全 飲 連 ゼ ミ ナ ー ル
平成15年度 東北・北海道ブロック講習会
10月16日 札幌市 ジャスマックプラザ


「共に語ろう! 飲食店の未来を」

講師 福島県飲食業生活衛生同業組合理事長 紺野 昭治


店を繁盛させるための戦略は「一念」
 私は3店お店を持っています。店はどれも小さく、全従業員は20人足らずですが、みんな一生懸命働いてくれています。そば職人は私を入れて7人。本格的な手打ちで、生粉打ちですからつなぎを一切入れていません。料理も既製品は使わずすべて手作りです。そばは「もりそば」で千円と高いです。しかし儲かりません。ですから従業員の平均給与も20万円程、少しは人間らしい生活をしたいと私も従業員も思っていますが、なかなかできません。
 今日は、こんな環境の中で、私が日々どんなことを考えて商売をやっているか、人生をやっているか、人間をやっているかをお話したいと思います。
 まず行動を起こす前には理論が必要です。どんなふうに生き残りを図るか、そのためには何が必要か。それには「一念」繁盛させるためにはまず一念が必要です。次にその店に「話題」を作ること。話題があるから繁盛する。それには口コミになるような話題をどうやって作るか。そして3つめは、寝ても覚めても自分の店を繁盛させようという「情熱」です。
強い意志があり、店に話題ができて、店に行列ができれば良さそうですが、そうは簡単にいかないのです。一念が戦略にならなくては駄目なのです。そこで戦略がぐらついていたのでは店は安定しません。一念は確信でなければいけないのです。

日本経済の低迷は我々の心の中の問題です

 私の一念は「味の法隆寺」です。法隆寺は木造建築で世界最古、台風や地震といった自然災害にも耐えて千年耐えています。私の一念は千年お客様に飽きられない味です。これが私の戦略です。千年持たせるという一念でモノを考えます。
 次にくるのは戦闘です。従業員との格闘があります。私の考えを実際にやらせるのは並大抵のことではありません。従業員の心の中まで立ちいらなければ、私の思い通りの仕事をしてくれません。しかし従業員には自我の塊があるので勝手なことをやります。これが大問題なのです。仲間と一緒に戦いを挑むには、素直でないとできないのです。
 例えば、バブルは自分とは無関係な経済現象だと思いがちですが、経済現象は人間の心の現象です。失われた10年といわれていますが、何にもできずに日本は低迷しています。これは日本人の心そのものだと思います。なぜバブルを生んだのか、我々の心の中に問題があるのです。これを反省しないで景気がよくならないのは当たり前です。
 行列を作らせる戦術をあみ出すためには、自分を変えなくてはいけません。意識改革とか自己変革とか、10年も前から言われていますが、実践論が難しいのです。本当にお金がなくて困っている人は日本人ではいません。お金は持っているのに使わないのです。それは将来に不安があるからではなく、買いたいものがないだけの話です。本当に食べてみたい店がないから飲食店が流行らないのです。本当に食べたいものがあればお客さんは食べに行くと思います。我々が欲しいものを作る人間がいないのです。

自己改革なくして技術の向上はない
 自分を変えて本当にお客さんの欲しがっているもの、お客さんが食べたいと思っているものを作れるモノをどうやって作るのか。そこで従業員と精神的に血みどろの戦いをするのです。
 私の店では同じ粉を使って、1か月に1度、同じ条件で7人の職人でそばを打ち、目隠しで味覚テストをします。そして点数をつけます。私自身怖いですが、幸いにして私の打ったそばは点数が高いです。そういうことをやると、従業員と真剣に話し合う場面がたくさんできてきます。
 私のところは生粉打ちで、しかも「挽きぐるみ」といって丸抜きで石臼にかけると99.2%くらい粉になります。たいへん良い石臼なので良い粉ができますが、それを下手な人が打つとえぐみや苦味が出てしまうのです。
 これは技術の問題だけでなく、心の問題になるのです。その人間の心の問題まで踏み込まないと技術の向上はさせられません。ですので、これ以上どうしようもないという弟子には辞めてもらいます。そうして自分に気づき変わってもらわないとこれは成立しないのです。ですから自己変革、意識改革がどうしたらできるかを、今日は皆さんに考えていただきたいのです。
 私の本店は立地が良くなく、しかも神社、仏閣の参詣客を相手に田楽を食べてもらったのが店の始まりです。もう110年にもなりますが、私が継いで33年経ちました。桜の花が咲くので花見の時にはお客さんは来ますが、あとは殆ど来なかったのです。そういう店にどうしたらお客様に足を運んでもらえるか、どうしたら夜にも来てもらえるか考えました。どんな話題づくりをして、そのためにどんな戦いを挑もうかということで大変悩みました。
それには私自身がいろいろな人からの提案を受けて変わることでした。私が同じだったら店を変えることにはなりません。
 そこでまず自分をどう変えるかというのが問題です。だから私もいろいろなことで反省をさせられます。腹の立つことは沢山ありますが、その度に反省します。小飲食業者は日々修行だと思います。そうしなければ生き残れないと思います。
 生き残りの戦略は自分を変えることです。いつも自分が正しいと思っていたら変われないのです。皆さんのお店の問題点が10あるとして、それを一度に変えようとしたら潰れます。まずは1つの問題に取り組んでください。

他店に負けない自慢の「1品」を作ろう
 私は福島県の理事長もしていますので、皆さんに1店1品運動をやりなさいと提案しています。よその店に負けないというものに取り組んでみたらどうかと。しかし1人よがりでは駄目です。素直に謙虚に1品だけはどこにも負けないものを作るのです。日々努力すれば変わっていくはずです。
 これはわかりやすいけど難しいことです。だから一念を持って、途中でくじけないでやって欲しいのです。10年はかかると思います。真剣に取り組まなければできません。私は毎日毎日が真剣勝負です。それは店の経営が大変だからです。そして話題づくりも自分が変わってくると上手になります。つまりお客さんに受け入れられるような話題が作れるようになるのです。小手先で作ってもお客さんは見向いてもくれません。

苦悩なくして生き残りはできない
 日本人は戦後、戦争には負けましたが、開放された気分で日本の経済が立ち直り、世界一になり、バブルを経て現在に至っています。その日本人の心を清算しなくてはいけないのです。戦争に負けて素晴らしい豊かな日本を作り上げましたがそれが破産した。それは日本の戦後、我々が心に抱いた精神的なものが破産したという意味なのです。単なる不況ではなく我々がどういうふうに自分を変えるか、自分の心を新しく作り直さなくてはいけません。戦前と戦後は違います。戦後は素晴らしい物質的な豊かさを日本にもたらした。その日本人の精神ではやっていけない時代が来たのです。不況というのは、それではどういう心を作ったら良いのかという問題です。その心を発見する意味でも皆さんおやりになってください。私の体験談はこれで終わりにしたいと思います。