平成24年度生衛振興推進事業
本格的な分煙時代に対応した店づくり 分煙対策推進事業 調査研究報告書(要約)
平成24年度生衛振興推進事業(分煙対策推進事業)として、『本格的な分煙時代に対応した店づくり』に関する調査研究報告書を作成しました。調査研究にあたりましては、各都道府県の飲食業組合の皆さまに、アンケートのご協力をいただきましてありがとうございました。
店舗環境づくりを考える際の参考にしていただければ幸いです。調査名称/受動喫煙および禁煙・分煙対策に関するアンケート
実施期間/平成24年9月〜12月
実施方法/都道府県組合へ郵送を行い、各組合における研修会場において集合調査を実施
対 象 者/飲食店経営を行う組合員35,000名
回 答 者/11,540名
回 収 率/32.9%
実 施 者/全国飲食業生活衛生同業組合連合会
アンケート調査結果より1. 受動喫煙防止対策が10年間で20%以上促進
●完全禁煙の飲食店が10倍に増加
●対応が難しい完全分煙全飲連が実施した受動喫煙に対するアンケート調査を、平成15年の健康増進法施行前、施行直後、今回の平成24年度調査で比較すると、受動喫煙防止対策を何もしていない店は、88.8%(施行前)、81.6%(施行直後)、65.1%(24年度)と減少し、約10年間で20%以上の店舗で対応が進みました。
完全禁煙の店舗も、1.3%(施行前)、1.6%(施行直後)、12.8%(24年度)となり、10年間で10倍程度の増加が見られました。
一方、完全分煙化した店舗は、2.1%(施行前)から3.9%(24年度)と伸び幅は小さく、完全分煙は、店舗面積や改装費負担などの面から、対応が難しい状況が浮き彫りになりました。
不完全分煙は、2.9%(施行前)から16.2%(24年度)と5倍以上に伸びており、何らかの対策はしなければならないという店舗経営者の意識が見られます。
完全禁煙、不完全分煙ともに、大規模な改装は必要ないことが共通しており、受動喫煙対策を行うなら完全分煙にするよりも、完全禁煙にしてしまったほうが費用もかからず、店のポリシーを強く打ち出せると言えそうです。
不完全分煙または未対応とする店の中でも、「店内禁煙」とはうたっていないが店内に灰皿を置いていないため、実質的に店内が禁煙になっている店も見受けられます。客の側から進んで店外で喫煙をするケースもあり、禁煙化の流れは調査の数字以上に進んでいるものと考えられます。
2. 食事のときは禁煙が主流に
●レストランは分煙対策が7割弱に
●酒を出す店も対策でグレード感食事中心の店では分煙対策を行っているのが44.9%、酒を主体とした店では12.5%と大きな開きが見えています。
業態別の分煙対策では、レストラン66.9%、麺類46.8%などで進んでいます。不完全分煙、未対応の店でもランチタイムなど混み合う時間帯は禁煙にしている状況が見られ、食堂のような大衆店でも35.7%が対策を行っています。食事の時は喫煙者も周囲に配慮してタバコを吸わない習慣を啓蒙しています。
一方、対策率が低いのはスナック8.4%、バー19.2%、居酒屋20.5%となっており、酒を出す店では、なかなか対応が難しい現状となっています。宴会の時には禁煙にするのが難しいと考えている経営者もいます。居酒屋、バーでは完全禁煙、完全分煙に踏み切っている店もあり、対策が進んでいる店、客の健康を考えている店として女性客を集めることに成功しています。スナックのように男性客を中心とした店は、禁煙対策が進んでいないようです。
レストランのように店の格が考慮される業態、食堂、麺類店などのように回転率が高く滞在時間が短い業態は禁煙化が取り組みやすく、酒を出し、滞在時間が長い業態は対策がとりにくいようです。ファミリー客をターゲットにしたレストランでは、対策によって子連れ客の獲得につながっています。
3. 分煙対応は西高東低の傾向も
分煙への対応を地域ブロック別に見ると、全面禁煙・完全分煙・不完全分煙を合計した店舗数の割合は、北海道・東北から東海・北陸までの東日本は、おおむね30%前後。近畿が36.4%、九州が38.4%で高い比率を示しており、中国・四国が27.5%と低いものの、西高東低の傾向が見られています。
