平成23年度 東北・北陸ブロック 講習会 
「一般飲食店における省エネ対策について」より
これからの日本人の食を支える
飲食店への期待  
食品廃棄物の見直しから
 講師:北陸新聞社論説委員 野口 強 先生

大災害の後の飲食業界の変化

 大きな災害が起こった後は、日本人の食生活やそのスタイルが大きく変わる節目となりやすいものです。
 「大衆食堂」が大きく国民生活に浸透していったのは、大正12年の関東大震災が転機となっています。戦乱の中で各地に米騒動が勃発し、急激なインフレで生活が苦しいときに、それまで蕎麦は蕎麦屋、天ぷらは天ぷら屋と専門化していた飲食業界に、安く食事ができる「大衆食堂」が登場し、東京の神田を中心に広まりました。人々の生活が困窮を極めていったときに、安くて多品目のメニューを扱う食堂は、昼飯時は大賑わいだったといいます。
 東日本大震災の後に、食生活がどのように変わっていくのかはわかりませんが、被災した地域はもちろん、被害が少なかった地域でも、省エネ・節電型のライフスタイルを意識する機会が多くなったことは間違いありません。経費節約や無駄をなくすエコサイクルの方向に向かっています。

省エネを推進し「見える化」で継続

 水道代、光熱費、電気代などの必要経費を節約するのが効果的です。一般的な飲食店(居酒屋)では、二酸化炭素排出量の8割方が電気で、そのうちの4割が厨房機器、3割が照明、2割が空調です。
 日本全国、節電傾向を受け、いろいろなお店で照明を見直すところが増えてきています。震災による節電対策として真っ先に取り組んだこととして、看板や店内の照明の見直し、一番多いのは電球をLEDに切り替えたというのが全体の約60%になりました。LEDは60ワットで消費電力が普通の電球に比べ、6分の1。まだまだ値段は高いですが寿命が長く、生鮮食品の鮮度を保持する効果もあり、東京電力、東北電力の管内を中心に飲食店の間で広がっています。
 外食チェーンの「ワタミ」では、国内にある200店舗を超える全ての店舗でLEDに変え、年間約1億円もの電気代を節電できると見込んでいます。また、コンビニの「サークルケーサンクス」は6月から東電・東北電力管内の600の店舗で店内照明をLEDに変えて電力費用を削減しています。
 冷蔵庫の開け閉め100回を50回にすると15%も電力消費を削減できます。冷蔵庫では17%。冷凍庫では27%削減でき、給湯器の場合でもお湯の温度を45度から40度に下げた場合、1日4時間の使用で2,800円の節約になります。
 こうしたことをひとつでもふたつでも実行すれば、かなり省エネになりますが、持続するための秘訣として、その成果の「見える化」をおすすめします。データを見えるような形にしていくというのが重要です。

「食品ロス」の軽減も高い省エネ効果

 次に、食べ残しを含めた食品の廃棄物を少なくする「食品ロス」についてです。日本の食品廃棄物は年間およそ2,000万トン。この量は、年間の食糧援助量の実に3倍。ですから、世界の食量事情は、日本が食品廃棄物の見直しをすれば解決できるのではないでしょうか。地球温暖化という面でも、廃棄物処理の負担を軽減することで省エネにつながっていきます。
 役所ではマニュアルを作り、1つには、ロスをなくすためにお客に好き嫌いや量を相談し、オーダーメイドのような形で提供する。あらかじめ来店者の情報を元に予測して仕込みをするなどの取り組みを促しています。言うは易く、実行は難しいかもしれませんね。また、お客さんにも食べ残した自己責任があり、品質的に問題がない食べ残しについては持ち帰ってもらう。これについては、行政が規制しているところもあり、北陸や富山では飲食店の協力を得て、紙パックを渡してそれに食べ残しを入れて持ち帰ってもらう「食べ切り運動」を行なったところもあります。こうした地道な活動を続けることこそ大切で、継続は力となっていくはずです。

