味つづり〈45〉 倉橋 柏山

目玉の輝きが名前の由来

 光線の当る角度によって金色に光り輝くガラス玉のような大きな目玉を持つことから「金目鯛」と名付けられた。周年出回るが、金目の最も旨い旬は晩秋から冬であろう。頭が大きいものの体形はややタイに似て平たく、体全体が鮮やかな赤色で美しくおめでたい雰囲気もあり、タイ科ではないがタイの名が付く。分布域は房総半島以南の5〜600mの深海に棲息する。一本釣りとして水深500mから釣りあげても、浮袋がふくれてしまうことはなく、釣り落とすと再びもとの深い海にもどることの出来る不思議な生態をもつ魚である。
 餌は肉食性で主に小魚類やイカなどであるとか。房州や下田あたりから一本釣りの大物鮮魚が入荷するので、少々身がやわらかいものの刺身にしても旨い。
 数年前、箱根の名の通ったホテルで中学校の同級会があって一泊した。宴が始まる前に料理も並んでおり、乾杯の後、茶碗蒸しのふたを取ると冷たい。具は冷凍の小さな金目鯛が表面に飾ってあるのみで、他に何一つ入っていない。所狭しとテーブルに料理も並び、安い会費で旨い料理を望むのは無理と解っているが、せめて茶碗蒸しぐらい温かいものを食べたい。中に入る具はともかく温かい茶碗蒸しは美味しく、老若男女が好むといっても過言ではない料理である。暑いとき、氷か冷蔵庫で冷たくした「冷し茶碗蒸し」はうれしいが、テーブルに並んで時間が経って冷えた具の無い茶碗蒸しは侘しすぎる。安宴会には大にして出会うが、そのたびにもうすこし気遣いが出来ないものかと、料飲業にたずさわる者の一人として悲しい思いをする。
 金目鯛の煮付けはまことに旨い。小ぶりの物なら一尾丸ごと姿煮にする。ウロコ、内臓、血合を取って充分に水洗いし、熱湯をかけて霜降りにして水気をきり、鍋に昆布を敷き、水を注いで酒を一割強加え、煮立ったら昆布を取り出し、砂糖、醤油を二度ぐらいに分けて15分ほど煮含め、みりんを加えて味の仕上げをする。味は好みがあろう。惣菜風に味濃い目が好みであればこってりと甘辛く、鮮度重視で素材の持ち味を楽しむなら砂糖と醤油を控える。古根生姜があれば皮付きのまま洗って薄切りにして4〜5枚加える。庖丁使いに自信があれば、皮をむいて薄切りにしてせんに打って水に放ち、器に盛り付けて針生姜をたっぷり天盛にする。身と一緒に生姜も食べるので出来るだけ細く打つことである。大きい物は二枚おろしにして骨付きを切り身にして煮あげるほうが旨い。
 寒い時の一家団欒は寄せ鍋にとどめをさす。寄せ鍋に金目の赤い彩りは不可欠である。骨付きのぶつ切りは豪快で旨いが、寄せ鍋は具が多いほど美味しく楽しい。小骨なども抜いて食べよい大きさに切る。そして鮮度の良いものを用いることは書くまでもあるまい。
 味噌漬けや粕漬けも旨い。漬ける前、切り身に軽く塩を振るのがコツ。西京味噌なら、酒とみりんでどろっとのばし1日か2日漬け込む。信州系の辛味噌は砂糖を適宜加える。
 目玉とかまの部分の潮煮は新鮮が命。昆布だしに酒をたっぷり加え、塩であたりをつけ、汁と共に味わう。目玉のゼラチン質と胸びれの付け根のカマと呼ばれる筋肉は格別の味である。金目の大きい目玉はいやという人もいるが、食べなれたらこれほど旨い部分はない。
 酒蒸しも彩りが良くて旨い食べ方であろう。切り身に軽く塩を振ってしばらくおく。器に昆布を敷き、金目を主に椎茸、豆腐、ほうれん草などを盛り、酒を全体に振りかけ、蒸気のあがった蒸し器に入れ、中火で15分ほど蒸す。ポン酢醤油に紅葉おろしという定番もいいが、スダチかカボスをしぼりかけただけのシンプルな食べ方もあっさりと美味しい。残り汁に醤油を1〜2滴落せば奥深い味が楽しめる。