味つづり〈4
8〉 倉橋 柏山

   生れた川の匂いがわかる


 鮭には嗅覚があるといわれる。生れた川の匂いを4年も5年もの長い間忘れないでもどってくる。すごい嗅覚を持つ魚である。秋、鮭は生まれ育った川を求めて産卵のために遡上する。雌が川底の小石や砂利を掘って卵を産むと、雄が待ちかまえたように乳白色の精液をかけ、砂利でおおい隠し、種族保存の役目を終える。産卵を終えて精根がつきて川を流れるあわれな鮭の姿を、北海道ではホッチャレと言う。
 川底の卵はふ化してやがて発眼して4センチほどの稚魚になる。春、雪解水と共に川を下って海に入る。3〜5年、大きく成魚になった鮭は、再び生まれ育った川を求めて戻ってくる。この性質を母川回帰性という。鮭は、生れ育った僅かな期間、育てられた母川の匂いを忘れないで覚えている。多くの研究を重ねた水産学者は、鮭の嗅覚を止めると生れた川には帰れないと言う。
「輪かざりの柱に鮭の瀧登り」。江戸川柳。江戸時代、正月用の塩引き(塩鮭)をしめなわと一緒になわでくくって釣り下げておいた。今日では新巻き鮭と呼ぶが、古くは塩引きといった。内臓を取り除き、腹に塩を詰め、全体に粗塩をたっぷり振りかけ、20日ごとに上下を入れかえて60日間塩漬けにする。さらに一尾ずつ塩漬けにしたものを年末になると、数日寒水に浸し、乾かして出荷する。今日では甘塩であるが、塩引きは焼くと塩がうくほど塩辛かった。
 私の朝の食卓に鮭は週に一度は出る。食べるのは1/3ほどだから当然残る。夜、ほぐして刻み葱、卵黄、大根おろし、柚子こしょうと醤油少々で味付けして酒のつまみにする。若い頃は大食いであったが、今はあまり食べない。日本酒一本飲むには充分である。ときには、しめじと卵で油炒めにする。チーズと沢庵を加え、さっとバターで炒める。納豆、刻みキムチと一緒に和える。有り合わせで手早く出来る私好みのつまみである。鮭と一口に言っても、サケ科サケ属(さけ、ぎんざけ、ますのすけ、さくらます、からふとます、べにざけなどの太平洋さけ類と、やまめ、あまご、ひめます)と多い。その他、ニジマス属、イワナ属、イトウ属などの種類が加わる。
 富山県の名産の「ますずし」は有名である。孫は大好きで、あっという間にペロッと食べてしまう。日本産のさけ、ますの中でも鮮魚として多く出回り、最も美味しいといわれるのが「桜ます」で、この魚は、川で生れ、一年ほど後、海に下り、沿岸で一年ほど生活した後、産卵のために川に戻る習性とか。この種が海に入らず一生生息するのがやまめであると聞く。今日では、人工ふ化による放流が盛んで、雌一尾で約2500粒が採卵され、ふ化したものを飼育池で4〜5センチに育った丈夫な稚魚を放流する。回帰率は2〜3%であるそうだが、年々回帰する魚はわずかであるが増えていると聞く。
 本場の味ではないが、私流のチャンチャ焼きを紹介しよう。二枚におろした生鮭に塩、コショウを振る。熱した鉄板にバターを引き、鮭の両面を炒める。その上に食べよく切ったキャベツ、玉葱、人参、もやし、ニラ、しめじやえの木茸などをたっぷりのせ、軽く塩、コショウを振り、小さくしたバターを散らし、ホイルでおおい、蒸し焼きにする。火が通ったら、醤油と溶しバターでのばした味噌で調味し、鮭をくずしながらレモンをしぼりかけて食べる。大勢で豪快に食べるのが最も旨い。
 野趣に富んだ鍋物も旨い。土鍋に水を注ぎ、昆布と酒を加え、ぶつ切りの甘塩鮭を加えて火にかけ、じゃが芋、人参、糸こんにゃく、玉葱、椎茸などを加え、煮立ったら味噌と醤油少々で調味する。表面のアクを取り、鍋を囲みながら食べる。さし向かいなら別であるが、鍋は一人二人では旨くない、わいわいがやがやと大勢で食べるに限る。家庭料理の材料は有り合わせでいいが、4〜5種は加えたい。