全面禁煙を採用している店も、近畿、九州で多く、東海・北陸が続いています。完全分煙は、大きな地域差はなく、北海道・東北、近畿がやや高い比率を示しています。
中国・四国は不完全分煙が最も多く、対応率もやや低い数値となっていることから、今後、全面禁煙・完全分煙への動きが拡大していくものと考えられます。
4. 売上面ではマイナス評価
●「客が来なくなる」危機感も
●最も集客効果が高いのは完全分煙完全禁煙にした148店舗では、売上増につながった11.5%、売上減少20.2%、プラスマイナス両面48.6%。
完全分煙にした45店舗では、売上増につながった13.3%、売上減少15.5%、プラスマイナス両面57.7%。
不完全分煙にした187店舗では、売上増につながった1.0%、売上減少8.0%、プラスマイナス両面65.2%。
受動喫煙防止対策を行った店では、売上にプラスマイナス両面の影響があると考えている店が多勢で、売上増になった店は1割程度にとどまりました。
「禁煙にすると客が来なくなる」と危機感を持っている経営者もいます。今回の調査全般を見ると、客や売上の減少は分煙対策の有無に関わらず10%程度は指摘されているので、分煙対策が客足に影響している事実関係は疑問に思われます。むしろ、対策によって客が増加した店が10%以上あることを重視すべきでしょう。
喫煙する人も、喫煙しない人も集客できる完全分煙は、改装費もかかりますが、客の増加に結びついていると見ることができます。
5.「禁煙」の店づくりが進む中小規模店
店舗規模が大きくなるほど、分煙対策が進む傾向にありますが、完全禁煙率が最も高いのは、「21〜50坪」16.1%となっています。「11〜20坪」も13.0%が完全禁煙に踏み切っており、完全分煙にしてフロアを分離するよりも、店内禁煙を選択しています。喫煙者を閉め出すのではなく、屋外等に喫煙場所を設置している店もあります。禁煙によって、店のポリシーを客に伝え、客の理解を得やすい店舗規模、経営規模と考えることもできます。
一方、タバコが吸える店をアピールすることで、喫煙客が集まり、集客につながった店もあります。
いずれにせよ、店の考えをしっかりと打ち出すことは、客から支持される傾向にあると言えるでしょう。
6. まとめ
●喫煙に対する表示が重要分煙対策を行った理由として、時流であることの他、「客からの要望」が上げられています。また対策ができない理由にも「タバコが吸えないのか」と客から言われたことが上げられています。喫煙しない客、喫煙する客、どちらも来店するのは自明であり、店の姿勢が問われる時代になったと言えるでしょう。
健康増進法の精神に則り、飲食店として分煙の対応をする必要性を感じているものの、客離れと改装費などの懸念は拭いきれない調査結果となりました。
日経レストランの調査になりますが、喫煙者、非喫煙者ともに、タバコが吸える店か、禁煙の店か、来店前、入店前にチェックする客が6割になっている傾向が出ています。分煙対策の有無によって、店が客に選別される時代になっています。
喫煙しない人は、もちろん禁煙環境を歓迎するでしょうし、タバコマナーが進んだ今の時代において、喫煙者も、どこでもタバコを吸えるとは考えていません。迷惑をかけずに安心して吸える環境を求めています。
店の入口に喫煙の可否を表示したり、インターネットの店舗情報でPRするなど、情報提供することが大切です。
分煙対策を施設面で進めることは最も重要ですが、店の入口に喫煙についての情報を表示することは、喫煙者、非喫煙者ともに安心して入れる店づくりとなります。選ばれる店になり、喫煙に対して意識を持った質の高い顧客を集めることにつながります。
完全分煙を行っている店は、助成金制度を活用している比率が高く、12.0%あり、集客効果も含めて、制度利用を促進することが大切と考えられます。
第一歩の取り組みを進めるPRステッカー
全面禁煙、完全分煙を実施するには、店舗面積、売上面への影響、設備投資への懸念などが壁になっています。比較的、簡単に実施できる対策として、禁煙タイムの実施、不完全分煙の喫煙席、禁煙席の設定が上げられます。間仕切り等を設けずに禁煙席を設けても、受動喫煙を防ぐ効果はあまりありませんが、分煙への取り組みの第一歩を踏み出すことができます。店舗の入口等に、分煙、ランチタイム禁煙などの張り紙をして、お客様に知らせることが重要です。
