クローズアップ 神奈川県の受動喫煙防止条例 受動喫煙防止対策や安心・安全の店づくりには
行政の理解と支援が不可欠!神奈川県が受動喫煙防止条例素案を修正
小規模飲食店を対象から除外神奈川県内の7割の店舗が対象外に
神奈川県は「公共的施設における受動喫煙防止条例(仮称)骨子案」を昨年9月11日に発表しました。 そして12月8日には、その素案を発表、さらに年明けの1月13日には素案の修正について発表しました。
かねてから松沢神奈川県知事は、受動喫煙による健康被害を防ぐことを目的に、「公共的施設における受動喫煙防止条例(仮称)」の制定を目指してきましたが、当初の全面禁煙から大幅に修正した素案を示しました。
松沢知事は会見で、経済状況の悪化で各店舗の営業が苦しくなる中、分煙設備導入などを求めるのは現実的ではないと説明。「各種業界や店舗で進んでいる受動喫煙防止への自助努力の様子を見ながら、実効性の伴うルールづくりが急務だ」と述べました。
神奈川県は昨年4月に、禁煙条例(仮称)の名称で、官公庁や病院などの公共施設のほか、飲食店やホテル、遊技場なども加えて一律全面禁煙にする内容を示していました。しかし、神奈川県飲食業生活衛生同業組合(柳川一朗理事長)をはじめ関係業界から多くの陳情や反対意見が出たことから、昨年9月にまとめた骨子案では条例の名称を変え、飲食店などは分煙の導入も可能にしました。
さらに昨年12月に示した素案では、風営法対象施設は規制内容の整合性から対応が難しいため、条例の成立を主眼に、これら店舗への適用を3年間猶予する措置に切り替えていました。
今回の素案の修正では、風営法対象施設のキャバレーやバー、パチンコ店、マージャン店などを条例対象から外し「努力義務」にするとしました。
また同様に100平方メートル以下の小規模面積の飲食店も同様に対象から外し、当初の全面禁煙から大幅に修正した条例素案になりました。これにより神奈川県内の店舗の7割(約二万六千店)が対象外となります。
松沢知事は修正素案を踏まえた条例案を2月県議会に提案する考えを示し、まずは条例成立を優先させる姿勢を鮮明にしたといえます。受動喫煙防止や分煙は推進しなければならないが、
飲食店の現状は多くの課題が山積神奈川県が条例化を検討している「禁煙条例」は「受動喫煙防止条例」となり、飲食店やホテルなどでは「分煙」を選択できるという内容になりましたが、この「分煙」の内容については、多くの飲食店からは不安感や危機感を訴える声が広がっています。
神奈川県の条例案で「分煙」の条件とされたのは、次のようなものです。
●喫煙区域と非喫煙区域とを仕切り等で分離する。
●喫煙区域にたばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出するための屋外排気設備(換気扇等)を設ける。
●非喫煙区域から喫煙区域に向かう空気の流れ(0.2m/s以上)が生じるようにする。
健康増進法の施行(2003年5月)以降、多くの飲食店で自主的な分煙の取組みが進んできていますが、現状では、この基準を満たした分煙を実施できている飲食店は少ないのが現状です。実現するには費用の捻出負担、店舗面積の制約などの面で、現実的に困難な場合も多いのです。とくに、全飲連の組合員は小規模な個人経営の店が圧倒的に多く、ナショナルチェーンや大手は店舗面積も大きく、資金力もあり対応できますが、小規模零細経営が圧倒的に多い全飲連組合員のお店にとっては、神奈川県の基準はハードルが高いものといえます。
また神奈川県との県境地域の飲食店では、隣接の東京都、静岡県にある飲食店との競合関係もあり神奈川だけが先行する条例制定に不公平感があるとの声も聞かれます。
受動喫煙防止推進のための有効な対策を!神奈川県の条例案は「全面禁煙」から「分煙容認」、そして今回の「素案修正」へと、関連業界の意見や要望を取り入れて修正されてきましたが、我々飲食店側の立場から見ると、根本的な問題はなにひとつ解決されていないのが現状といえます。
