大塚 徹先生の紙上セミナー 飲食業は人肌ビジネス
キーワードはぬくもり・温かさ・親切さ・やさしさ
講師:日本ヒューマン経営研究社
代表取締役 大塚 徹氏時代を捉え、お客様ニーズを把握
たくさん食べられる店→美味しい店→あの店
商売をしていく上で大切なことの一つは、「時代を見る目」を持つこと。時代を見る目と、時代を活かす力がなければ時代の移り変わりとともに、ずれが生じます。
私は昭和15年生まれ。我々の時代は食べ物がなく、いつもお腹がすいていましたから、たくさん食べさせてくれる店が良い店でした。団塊の世代は、経済的にいくらか良好になり、美味しい店を求めるようになりました。そして次の時代は、食料が豊富になり、食べたいものをたくさん食べられました。現在は、食べたいと熱望するものがほとんどなくなった飽食の時代。“今日何を食べたい?”と聞かれても、これというものが浮かばない。それと伴にファミリーレストランの衰退が始まりました。
お客様の生活が良くなり、お客様が家で使っている食器のほうが、飲食店の食器よりも良い場合も多く、全国各地からおいしいものを手軽にお取り寄せして食べることができます。コンビニが流行り、お弁当、おにぎり、サラダが売れています。ファミレスでは、もう家族や子どもたちも喜びません。
“あの店に行きたい”の“あの店”というのが曲者。美味しく、雰囲気がよく、サービスがいい、満足させてくれる店。自分のところは、こういう考えで飲食店をやっているというしっかりした姿勢があり実践しているところは、お客様を引きつけます。●行きたい店はどんな店?
15歳から30歳のお客様2,000人に[どんな店に行きたいか]という内容でアンケートをとりました。
まず「美味しい店」が1番で、「活気のある店」が2番。店主や従業員の動きがいい店。
3番は「親切でやさしい店。思いやりがある店」。繁盛する店はお客様との会話が多く、慇懃無礼でお客様を無口にさせるような店は最悪。「雨の中、よくおいでくださいました。ありがとうございます」「今月から旬のものを取り入れさせていただきました」「お気に召していただけましたか。ありがとうございます」という言葉かけが大事です。
4番は「掃除の行き届いている店」。清潔第一。その店の清潔感を、お店の中でもトイレでもお客様は常に感じています。置いてある醤油やタバスコの容器、爪楊枝の入れ物はきれいでしょうか?
5番は「トイレのきれいな店」。むかしのトイレは、臭い暗い怖い。今のトイレは明るい、居心地がいい、素敵。お香をたいている店や生花を飾っている店がいいですね。あるお店に行ったらバラの花が活けてありましたが、触ってみたら造花。これにはがっかりです。お客様へのサービスですから生き生きしたものを飾ってください。
6番は「店の外がきれい。演出がお洒落な店」。入るか入らないかは、外観で決めがち。初めてのお客様は特にそう。枯れているもの、曲がった額、破れたポスターなどをそのままにしておいてはいけません。ポスターなどを貼るのに、セロテープほど安っぽくさせるものはありません。
7番「食材や調理にこだわりがある店」。いわゆるプロ意識が徹底している店。原産地表示を心がけ、無農薬、有機野菜にもこだわりを持ち、お客様に工夫したもの、手間をかけたものを提供することで、感動が生まれます。
8番「接客サービスの良い店」。お店には店主に似た人が寄ってくるもの。店主とお客様はイコール。その人のレベルに合った人が来る。店主の人間性が素晴らしく、従業員の教育がいいところ、きちんとした接客サービスができている店は、お客様の質もいい。
9番は「店主と従業員の関係のいい店」。お客様はよく見ています。ご夫婦でやっている店は、夫婦円満が売りになります。
10番は「あたたかい雰囲気」。お客様は店内全体を見ています。「安心・安全」の保証は、ますます重要。標準約款のときに色々な問題がありました。今こそ本気になって、真剣に取り組み店の一つの看板にしてほしい。お客様への思いやりのある店は、従業員にも誇りが芽生えます。
お客様の御来店を熱望し、良いことは“徹底”させる