 鮭には嗅覚があるといわれる。生れた川の匂いを4年も5年もの長い間忘れないでもどってくる。すごい嗅覚を持つ魚である。秋、鮭は生まれ育った川を求めて産卵のために遡上する。雌が川底の小石や砂利を掘って卵を産むと、雄が待ちかまえたように乳白色の精液をかけ、砂利でおおい隠し、種族保存の役目を終える。産卵を終えて精根がつきて川を流れるあわれな鮭の姿を、北海道ではホッチャレと言う。
 川底の卵はふ化してやがて発眼して4センチほどの稚魚になる。春、雪解水と共に川を下って海に入る。3〜5年、大きく成魚になった鮭は、再び生まれ育った川を求めて戻ってくる。この性質を母川回帰性という。鮭は、生れ育った僅かな期間、育てられた母川の匂いを忘れないで覚えている。多くの研究を重ねた水産学者は、鮭の嗅覚を止めると生れた川には帰れないと言う。
「輪かざりの柱に鮭の瀧登り」。江戸川柳。江戸時代、正月用の塩引き(塩鮭)をしめなわと一緒になわでくくって釣り下げておいた。今日では新巻き鮭と呼ぶが、古くは塩引きといった。内臓を取り除き、腹に塩を詰め、全体に粗塩をたっぷり振りかけ、20日ごとに上下を入れかえて60日間塩漬けにする。さらに一尾ずつ塩漬けにしたものを年末になると、数日寒水に浸し、乾かして出荷する。今日では甘塩であるが、塩引きは焼くと塩がうくほど塩辛かった。
 私の朝の食卓に鮭は週に一度は出る。食べるのは1/3ほどだから当然残る。夜、ほぐして刻み葱、卵黄、大根おろし、柚子こしょうと醤油少々で味付けして酒のつまみにする。若い頃は大食いであったが、今はあまり食べない。日本酒一本飲むには充分である。ときには、しめじと卵で油炒めにする。チーズと沢庵を加え、さっとバターで炒める。納豆、刻みキムチと一緒に和える。有り合わせで手早く出来る私好みのつまみである。鮭と一口に言っても、サケ科サケ属(さけ、ぎんざけ、ますのすけ、さくらます、からふとます、べにざけなどの太平洋さけ類と、やまめ、あまご、ひめます)と多い。その他、ニジマス属、イワナ属、イトウ属などの種類が加わる。
 富山県の名産の「ますずし」は有名である。孫は大好きで、あっという間にペロッと食べてしまう。日本産のさけ、ますの中でも鮮魚として多く出回り、最も美味しいといわれるのが「桜ます」で、この魚は、川で生れ、一年ほど後、海に下り、沿岸で一年ほど生活した後、産卵のために川に戻る習性とか。この種が海に入らず一生生息するのがやまめであると聞く。今日では、人工ふ化による放流が盛んで、雌一尾で約2500粒が採卵され、ふ化したものを飼育池で4〜5センチに育った丈夫な稚魚を放流する。回帰率は2〜3%であるそうだが、年々回帰する魚はわずかであるが増えていると聞く。
 本場の味ではないが、私流のチャンチャ焼きを紹介しよう。2枚におろした生鮭に塩、コショウを振る。熱した鉄板にバターを引き、鮭の両面を炒める。その上に食べよく切ったキャベツ、玉葱、人参、もやし、ニラ、しめじやえの木茸などをたっぷりのせ、軽く塩、コショウを振り、小さくしたバターを散らし、ホイルでおおい、蒸し焼きにする。火が通ったら、醤油と溶しバターでのばした味噌で調味し、鮭をくずしながらレモンをしぼりかけて食べる。大勢で豪快に食べるのが最も旨い。
 野趣に富んだ鍋物も旨い。土鍋に水を注ぎ、昆布と酒を加え、ぶつ切りの甘塩鮭を加えて火にかけ、じゃが芋、人参、糸こんにゃく、玉葱、椎茸などを加え、煮立ったら味噌と醤油少々で調味する。表面のアクを取り、鍋を囲みながら食べる。さし向かいなら別であるが、鍋は一人二人では旨くない、わいわいがやがやと大勢で食べるに限る。家庭料理の材料は有り合わせでいいが、4〜5種は加えたい。