店舗面積が100平方メートルより大きい飲食店が即座に全面禁煙か分煙を実現しなくてはならないことに変わりはありません。また、100平方メートル以下の飲食店も、条例が見直しとなる3年後までの「猶予期間」を与えられたに過ぎないわけです。
健康増進法の施行により、飲食店も受動喫煙防止への努力義務が課せられ、消費者やお客様の食の安心・安全とともに、受動喫煙を防止するための有効な対策を推進していくことは我々飲食業界の務めでもあります。
健康増進法の施行以来喫煙している人の「マナー」も随分向上しました。また飲食店を含め分煙が社会の潮流であることは多くの国民が理解しています。問題はそれを現実的にどのような形で進めていくかです。そのためには「分煙」のための改装などの設備投資が必要になるため、小規模零細経営の多い飲食店の現状を見据えて、工事費、人件費、工事期間中の休業による売り上げ減など、経済的な負担への対処が必要です。長期的かつ多面的な視点で
全飲連に加入する飲食店の多くは地域に密着したお店です。顔が見える地域のサロンでもありコミュニケーションの場でもあり、地域の食文化の教育の場でもあります。そういった社会的・公共的な意味をもつ飲食店ですから、お客様が安心して快適に食事ができることは大変重要なことであり、その意味で、原産地表示や受動喫煙防止などにも積極的に取組んでいかなければなりません。
しかしながら、何度も指摘しているように小規模の零細経営の多い飲食店では「お客様が安心して快適に食事ができる店づくり」をしていくには、相当の資金が必要となります。いま飲食店経営を取り巻く経営環境は大変厳しい状況の中で、とくに、受動喫煙防止や分煙対策のために設備や改装費を自己負担することは、極めて厳しいものがあります。行政のさまざまな支援がなければ実現しません。
そういった現状を踏まえて、消費者やお客様に安心で快適な食事やサービスを提供していくことが飲食店の大きな責務でもあるわけですから、行政はもっとしっかりと地域の飲食店の現状や、お客様のニーズを把握して、飲食業界と一体となり、急がず長期的かつ多面的な角度から受動喫煙防止のための分煙対策を進めていくべきだと思います。お客様の安心・健康づくりと食文化の創造
全飲連と飲食業界の課題全飲連では「標準営業約款制度」の推進に取組んでいます。消費者の利益や安全を守る基準をクリアした上で、標準営業約款制度に登録し営業することは、消費者から信頼される良心的な「優良店」と位置づけられます。
標準営業約款登録店は厚生労働大臣が認可した約款を遵守する店です。ですから、約款登録店は、商品やサービスの質や内容が適正に表示されるため、消費者にとっては、安全と衛生が確保されている優良店を選ぶ基準となるものです。
標準営業約款の内容は、その全てが消費者の利益を擁護する事項ですが、とくに、一般飲食店では「アピール食材の表示」「営業施設の自主点検(月1回の自主点検と結果の表示)を必ず実施する」こと。この他、バリアフリー化や受動喫煙防止対策に積極的に取り組んでいること、さらに事故が発生した場合には迅速に対応することが定められ、消費者にとっては、大きな安心と信頼の目印になるといえます。
飲食店はパブリックスペースでもあります。しかし食文化の創造はお店の努力も必要ですが、お客様がお店を選ぶことにより豊かになります。お客様の自由を守ることも大事なことです。お客様者から信頼される良心的な店づくりを進めていくために、全飲連としても自主的に受動喫煙防止対策に取組んでいきますが、一方でお店に「全面禁煙の店」「分煙の店」「全面喫煙の店」という掲示をして、お客様がお店を選べるようにすることも有効な方法であり、その掲示を義務付けるのも一案ではないかという意見もあります。
全ての飲食店を一律に禁煙化することは現実的ではないし、広い意味で食文化を豊かにしていくという視点からも多様な対応があってもいいのではないでしょうか。