味つづり〈83〉 倉橋 柏山
枝 豆
「月見豆母は好みて供へけり」 神谷 編集子月見豆は書くまでもなく枝豆のことである。枝豆は十五夜の名月に供える風習があり晩夏から秋が本来の旬である。
もとは水田の畦を利用した畦豆を莢の青い状態、つまり未熟の豆を莢が枝の節にぶら下げて根を付けたまま引き抜いた。成熟しない大豆の青い莢が枝に付いていることから枝豆と呼ばれるようになった。
枝豆用の大豆種子は、北海道の早生大豆を用い、品種改良によって極早生の栽培。路地物からハウス栽培といろんな品種が枝豆用に作られるようになり、本来の枝豆の季節に枝豆が店頭から消える時代になった。
枝豆にはタンパク質のほかにビタミンA、C、カルシウムが多く含まれるのでアルコールの酸化をうながし、肝臓や腎臓になんの負担もかけないのでビールのつまみには最適であるが、消化があまりよくないので食べすぎないことである。莢にうぶ毛状の短いとげがあるので、すり鉢などに入れ、粗塩をふりかけてこすり取る。鍋に湯をたっぷり沸し、塩を加えて茹でる。ふたをして茹でているのを見かけるが、ふたはしない。好みもあるが、やわらかに茹ですぎないこと。ざるにあげて、うちわか扇風機で急激に冷ますと、彩りも良く歯ざわりのよい固さに仕上る。色良くするため氷水に入れる。と書かれる本もあるが、水っぽくなるので禁物である。
仙台の名物に、ずんだ餅がある。枝豆を茹でて莢から取り出し、薄皮をむいてすりつぶし、つぶつぶが残る加減にすりつぶすのがコツ。砂糖と塩少々を加えて調味する。搗き立ての餅やしんこ餅にまぶしつける。本来は、八月の旧盆に作るものと決まっていたそうだ。冬の物産展で冷凍のずんだ餅が売れ、興醒めする。
茹でて莢からはじき出し、山葵醤油をからめる。西京味噌に卵黄と辛子を加え、醤油を極く少量落して枝豆と和える。又、マヨネーズに柚子こしょうを加えて和えるなど、手軽に気のきいた酒のつまみが出来る。
刻み茗荷、枝豆、桜海老と一緒にかき揚げにする。軽い塩味はビールに最適である。
我が家では、孫が枝豆飯を好きでよく作る。水加減した米に、昆布、酒を加えて塩味をつけて炊飯する。最初から枝豆を加えてよいが、彩どりをより良くするなら、ふきこぼれる頃合で昆布を取り出し、そのあとに枝豆を加えて炊きあげる。
ガーゼの袋に枝豆を入れ、ぬか味噌床に漬ける。味噌や醤油、たまり、塩麹など工夫次第で乙な味を楽しむことが出来る。
すりつぶした枝豆に粉チーズ、又は溶けるチーズ、卵黄を各適宜合わせて塩味をつけて鶏笹身にぬりつけて焼いてもうまい。
すずきなどの白身魚の切り身に軽く塩と酒を振って三十分ほどおき、表面をふいて焼き、ずんだ衣をたっぷりとぬりつけて火を通す。緑色の彩どりの良い焼き物が楽しめる。ずんだ衣はすりつぶした枝豆に卵白か卵黄をつなぎに加えて塩味をつける。
薄皮をむいて枝豆をするのは手間のかかることであるが、フードプロセッサーなど手軽な器具を利用すれば簡単である。
枝豆のすり流し汁は涼味があって口あたりがいい汁物である。
枝豆を滑らかにすりつぶす。だし汁を火にかけ、酒と塩で調味する。すりつぶした枝豆を加えてカタクリ粉でとろみをつける。汁物であるからカタクリ粉のとろみはほどほどに。中に入れる具は小角切りの豆腐。玉子豆腐なら申し分なく相性良く旨い。西京味噌で調味するという方法もある。
冷たくして素麺にかけて溶き辛子かおろし山葵の薬味で食べる。
羹もので汗を流して食べる暑気法もあり、熱いずんだ素麺もいいだろう。料理は、旬の物を旬の時期にたっぷり味わって一年まつことである。