魚介類を焼いたものとは限らない。箸洗いと八寸、香の物が出されて一汁三菜という。飯は菜に入らない。
昭和55年(1980)代まではお袋の味と呼ばれる和食が日本の家庭にあった。それ以後、日本人の食生活は急速に欧米型と呼ばれる肉類を中心にした食事に変わった。
日本人の主食は米といわれてきたが、米の摂取量が著しく少なく、内食(家庭で作って食べる食事のこと)が減った。それに引きかえ、中食や外食(弁当や店で食べるなど、家庭で調理せずに買って食べる食事のこと)が多くなった。
私は今春、50人と40人ほどの会で食の話をする機会があり、今朝、和食(ご飯と味噌汁を中心にした食事)を食べた方はと聞いたら、いずれも2割に満たなかった。朝食を食べなかった人もいた。
昨年11月だったと思うが、TPP問題の農業委員会の国会質問で、安倍総理は「今朝、何を食べましたか」という野党議員の質問に、「温かいピザを食べました」と答えていた。
朝はトースト、ベーコンエッグ、サラダとコーヒー、パスタ、ハンバーガーなどが圧倒的に多く、この傾向は若者になるほど顕著で、朝食抜きも少なくないようである。
私は79才になる今日まで一日として入院加療はなく元気であるのは、粗食な和食の賜物と思っている。それに適度の運動が功をそうしているようだ。
肉や油脂類と共に、バランスの良い栄養豊かな食事は人間生活に欠かすことはできないが、偏りすぎた食事も良くない。
日本人には、日本人の体に合った食事がある。それは世界無形文化遺産にもなった和食である。200gもあるとんかつ、600gのハンバーグやステーキなど週に何度も食べる必要があるのだろうか。
ポテトチップを山ほど積み、鶏のから揚げでビールをがぶ飲みする。
朝からカップラーメンに菓子パンなどの若者を見るが、朝は温かいご飯に熱い味噌汁。青魚の塩焼きや干物、納豆、青菜のひたし、五色豆、しらすおろしと朝食向きの体に良い惣菜がいくらでもある。
私の50年近い体験から、朝食をしっかり、それも和食を食べることをお勧めしたい。
朝、味噌汁が面倒だと聞く。確かにかつお節でだし汁を引くことは手間がかかるが、夜、頭と内臓を取り除いた煮干しを、昆布と一緒に水に浸しておく。これからは暑くなるので、冷蔵庫に入れておくだけで良いだし汁が出る。カットわかめと豆腐を加え、味噌を溶き入れ、ひと煮立ちで旨い味噌汁になる。これすら面倒なら休日に、乾煎りした煮干し、昆布、干し椎茸をフードプロセッサーにかけて味噌に混ぜ込んでおけば、お湯に溶き入れてひと煮立ちで旨い味噌汁が飲める。インスタントよりははるかに旨く、体に良い。煮干しぎらいはかつお節を用いるとさらなる美味を増す。
健康で長寿を願うなら30分早起きしてキチンと朝食をとることである。健康長寿は一朝一夕で勝ち取ることはできない。毎日の積み重ねである。