味つづり〈75〉 倉橋 柏山
         
う な ぎ 煮 麺  
   

 私は夏太る。だからというわけではないが、猛暑で汗だくだくでも食欲が減退するということはない。汗を沢山流して体力が消耗するためか食欲が湧く。そのためか夏に太る。
 暑くて食欲がないからさっぱりと冷しそうめんという昼食は好きではない。
 私はラーメン、パスタ、うどん、そばと麺好きで、麺類は何でも食べる。当然そうめんも好きである。が、冷しそうめんは少々物足りない。
 ガラス鉢に水を注ぎ、氷をたっぷり入れた中に浮かす冷しそうめんは、つゆに浸しても水っぽく、やわらかに伸びて旨くない。
 特に機械打ちの細いそうめんは腰が弱く、伸びが早い。手延べの太目が好きである。今日天日干しは少ないようであるが、そうめんは冬季に作り、天日で乾燥させる。箱に入れて梅雨明けまで倉庫で保管する。こうすると油臭さが取れ、そうめんが枯れて独特の触感を持つ。
 半年ねかせることを「厄」を行うという。手延べそうめんは、小麦粉を食塩水で練り、食用油をぬって引き伸ばして乾燥させる。手延べそうめんは二年物が最も旨い。
 味は個人差があるので、断言出来ないが、私の好みは、手延べの太目をやや固めに茹でて冷水で手早く充分にもみ洗いする。そしてやや辛目のつゆで食べる。これなら冷やしそうめんも好きである。
 暑い日盛り、熱い煮麺で汗をだくだく流すのが好きである。
 うなぎをぶつ切りにして素焼きにする。程良く焦げ目を付けて焼き、中骨を抜く。だし汁にみりんと酒を適宜加えて火にかけ、淡口醤油と塩少々で調味する。焼いたうなぎと葱を加え、ひと煮立ちしたら固めに茹でたそうめんの水気をきって加え、煮立った頂点で火を止める。器によそって熱つあつを食べる。薬味は粉山椒、七味唐辛子、柚子こしょうと好みで用いる。精がついて食べても旨い。生きているうなぎを求めて焼くのは無理な方は、市販のかば焼きを用いる。味はかなり異なる。
 穴子は夏が旬。穴子を用いても旨い。開いた穴子を素焼きにして食べよく切り、椎茸と一緒に煮て、刻み三つ葉を振り入れる。
 夏の美味に鮎がある。軽く塩を振って焼く。頭や骨までやわらかにするには二時間以上煮含める必要があるが、鮎の旨味を程良く残すには15分ほど弱火で煮る。干し椎茸をもどして加えると旨味が増す。茹でて充分に水気をきったそうめんを加え、ひと煮立ちで火を止め、器によそって刻み蓼の葉を薬味に用いる。蓼がなければ葱か茗荷。何か薬味はほしいものだ。当然、この場合は内ぞうをつけたままである。
 鮎とそうめんを取り合わせた、茶懐石の椀盛がある。この場合の鮎は三枚におろして素焼きにする。椎茸と一緒に下煮にして熱くしておく。茹でたそうめんも吸い地にくぐらせて熱くする。熱湯で温めたお椀に、充分に汁気をきった熱いそうめんを盛り、鮎と椎茸、蛇の目瓜を彩どりよく添え、熱つあつの清し汁をたっぷり注ぎ、へぎの柚子を吸い口に浮す。大ぶりのお椀に、そうめんを多目に用いれば小昼食にもなる。暑いときの羹で汗を流すのも暑気払いの一つである。
 暑いときに油を使った料理はきらわれるが、食べるとことのほか旨い。熱くした煮麺を器に盛り、白身魚か鶏肉にカタクリ粉をまぶしてカリッと油で揚げ、熱いそうめんにのせるとジュッと音をたてる。刻み浅月と紅葉おろしの薬味で食べる。実に旨い。というより私の個人的な好みで書いている部分が多い。
 そうめんを固目に茹でて油で炒める。油はバター、オリーブオイルと好みで用い、ゴーヤの薄切りと、細く切ったベーコンと一緒に炒め、塩、コショウで味をつけ、温泉卵をのせ、ラー油、とうばんじゃん、柚子こしょうなど、好みの薬味。味付けも味噌、醤油など好みで調理する。