平成16年度生衛振興推進事業・調査研究報告レポート
分煙対策推進のために北九州市の取り組みを視察

 全飲連では、平成16年度も平成15年度に引き続き「生衛振興推進事業」として、分煙対策推進事業に取り組みました。
 受動喫煙防止対策を推進するにあたって、平成15年度に全国実態調査を行ったところ、約8割が未対策であることが判明しました。その後、マスコミや消費者団体等から飲食店の受動喫煙防止対策の遅れが指摘されていることもあり、今年度も継続して分煙対策推進事業を行うことになりました。
 飲食店の分煙対策は、食の安心・安全とともに、飲食店に課せられた大きな課題のひとつです。私たち飲食店がめざす店づくりは、「きれいな空気、美味しい空気が食せる」店づくりです。そのためには分煙対策を推進し、受動喫煙の防止に努めなければなりません。
 全飲連では、去る3月2日に北九州市を訪問し、東京第一ホテル小倉で「分煙対策推進モデル地域視察及び現地意見交換会」を開催し、「北九州市の分煙対策の取り組み状況とその推進」についての説明を受け、それを踏まえて意見交換会を行いました。

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分煙対策推進モデル地域視察及び現地意見交換会参加者名簿(順不同・敬称略)

●全飲連関係
田中清三会長(大阪府理事長)、加藤隆総務委員長(群馬県理事長)、中島康介財務委員長(秋田県理事長)、柳川一朗福祉厚生委員長(神奈川県理事長)、森川進事業委員長(静岡県理事長)、石川東功組織拡充対策委員長(埼玉県理事長)、宍道榮一郎大会委員長(鳥取県理事長)、杉正道福岡県理事長、竹下和生熊本県理事長、小城哲郎専務理事、小池俊晃事務局次長、菅田明則全飲連ニュース編集長
●北九州市保健福祉局関係
櫻本ゑり子保健医療部健康推進課主査、寺西泰司保健医療部健康推進課地域保健係(獣医師)、小西治子保健医療部健康推進課主査(管理栄養士)

北九州市の受動喫煙防止対策の取り組み状況
北九州市保健医療部健康推進課主査 櫻本ゑり子さんに聞く

 北九州市は、ルネッサンス構想のもとに「水辺と緑のふれあいの国際テクノロジー都市」を目指しており、喫煙対策もその取り組みの一つです。
 平成16年度の受動喫煙防止に関する取り組みは、@受動喫煙防止対策研修会、A禁煙教室、B講演会、C研修会等での講演・講話、D個別禁煙サポート、E飲食店禁煙・分煙実態調査結果、F施設内禁煙・分煙協力ポスター、チラシ作製配布、G広報活動の8つのカテゴリーに分かれています。
 今回は飲食店に特に関係の深い取り組みである、@受動喫煙防止対策研修会、F施設内禁煙・分煙協力ポスター、チラシ作製配布、そして、E飲食店禁煙・分煙実態調査結果について報告します。

1、受動喫煙防止対策研修会の開催
受動喫煙防止対策研修会には、市内飲食店の施設管理者43名が参加しました。
 実態調査は7000件に対して行い、結果5000件を少し下回る回答を得ました。その調査の際に「今後お知らせ等の連絡をしても良いか」という項目を設け、そこで了承を得た630名に今回の「受動喫煙防止対策研修会」の案内を出しました。122名の返信中、研修会参加可能者が24名。参加者が当初の予定よりあまりに少なかったので、急遽開催地の戸畑区と近隣の若松区の商店街にチラシを持参し、63軒に戸別訪問しました。
 その際に、店舗責任者から「研修会に出てしまうと店に誰もいなくなってしまうので出られない」「(受動喫煙対策を)何かしなくてはならないと思うけれど金銭的に難しい」「小さい店だから禁煙したらお客が来なくなる」等々、具体的な生の声を聞くことができ、「もっと細かく、良い方向に向かうことができるように考えていかなければならない」という課題を得ました。

2、施設内禁煙・分煙協力ポスター、チラシ作製配布
「施設内禁煙・分煙ポスター、チラシ」を作製し、商工会議所加入企業8000箇所に、会議所の刊行物と同送しました。
 これには賛否両論ありましたがなかなかの反響で、8000箇所のほかに公共施設、飲食店2000箇所にも配りました。
 今回のポスターやチラシは、「施設内の禁煙・分煙にご協力を」というもので、飲食店用に作ったものではなかったので、飲食店の方からは「もっとソフトなものを作ってもらえないか」という意見もありました。

3、飲食店禁煙・分煙実態調査結果について
(※文中のグラフ資料は全て、北九州市保健福祉局の『喫煙に関する状況調査報告書』より引用しています。)
 北九州市の飲食店における喫煙に関する実態についての調査結果です。
 状況調査は幅広い年齢層が利用する飲食店で行いました。方法は、市内5887件の飲食店の責任者に対してアンケートをメール便で送り、1986件、33.7%の回答がありました。今回7000件にアンケートを出したのですが、約1200件が宛先不明で戻ってきました。かなり直近のデータだったのですが、それだけ飲食店の流動の激しさを示しています。

A、健康増進法の周知状況
 健康増進法について「理解している」7.7%、「内容は大体わかる」23.3%、「名前は聞いたことがある」20.1%で、この3つをあわせても51.1%です。
 時期的には健康増進法施行後9ヶ月たった頃でしたが、47.3%が健康増進法を知らないという実態が明らかになりました。

(資料1)

