味つづり〈4
9〉 倉橋 柏山

 名前が変るおめでたい魚


 ぶりのあらと大根の炊き合わせという安価で旨い食べ方がある。「寒鰤」の言葉もあり、この季節天然のぶりはことのほか旨い。その最も旨い頭やかまの部分、つまりあらと呼ばれる部分を使って大根と一緒に煮含める。デパ地下や魚屋では切って店頭に並んでいる。たっぷりの沸騰したお湯に入れ、全体が白っぽく色が変ったらざるにあげ、冷水に入れて冷まし、流水でていねいに血合などを洗い取ってざるにあげて水気をきる。大根は分厚く半月か乱切りにして皮をむいて下茹する。ていねいに米の研ぎ汁で茹でてそのまま一晩鍋に入れておき、翌日水洗いすると大根特有のくせも抜ける。ぶりと一緒に直煮という方法もあるが、大根は一度茹でたほうがいい。ぶりも霜ふりは必ずする。いくら鮮度が良くても血合やウロコが付いていると生臭くなる。鍋にぶりのあらと大根を入れ、水10に対し、酒6〜7割位と、酒をたっぷり加えて火にかけ、砂糖を適宜に入れて5〜6分煮含め、濃口醤油とたまり醤油を少量加えて20分ほど落としぶたをして中火で煮含め、火を止める少し前に醤油と生姜のしぼり汁を各少量加えて味の仕上をする。大鉢に盛り、煮汁をかけて柚子のせん切りをたっぷり天盛りにする。私は半日ほど鍋止めして味を充分に含ませ、温めなおして食べるのが好きである。
 ぶりは成長するに従って名前を変えることから出世魚と呼ばれ、鯛と共に大変おめでたい魚でもある。各地によって多少変るようだが、関東で小さいものをワカシ、イナダ、ワラサと変り、重さ8キロ、体長1メートル位の物をぶりという。関西ではツバス、ハマチ、メジロ、ブリと呼ばれる。養殖物はハマチといっている。天然の寒ぶりの刺身は絶品で、一冬一度は食したい味である。脂がのっているのでおろし山葵と一緒に大根おろしを添えたものである。最近は辛味大根が手軽に入手出来るので、辛味大根におろし山葵を混ぜ、濃口醤油の良いものをたっぷりつけて食べる。柑橘類のしぼり汁を濃口醤油に1割位混ぜるとさらに味わい良く、絶品のぶり刺しになる。ぶり照りと呼ばれ、照り焼きも旨い食べ方である。切り身に八分通り火が通ったら、たれをかけて乾かす程度に焼き、これを3〜4回くり返すとほど良く照りも出て旨く焼きあがる。たれは醤油、みりん、酒を各同量合わせて2割ほど煮つめ、はちみつを適宜混ぜる。
 茶懐石などでよく用いる幽庵焼きという素材の持ち味を生かした品位の高い手法もある。醤油と酒とみりんを同量合わせ、この中にぶりの切り身を浸し、輪切りにした柚子と一緒に30〜40分漬けて焼き、焼きあがり際に漬け汁を2、3度かけると焼き色もよく大変美味しい仕上りになる。プロは器に盛って、生姜やかぶの甘酢漬けなどを添えるが、出来ることなら家庭料理にも添えることをおすすめする。見た目の彩どりも良く、口中の脂気をさっぱりさせてくれる。脂ののった分厚い切り身の場合、全体に軽く塩を振って20分ほど置き、照り焼きや幽庵焼きにすると味が倍加する。当然、塩焼きで食べても旨い。ぶり丼にしても旨い。薄いそぎ作りを加減醤油に7〜8分浸す。(濃口醤油6、酒2、みりん1、生姜汁1の割合)丼にごはんを盛り、もみ海苔を振り、ぶりの醤油漬けをのせ、浅葱の小口切り、青じそのせり、貝割菜など、好みで散らし、おろし山葵の薬味で食べる。すしめしにのせても旨い。
 初午に食べる栃木県の郷土料理に「しもつかれ、しみつかれ」がある。塩辛い鮭の頭を用いるが、半日ほど強塩でしめたぶりあらは小さく切って霜ふりにする。大根は鬼おろしでたっぷりおろし、煎り大豆と一緒に鍋に入れて火にかけ、酢少量を加えてコトコトと煮含める。汁気がなくなったら火を止め、そのまま冷す。味はぶりの塩気でいいと思うが、淡かったら醤油を少量落す。ごはんにたっぷりかけて食べると旨い。