自治体などでは、受動喫煙防止対策としてPRステッカーに取り組んでいる例も多く、利用することができます。■兵庫県
平成24年3月の「受動喫煙の防止等に関する条例」制定と施行規則の改正に併せて、施設の対応に応じた表示用ステッカーを作成、無償配布しています。禁煙、分煙、喫煙区域、時間分煙、喫煙の5種類が用意されています。■神奈川県
積極的に受動喫煙防止対策に取り組む特例第2種施設(100u以下の飲食店など)をサポートする「条例協力店」の取組みを行っています。取り組みをウェブサイトで紹介しています。■東京都
「飲食店の店頭表示普及対策」
平成21年より、東京都福祉保健局はお店の対策に合わせて貼れるステッカーを配布しています。区市町村、保健所、飲食店関係団体の協力により、ステッカーとリーフレットを一緒に都内の飲食店に配布しており、都内の飲食店が、店頭表示を希望する場合は、申込により入手できます。■大阪府
大阪府は受動喫煙防止対策推進のため、禁煙ステッカーを配布しています。府のホームページで、「全面禁煙宣言施設」として店名と住所を公表し、PRを行っています。
大阪府内では259店の飲食店が全面禁煙として登録されています(平成24年10月現在)。■山形県
「きれいな空気でおもてなし」受動喫煙防止対策推進キャンペーン
飲食店などの民間施設で対策が進んでいないことから、受動喫煙防止対策を実施している民間施設にキャンペーンステッカーを交付し、利用者に対してきれいな空気を提供している施設であることを知らせます。■茨城県
「禁煙認証制度」
受動喫煙防止のため、禁煙の取り組みを行っている施設を認証しステッカーを交付します。施設の入り口などにステッカーを掲示することによって、利用者が受動喫煙を受けない施設かどうか「見てわかる」ことができます。■千葉市
「受動喫煙防止対策」
飲食店や事業所等の施設の受動喫煙防止対策を推進するため、「全面禁煙」「時間禁煙」「空間分煙」の3種のステッカーを配布しています。ステッカー協力店をホームページで紹介しています。■豊中市
「受動喫煙防止対策推進事業」
豊中市では、禁煙に取り組むお店や事業所に対し、無料で禁煙表示ステッカーを配布しています。■神戸市南京町商店街
2011年5月より「分煙タウン化」を進め、入店前にお店の喫煙環境を知らせる喫煙ルールステッカーの貼付、来街者の誰もが利用できる喫煙所の設置、喫煙所の位置と各店の喫煙環境を明示した分煙マップを配布しています。街路を禁煙にし、街区に設けられた禁煙ルームは好評で集客と顧客満足度アップにつながり、先進的な商店街の取り組みとなっています。
タバコへの対応で「店が選ばれる」時代に
人が集まる場所は「禁煙が当たり前」となり、飲食店も例外ではありません。レストランなどは、入店時に、禁煙席か喫煙席かを問われることは普通のことです。まちの食堂もランチタイムは禁煙にし、快適な食事時間を提供しています。タバコのマナーも普及しており、むしろ、禁煙や分煙などの対策がとられていない店は、お客様へのサービス意識が低い店といった評価を受けかねません。店の味や雰囲気は、お客様に選ばれる最も大きな要素ですが、「タバコ」に伴う快・不快も、店を選ぶポイントに上がってきています。
健康増進法による禁煙の取り組みに合わせて、喫煙できる場所の提供も都市機能として必要であり、禁煙だけでなく、設備を整え安心してゆったりタバコが吸える店という選択肢もあります。路上喫煙が禁止されている街区も増えており、喫煙空間を提供し、わかりやすく誘導することは、街区全体の環境向上、集客にもつながります。
受動喫煙防止対策が進む中、飲食店は、対応が遅れている業態として指摘されることもあります。タバコへの対応を受け入れる社会的な素地は十分に醸成されており、飲食業界として、対策を進める姿勢を示すことは、お客様の信頼につながります。
飲食店の経営環境は依然厳しいと言えますが、日本フードサービス協会の調査で、2012年の外食産業の売上は2年ぶりに前年を上回り、前年比101.6%となっています。受動喫煙防止対策を進め、自慢の飲食を、快適な店舗の中でお客様に楽しんでいただくことが、お客様に選ばれるポイントになる時代になっていると言えるでしょう。