B、受動喫煙の周知状況
 また、「受動喫煙という言葉を知っていますか」という問いに対して、「理解している」17.0%、「だいたいわかる」26.6%で両方あわせても39.6%でした。これに対して「名前は聞いたことがある」15.7%、「全く知らない」38.2%で、責任者の半数以上は受動喫煙に対して認識が不足していました。
 今後は健康増進法およびその趣旨の周知が最大の課題です。

(資料2)

 

C、喫煙対策の実施状況と対策の実態
 「何らかの喫煙対策を行っていますか」と言う問いに対し、喫煙対策を実施している店は26.9%、この中で受動喫煙を防止する上で有効な対策が取られていた店は、「店内禁煙」6.6%、「部屋として分離」1.6%、「フロアとして分離」0.7%の合計8.9%で全体の1割にも足りません。
 有効な対策をしているという店も、空間を仕切っただけ、場所を仕切っただけ、禁煙タイムを設定しただけというような不十分な対策が多いようです。
 未対策店は、ラーメン、中華、焼肉、居酒屋が非常に多いです。

(資料3・4)  

 以上のことから、多くの飲食店において、大勢のお客様が受動喫煙の被害を受けているという実態が明らかになり、今後はお客様のみならず従業員まで含めた受動喫煙の防止に配慮しながら検討を進めていかなければなりません。
 また、店によっては18、19歳といった未成年の従業員もおり、これら未成年者もタバコの害を受けているといった実態もあきらかになり、これに対する対策を推進していくべきだという指針が出ました。

D、店内禁煙店の禁煙開始時期とその理由
 店内禁煙店132件の分析として、店内禁煙の開始時期は、その25%が健康増進法施行後でした。
 禁煙にした理由としては、「お客様の健康」「家族連れのお客が多い」というのがそれぞれ28%で最も多いことから、健康増進法によって店舗の禁煙化が促進されていることがうかがえます。特に店舗の種類別の実施状況では、未成年者が利用するファストフード店では38店中、36.8%が禁煙化して39.5%が何らかの分煙対策をしており、突出していました。その他としては、「味を大事にしている」「雰囲気を大事にしている」という理由が多いです。

(資料5・6)  


E、店内禁煙に対するお客の反応
 店舗の禁煙化を決定かするどうかは売上に対する不安が非常に大きいのですが、禁煙化の来客数と売上に与える影響としては、「来客数が増えた」1.5%、「増減なし」29.5%、「減った」12.1%という結果です。
 売上は、「増えた」1.5%、「増減なし」25.8%、「減った」10.6%でした。全体の1割が減ったという回答ですが、禁煙店は132件と非常に少ない数の中の1割ですので、今後サンプル数を増やしていくと「増えた」という割合が増えていくのではないかという予測を持っています。

(資料7)

F、店内分煙店の分煙開始時期とその理由
 店内分煙店は404店ありました。そのうち分煙対策開始時期は13.1%が健康増進法施行後としています。
 理由は「お客様の健康」35・1%、「喫煙室などを作れない」20.5%、「従業員の健康」17.8%という結果です。

(資料8・9)  


G、喫煙未対策店の理由
 未対策店は1373店と一番多いですが、未対策の理由は「個人の自由・強制できない」61.0%、「喫煙者が多い」54.0%、「売上の減少」25.2%、「雰囲気を大事にしている」15.7%の順です。個人の自由であり強制できないというのは、店舗面積の小さい店が多いようです。

(資料10)

H、店内分煙店の喫煙対策推進予定
 分煙店の今後の対策推進予定は、「ある」6.4%、「検討してみたい」37.1%で、両方合わせて43.5%が考えている状況です。
 未対策店では、「ある」2.3%「検討してみたい」20.3%で合わせて22.6%は考えているようです。

(資料11)

I、喫煙未対策店の喫煙対策推進予定
 未対策店に対して具体的な情報発信をすることで、改善できるのではないかと考えています。

(資料12)

J、店舗責任者が市に求める対策
 店舗責任者が市に求めている対策は、「ポスター・チラシ等」31.3%、「具体的な法令などの整備」26.1%、「店外から喫煙対策がわかるステッカー」25.8%などがありました。行政が実施に向けて検討を進める必要があります。

(資料13)

4、調査結果のまとめ
@「健康増進法を知らない」…47.3%
A「受動喫煙未対策」…69.1%
Bファストフード…38店中、36.8%の14店が禁煙。39.5%の15店が分煙対策をとっている。
Cファミリーレストラン…32店中、9.4%の3店が禁煙。68.8%の22店が分煙対策をとっている。店内禁煙化による来客数、売上減は1割のみ。この1割を多いと見るか少ないと見るかの結論はもう少し時間が掛かると思います。

5、全体のまとめ
1、健康増進法のさらなる周知、店内禁煙店の売上減少は1割であることを含めた受動喫煙防止対策の啓発の広報活動
2、受動喫煙対策に関する相談窓口などの整備
3、積極的な受動喫煙対策に取り組んでいる店舗を奨励する認証制度等の確立
4、顧客のみならず、従業員の受動喫煙を防止するために、飲食店の禁煙化の推進
5、喫煙率そのものの低減に向けて、積極的な取り組み、法令等の整備

※この項は、北九州市保健福祉局保健医療部健康推進課主査・櫻本ゑり子さんのレクチャーをまとめたものです。

 

「飲食店の分煙対策ポケットブック」を発行

 全飲連では、受動喫煙の防止の必要性と、正しい分煙対策の考え方を改めて組合員の皆さんに理解、認識いただくために、「飲食店の分煙対策ポケットブック」を作成し、全国の組合員に配布し、分煙対策の推進に努めています。