味つづり〈55〉 倉橋 柏山
       緑 の 美 し い 夏 の 味
「薄刃もて刻むオクラの糸を引く」 松下 裕子   

 私は食物に関わるエッセイを業界誌紙数社に寄稿している。旬の素材を季節に合わせて取り上げているが、店頭に並ぶ多くは栽培物で一年中出回ると言っても過言でない。
 オクラの旬も本来は7月〜9月頃である。刻むだけで生でも食べられるので、朝、私の食卓に頻繁に出る。句に詠まれるごとく、オクラは粘り気があり、納豆のように糸を引く。小鉢に入れてかき混ぜて粘りを出し、醤油を落としておかかを振りかける。温かいご飯にまぶして食べる。少々青臭い味がするものの、なかなか旨い。刻んで生のまま味噌汁に入れる。手間いらずの菜となり、忙しい朝、主婦にとって手軽でありがたい食材である。
 原産地はアフリカ東北部、エジプトだそうで、日本へは明治初期に入ってきたが、あまり好まれず、普及しなかった。よく食べるようになるのは戦後である。高温を好む野菜で、発芽生育に必要な温度は28度〜30度だそうだ。アオイ科の植物で、花もアオイに似ていて、花弁は黄色で、花心が赤紫の美しい一日花である。すぐに小さなさやを付け、6日ほどで収穫できる。アメリカの改良品種の移入によって栽培が盛んになり、粘り気の強いやわらかい物が出回るが、もとは固くて短くて太いトゲがあったそうだ。緑色の濃い、五角形をした美しい長さ7〜8cmで、ミニオクラと呼ばれる小さくかわいらしいものもある。軸を切ると、切り口が星形をしており、種子を取って料理の彩りとしても用いる。トゲの名残りか、うぶ毛が少々固いので、粗塩を振って指先でこすって料理する。塩を加えた熱湯で茹でて冷水でさらすと鮮やかな緑色になる。茹でても粘り気は消えず糸を引く。茹でて縦2つに切り、種子を取って粗く刻み、ミキサーにかける。すりおろした大和芋を1割ほど加え、もう一度ミキサーでなめらかにする粘り気の強い美味なるオクラとろろになる。そのまま醤油を一寸落として食べても旨いが、すずきやきすの細切りにかけ、山葵醤油で供すると気の利いた夏の逸品となる。そばつゆでのばし、卵黄を落として素麺を食べる涼味も夏の味。
 ゼラチンで固めたオクラゼリーも夏の触感で、水でもどしたゼラチンと合わせて流し缶またははガラス小鉢に注いで冷やし固める。味は付いているものの、レモン醤油、梅肉酢などをかけ、冷えたところを賞味する。マヨネーズを適宜加えて流し固めても涼味がある。
 胡麻豆腐にすりつぶしてとろろ状にしたオクラを加えると美しい彩りになる。油の出るほど良くすった白胡麻に同量の葛粉を加え、6倍ほどの水で溶き混ぜ、裏ごしをして鍋に入れて火にかけ、鍋底をこするように練ること30〜40分、火を止め、とろろ状のオクラを加えて良く混ぜ、軽く塩味をつけ、型に流して冷やし固めて切り分け、美味だしをかけ、おろし山葵の薬味で食べるオクラ豆腐も夏の味である。茹でて種を取ってできるだけ縦に細く切り、いかの細切りと和えて、山葵醤油で食べる。飯の菜にも、日本酒のあてにもいい。オクラの冷し汁も旨い。一番だし汁は吸い地強に調味し、オクラとろろと一緒にもう一度ミキサーにかけて冷たくする。冷えた玉子豆腐、海老、板わらびを椀に盛り、冷えたオクラ汁を注いで、おろし山葵、あるいは摺り柚子を天盛りにする。盛夏のさわやかな冷やし汁である。
 刻んだ子茗荷、小口切りのオクラ、削りおかかを梅肉醤油で和え、温かいご飯にまぶして食べても旨い。
 オクラと小海老をかき揚げにする。丼にご飯を少なめに盛り、熱いお茶をたっぷり注ぎ、塩を振り入れ、茶漬けにして食べる。暑いとき、熱いもので汗をだくだく流して食べる味は、夏の爽快感でもあり、暑さを乗り切る夏の味でもある。