「倹約と節約」の厳しい時代です。忘年会や新年会の予約を取るには、9月からの準備が大切です。やっていますか? 半径500メートルの近隣に宴会を売らずに「縁」を売る。直径1,000メートル圏内を徹底的に守りきる意気込みです。日頃のコミュニケーションがどれくらい図られているかが問われます。商売は30%は毎月新規のお客様を回転させなければなりません。一方ではイベントを行い、もう一方は既存のお客様を徹底的に大事にする。行き届いたサービスによってお客様の口コミでさらにお客様が増えていきます。
●良い客は不満の塊
ところがお店では、お客様の要望を損なってしまう傾向がある。「いい客は不満の塊」といいます。常連客になればなるほど粗末にされがちで、お店が気を使ってくれなくなります。「3人お客様が来るからそっちによって」などと隅のほうに追いやられてしまうことがあります。●価値の違いを利用
スナックなどで、昼からカラオケで営業している店があります。チケット代2,000円で、飲んで食べて歌えて、シルバー層を対象にはやっています。時間が「遅い」ことより「早い」ことが有効で、価値の違いをうまく利用しています。●暗黙の期待を裏切るな
お客様は、暗黙の期待を抱いていることを知りましょう。予約するとき、俺が行けば、私が行けば、こういうサービスをしてくれるだろうという暗黙の期待があります。これがずれたときにがっかりして、腹が立つことさえあります。あの人は総入れ歯だから、料理は食べやすく包丁を入れて出す、座る場所はどこが好きか、肉類よりも魚類が好き、歌はどんな歌が好きかなどなどしっかり把握し、きめ細かく対処しましょう。お客様の心には、気分よくしてくれるだろう、満足させてくれるだろうという期待感があることを肝に銘じましょう。例えば経営者、奥さん、従業員みんなが、いらっしゃいませーと声をかけてくれたら、それだけでうれしいじゃないですか。●経営者は謙虚に。打てば響け!
経営者が大きな顔をしていると、細かなことに気が付かなくなってきます。だめな店はお客様から指摘されるとうるさいという顔さえします。新規のお客様も回転しないで、なじみの客も離れていく。行ってもつまらない。打っても響かない。食材や調理法にこだわりがない。極あたりまえの接客サービス。お客様自身は意識もしないし、不満も感じていないかもしれませんが、こういう店からは自然と足が遠のきます。
逆に気を使ってくれる店。感じますね。気配りのある接客は、オヤッと思います。そして、お客様は少しいい気分になる。大衆食堂に入っても感動することはあります。●飲食業は人肌ビジネス
この店はすごいと感じた接客サービスがあれば、お客様は非常に喜び感動します。家族や周囲にまで口コミをしてくれる。飲食業は人肌ビジネス。人肌のぬくもりがなければだめ。「ぬくもり、温かさ、親切さ、やさしさ」がキーワードです。熱いというより冷たいというほうがはるかに評判が悪い。そこの経営者が、信用できるかできないかは、一目でわかります。それは自分の仕事に対して喜びを持っているかどうか。そういう人は100%信用できます。自分の中に使命感を持っているから、いい加減なことをしません。●切磋琢磨しあって成長できる環境をつくる
いかに高い意欲を持っていても、一人ではなかなか成長しにくいもの。全飲連という大きな組織に入って、繁盛店を経営している人たちとお付き合いして、見習うべきは見習っていく。これが組合員の最大のメリット。相手の期待にしっかり応えていくのが仕事です。●繁盛には徹底を!衰退は不徹底にある
こんな時代でも繁盛している店があります。ある定食屋さんの御主人は、仕込みが終わると外に出て踏み台の上でのぼり旗を振っています。お客様に来て欲しい来て欲しいとアピールしているわけで、それに応えるようにお客さんが多く来店しています。
また、自分のお店だけでなく、その周辺もきれいに徹底的に掃除するお店の御主人がいます。その人柄が好感をもたれ、こちらも繁盛しています。「繁盛には、徹底を!衰退は不徹底にある」です。何事にも一生懸命に取り組むことが大切です。(昨年秋の関東・甲信越ブロックで行われた大塚徹先生の講演会の内容を要約したものです)