味つづり〈61〉 倉橋 柏山
        
美 味 な る 里 芋 の 一 種 

 京都の郷土料理に、棒だらと海老芋を炊き合わせた「芋棒」という旨い食べ方がある。
 海老芋は京野菜の特産にもなっている里芋の一種である。
 江戸時代中期の安永年間(1772〜81)に、青蓮院に仕えて菊栽培をしていた平野権太夫が、宮様が長崎から持ち帰った唐芋(トウノイモ)を栽培したら、京都の土地に合ったのか大きく美味しく育った。
 海老のように湾曲した形で、肉質は粉質状のきめこまかでちみつな美味しい芋で、九条芋と呼ばれたが、形からくるネーミングが強く、今では「海老芋」の名で流通する。
 棒だらは干鱈のことで、マダラ、スケトウダラを開いてカラカラに干しあげたものである。
 棒だら(干鱈)は米のとぎ汁を毎日替えながら5〜7日間米のとぎ汁に浸してもどし、良く水洗いをして茹でる。好みの食べ良い大きさに切り、濃厚なかつお節のだし汁に入れ、醤油、砂糖、酒で調味してじっくり煮含める。
 海老芋は皮をむいて、大きい(350g前後ある)ので食べよく切り、出来れば米のとぎ汁で茹でて、お湯でさらし、水気をきって棒だらに加え、芯まで味が含むほど弱火で煮含める。
 海老芋は蒸して塩を振って食べてもホクホクと甘味があって旨いほど、素材自体に旨味がある。芋棒を旨く煮上げるコツは、干鱈のもどし方と茹で方である。やわらかに茹でて、砂糖、醤油は2〜3度に分ける。じっくり時間をかけ、海老芋はあとから加え、20〜30分で煮含める。芋にひび割れが出来、芯まで味が含んでいると大変美味しく、味はやや濃いめにする。
 本の受け売りであるが、京都では毎月15日に芋棒を食べる商家の風習であったそうだ。
 海老芋の出回る季節は11月〜3月頃である。里芋で代用しても美味しいものである。
 海老芋の黄金揚げという食べ方もある。海老芋は食べよく切り、茹でてさらし、八方地(だし汁8、酒、みりん、淡口醤油各1の割合)で煮含める。汁気を良くふきとり、黄身衣をつけ、油で彩り良く揚げる。黄身衣は、天ぷらの衣に、黄色に色が付く位、卵黄を多目に加えたものである。一寸塩を振って食べると旨い。
 海老芋は京都の他、大阪、静岡などの各地でも栽培されるようになり、大きさや味が、栽培地によって異なるので、味付けも各自好みで。八方地は大方の目安と心得てほしい。
 八方地で煮含めた海老芋を、うに衣やこのわた衣で焼くと、おつな味になる。当然、田楽風に練り味噌、胡麻味噌、柚子味噌などをぬって囲炉裏でじっくり焼く。茹でた芋に串をさし、味噌をたっぷりぬって炭火で焼けばことのほか旨い。
 鰊と炊き合わせる方法もある。身欠にしんは米のとぎ汁で3日ほどもどし、ウロコや腹骨を取り、だし汁に移し入れ、酒を多目に加え、砂糖と醤油でやや甘辛く煮含める。惣菜的には、海老芋を鰊と一緒に煮含めるとよい。
 海老あんをかけるという方法もある。活の車海老が最上だが、海老は皮をむいて、背わたを取って切り、包丁で叩く。だし汁を鍋に入れ、酒、塩、淡口醤油で、色が付かない程度に調味する。叩いた海老を加え、箸で海老をパラパラにほぐし、火にかけ、煮立ったら水溶きした葛粉か、カタクリ粉でとろみをつける。八方地で煮含めた海老芋の汁気をきって器に盛り、熱々の海老あんをかけ、木の芽か、溶き辛子を天盛りにする。
 海老芋はほっくり、むっちり粘り気があって素材自体に旨味がある。それに美味しい海老あんをかけるのであるから、まずかろうはずがありません。海老の他、鶏肉、合鴨の肉を海老と同じようにミンチ状にして用いても美味しいものです。