味つづり〈46〉 倉橋 柏山
翡翠の彩り 「今朝摘みしグリーンピースの飯をたく」 成岡 あさ子
朝摘みたての豆を莢から取り出してご飯に炊き込む。まっ白いご飯に緑鮮やかな豆、少し青臭みの残る豆と共に噛みしめる。新緑の頃の幸せの味である。
グリンピースは豌豆の完熟しない緑色の豆のことである。
豌豆はマメ科の一〜二年草。コーカサス南部からペルシア近辺が原産地とされ、日本には江戸中期に伝わったといわれる。絹さやと呼ばれるものは、莢豌豆で早どりの一番柔らかいものである。絹さやは一年中店頭に並び、季節不在の野菜であるが、本来の旬は春から初夏であろう。普通、露地物と呼ばれるものは秋に種を蒔き、春に収穫するものと、春に種を蒔いて夏の終わりから秋に収穫するものがある。又、何度も収穫できることから三度豆と呼ばれ、ハウス物と共に一年中栽培が可能である。春の先付けや前菜として「翡翠煮」と称して美しいガラス鉢に盛り、洒落たスプーンを添えて少量出される。塩湯に重曹を少量加えて豆を色良く茹で、少量の流水を注ぎながらふっくらとさらして吸い地八方で含ませたものである。
ご飯に炊き込むなら、出来るだけ大粒の豆を莢から取り出す。緑鮮やかな皮の柔らかい新鮮なものを用いる。むいて売られる豆は避け、面倒でもむいて用いる。米の二〜三割位のもち米を加えて研ぎ、一時間ほど浸水させ、三カップの米に対し、大さじ二杯の酒、塩小さじ一杯強、昆布10cm角一枚、むきえんどうは米の三割強を加えて炊きあげる。青豆めし、青豆ご飯、えんどうめしはいずれも同じもので、青豆特有の芳香と旨味が浸み込んだ初夏の美味しい炊き込みご飯である。
料理店などでは彩りを重視して、彩りよくゆでてふっくら緑色にさらした豆を炊きあがったご飯に混ぜて「翡翠ご飯」といって出す。豆を最初から入れて炊くと味は大変良いが、豆にしわが寄って色が褪せる。まっ白いパールの輝きに緑の翡翠の色も美しい。彩りか、味が決めどころか。料理教室などでも甲乙付けがたいものである。
手軽に作れて美味しい春の逸品に、玉子豆腐葛あんかけがある。芝海老又は小海老は背わたを取って皮をむく。生椎茸は石付きを切って小角に切る。吸い地強の八方地で小海老、ピース、椎茸を加え、ひと煮立ちしたら葛粉でとろみをつけ、生姜のしぼり汁を少量加える。器に玉子豆腐を盛り、ピースあんをかける。この料理は作りたての熱つあつが旨いが、両方冷たくして食べても舌にひんやりのどごしのなめらかさが良いものである。
汁を多めにしてそうめんにかけて食べるのも美味しい。この場合は羹ものにする食べ方がいいだろう。汁を少なく、とろみを濃くして熱いご飯にたっぷりかけたピース丼という食べ方もある。
少々惣菜向きの食べ方になるが、三度豆の胡麻味噌和えも簡単で旨い。軸とすじを引いて二つか三つに切って塩湯でしゃきっとゆでて水にさらして水気をきる。白胡麻は香り良く煎ってすり、味噌、酒、みりん、砂糖を各適宜加えてすり混ぜ、三度豆と和える。さやはゆですぎないでしゃきしゃきと歯ざわりよくすることである。
食べよく切ってベーコンといため、塩、コショウで調味してオムレツの具にしてもいい。卵と相性がいい素材。熱したフライパンにバターをひき、細切りにしたさやを強火で一気に炒め、塩、コショウで味をととのえる。ご飯を丼に盛り、もみ海苔を散らして炒めた熱つあつのさやをたっぷりのせて半熟卵を落とす。刻み紅生姜を散らし、ご飯に混ぜながらかき込む。これもしゃきっと歯ざわりよく一気に炒めるのがコツである。
絹さやを六〜七枚卵でとじた吸物は家庭の味。ほっとやすらぎをおぼえる初夏の味であろう。