理事長訪問 第10回 京都
京都府飲食業生活衛生同業組合
大八木 泰蔵 理事長に聞く
86歳未だ現役
積極的に若い人材を育成し、3年後の京都大会を成功に導きたい―大八木理事長のご出身は京都ですか?
大八木理事長(以下大八木)■出身は滋賀の蒲生郡です。大正生まれで、西田幾太郎先生の哲学や大正デモクラシーの洗礼も受けました。その後、戦争に行きまして、第二次大戦の最中に除隊しました。そして、今の阪急、京阪神急行電気鉄道に5〜6年勤務しました。そして戦後を迎えました。当時は自由経済ではなく統制ですし、品物は配給でなかなか手に入りません。厳しい時代でした。終戦後、自由経済になってから京料理仕出し業、魚美を継ぎました。
―理事長は、お婿さんということですが、魚美さんに入って料理の修行をされたのですか?
大八木■先代がいましたからね、修行っていうほどではないけれど習ったり、研究会に行ったりして勉強しました。魚美は先代から数えて約70年になります。昔は結婚式をよくやりましたよ。
―京都には飲食生活衛生同業組合が出来る前から、社交、料理、麺類、中華などの飲食の連合会がありますね。また、理事長は魚菜鮓の組合もおやりになって長いそうですね。
大八木■そうですね。私どもの飲食生衛組合も連合会の一部です。他の県とは違うところです。魚菜鮓組合は仕出し業の組合です。先斗町や上七軒などのお茶屋や、お寺など、京都は仕出し業が昔から盛んな土地ですし、私は創立メンバーで、今年で創立50年になりますね。生衛の活動も支えてもらっています。現在は後継者を育成するため、青年部をつくって、勉強会、研究会をしています。同じ世代の仲間がいるということ、コミュニケーションが重要だと思いますね。後継者づくりです。
―京都は他の県と違って歴史や京料理の伝統があって、組合をまとめていく上で難しさがあると思うのですが。
大八木■京都は伝統や古くからのしきたりがありますから、新しいお店と歴史あるお店との兼ね合いもありますね。京都の格式がからんで、人間関係が難しいところがあります。家族だけでやっているところも多いですし、一方で百人二百人の従業員を抱えているところもある。そういうところをひとつにまとめていく苦労はありますね。
―飲食組合の活動を進めていくうえで、何が一番大切だと思われますか?
大八木■いろんな立場で皆さん商売をしてるわけですから、無理のない範囲で、許容範囲を広げて協力し合って、メリットを生み出さないといけません。それと執行部や理事会で決めたことに賛同していただくことが必要です。標準約款の話でもそうですが、一人でやっているような小さな店では強制できません。無理したら破綻する、それが現実です。もちろん標準約款の登録をすると、美容院やクリーニングのように品格がつきますが、額の大きな保険に加入しなくてはなりません。これは利益を上げているところでないと加入できない。飲食業はほとんどが中小企業というよりも零細企業です。
―そういうところで理事長の人柄が問われるところがあるのではないでしょうか。
大八木■たぶん、それぞれの組合員さんの立場を理解しながらも、これはこうあるべきだと思ったら、八方美人ではなく、徹底してやっていく姿勢が信頼を得られているのかと思っています。
―さて、ご自身のご商売である飲食という仕事についてはどうお考えですか?
大八木■日々勉強です。毎日同じ事をしていたらお客さんも飽きますから。昨年もいろいろ変えました。これは口で言うのは簡単ですが、なかなか難しいことです。消費者の好みはいろいろですから、どの層をターゲットにするかも難しいです。若い女性を中心にしてきた消費が、高齢者にシフトしてきたこともあって、本物でないと根付かない時代になっています。飲食というのは絶対なくならない商売だからやりがいはありますね。
―飲食の仕事をしていて一番良かったことは何でしょうか?
大八木■良い素材でいいものを作って、料理のわかる人に「おべんちゃら」ではなく「あれはおいしかったよ」と言われるのが最高です。料理人冥利に尽きます。やはりこれはという、自信のあるものは「ぴしゃっ」といきますね。
―大正七年生まれの86歳とうかがいましたが、健康の秘訣は?
大八木■仕事は出来るまでやった方がいいのかなと思っています。会合に出ることが健康維持のような、やめたらほんまに体も頭も弱りますわ。人との接触はあればあるほど活性化します。
―京都は3年後に全国大会が決まっていますね。
大八木■場所も大体決定しています。若い人が積極的に頑張ってくれていますので、見守っています。全国大会を開くのは、開催県は大変ですが、組織の活性化という点において、やるだけの意味はあります。達成感もありますね。
―これからの飲食業界のあり方について、どのようにお考えですか?
大八木■業界を取り巻く経済状況もまだまだ厳しい中、課題解決に自主的に取り組んでいく姿勢が必要です。具体的な取り組みとしては、今後は地域貢献が大切になってくると考えています。コンビニの味に慣れた若い人が多くなっているようですが、食育をちゃんとして本物の味を教えていくということを、地域の飲食店の役割としてやっていかなければならないと思います。また、高齢者へのサービスなど地域社会にメリットを与えることで、社会的に評価されることが大事、約款と一緒ですね。これから力を入れてやっていくべきだと思います。
―本日はどうもありがとうございました。
取材を終えて
「70歳以上にはええ時代になりましたなあ。若い女性を中心にしてきた消費が、高齢者にシフトしてきた。本物でないと根付かない時代になっています」と語る大八木理事長は、伝統と格式が重んじられる京の飲食業界において、今でも多くの業界の役職を担い、その毅然とした姿勢と、とても大正一ケタ生まれとは思えない柔軟な思考と温和な人柄が印象的であった。