家庭が担ってきた食生活の変化

 次に、家庭での食生活が、著しく外食産業の動向に反映するというお話をします。先ほどの食べ残しの例で言えば、外食産業、スーパーやコンビニの廃棄物もありますが、一番問題なのが家庭から出るゴミ。日本の家庭の台所から出るゴミが全体の4割を占めています。食べ残しが多いのは、上流に近い中流家庭ということです。
 日本で米を食べる量は、この40年で半分になりました。ここ数年はお菓子を主食にしている傾向がある。朝は、10秒飯のゼリー飲料、昼はシリアルバーなどのバランス栄養食品など。スポーツ選手ならいいですが、栄養を補給するといううたい文句とはいえ、食の分類で言えば、ゼリー飲料は清涼飲料水。シリアルバーなどはお菓子の分類に属する。栄養が取れるといっても腹持ちが良くない。ご飯の代わりにお菓子もどきやサプリメントをかじっている状況こそが、この50年の日本人の食生活で最大で最悪の変化といえます。
 以前、小学校で保護者の研修会を開き、子どもにきちんと朝食を食べさせる重要性を話しましたが、感激した母親たちから「朝食の大切さが本当によく分かりました。学校で朝、給食を出すべきです」との声が上がりました。自分が朝食を作るのではなく、学校を当てにする。こういった家庭の姿勢が食生活の乱れにつながっていきます。
 こうした状況が、飲食業の動向に影響を与えていることは確かです。例えば東京都内の繁華街は和食の定食屋やおにぎり屋が増えています。さらに、吉野家やすき屋、ファミレスなどでも朝の定食サービスがある。
 日常的にお菓子や甘いものや脂っぽいものを摂取しすぎると、反動で日本人の基本にのっとった食事を体がほしがるのかもしれません。
 社会の中で家庭の役割が、徐々に縮小していると感じます。昔から家庭というのは仕事場であり工房であり、その他いろいろな機能を持っていた。それが、文明が進むにつれて、とうとう食生活まで社会にゆだねることになる。家庭で担ってきた役割は、もはや育児だけになってしまったのではないかと思われます。

「社会の台所」外食産業の果たす役割

 そんな食生活をサポートするのは、社会の台所ともいえる外食産業ではないかと思います。そう考えると、飲食店の役割は大きなものになりつつある。100年前の日本の農家と同じような役割を担うような時代になっていくのではないでしょうか。
 外食産業に求められている一つは「地産地消」です。これは、省エネやエコポイントもかかわってきます。「地産地消」の利点は、農薬まみれの外国産に比べ、断然安心で安全な食材ということで消費者のニーズにも合致している。さらに、今日のテーマである「省エネ」についても「フードマイレージ」という言葉もありますが、生産物を遠方から持ってこなくてもいい、あるいは遠方にもって行かなくてもいい。ガソリンなど、二酸化炭素の排出などを抑え、省エネや節電につながります。力を入れて取り組めば、一石三鳥にもなる。
 それに加えて、飲食店の役割は、家族や友人との団欒をつくることだと思います。今では、一つ屋根の下に住んでいるとはいえ、家族は一種のホテル状態にあるといわれています。子どもでも親でも帰ったら部屋にこもってパソコンやゲームをする。帰る時間もバラバラで、食事をとる時間もバラバラ。そんな状況を改める意味で、外食というものは家族団らんを演出するきっかけになってくれます。「地産地消」の美味しい手引きなどで、家でも作ってみようかな、ということで家族のあたたかい対話や絆が生まれる。そんな手助けになるのではないかと思います。今では、私も1日に1回は外食をすることが当り前になってしまいましたが、子どもの頃は外で食事をすることなど考えられず、「外食するか」といわれると、嬉しくて眠れなかったものです。
 震災の影響もあり、外食産業をとりまく経済状況というのは、少しずつ持ち直してきているとはいえ、厳しい部分だと思います。しかし、日本人の食を支え、家族のコミュニケーションを演出するなど、飲食業の担う役割が拡大している中、飲食店の皆様にはそのやりがいを意識しながら、本業に励んでいただけますようお願いします。