東海・北陸ブロック講習会 平成15年9月8日(月)伊東市
四国ブロック講習会 平成15年10月23日(木)松山市


生き残り経営戦略勝ち組への必須3条件
大手チェーンは敵ではない

日本ヒューマン経営研究社 代表取締役 大塚 徹


●店の敵は自分の店の中にある
 人を引き付けるためには「挨拶」、他人を見方にする最高の武器は「挨拶」です。これをできる人、できるお店は、必ず繁盛しています。「挨拶」というのは最初に人間が肌で感じるエネルギーです。
 しかし小さい声の挨拶や低い声は、不幸をイメージさせてしまい、楽しい気分がなくなるのです。明るく元気な挨拶をしていないお店は、そもそも仕事を楽しくしていないのです。自分の心が弾んでいれば必ず表情も声も弾みます。言葉というのは意味を表しますが、声は心を表します。だからお店に電話を一本掛けただけで、その店がやる気があるのか無いのかがすぐにわかります。
 お客様がいらしたとき、ご注文を伺うとき、料理を出すときなど全てがそうです。今度、商店街やデパートの中で、売れている店やよく売る店員さんを見て下さい。一目瞭然でわかります。お客様の顔を良く見る人が売れるのです。お客様の顔を見ないで話をするお店は売れません。何故かというと、目というものは「以心伝心」を語るものだからです。不景気だ!大変だ!と言う以前に、まず自分の店が選ばれる店なのか、見捨てられる店なのかをよく考えましょう。
 最近、特に有名になった言葉で、日産自動車のゴーン社長の「日産の敵は日産の中にある」というのがありますが、ここからスタートしています。お店の敵は隣のライバル店ではありません。自分の店の中にあるのです。

●ガンになってわかったこと
 私は悪性リンパ癌になりまして、7月に退院しました。自分の葬式を考え、準備もしました。しかし今、こうして皆さんの前に立たせていただくことができたのは、現代医学の治療法の凄さでもあります。リンパ癌は血液のガンなので非常に進行が早いのですが、抗ガン剤が一番効くのです。もし私が臓器ガンだったら助からなかったでしょう。2月に胃袋にガンが出たのですが、5月まで仕事を全部やりました。そして実際にガンの告知を受けたのが5月。その時はステージ3でした。私は医者に「助かるのですか?助からないなら私は死ぬ準備をしなくてはならない」と聞くと、「80%は助かる」と言われました。抗ガン剤を打ったのが6月、それ以外に有機ヨウドというのを手に入れたお陰で早く治りました。ガンという細胞が24時間私を壊そうとしているのです。これはまさに戦いで、戦うという精神力が終わったときに自分の命も終わるのです。
 商売も全て同じ「戦い」です。どうしたらお客様に来ていただけるか、本気になって取り組んでいる店だけが強いのです。それは工夫があるからです。いかに努力をしても毎日が同じ事の繰り返しでは、明日はないのです。仕事というのは殆どが同じ事の繰り返しで、毎日変わったことなどできないのですが、戦っている店はいつも店が新鮮です。それはその店の親父さんやママさんが、活き活きとしているからです。工夫をしないで生きている人は、活き活きしていないことがよくわかります。
 入院してわかったのですが、毎日メソメソしている人は、生きるための戦いをしていないのです。「俺は死なない、自分の葬式なんてやりたくない」と思っている人は戦っているのです。

●生き方を工夫する事でエネルギーが沸いてくる
 経営商売で繁盛する店は、生き方が活き活きしています。それは生き方を工夫している人です。これは難しいことではありません。
 あのメニューを張り替えよう、器を変えよう、お礼状を出そう、と何でも良いので工夫をしてみてください。必ず自分の心の中、体の中に、意欲というやる気が沸くのです。人間が最も大事なことはエネルギーです。生きる意欲、戦う意欲、この意欲を失うとどんな好景気が来ようとも、商売は上手く行きません。今だからこそやった結果が明確に出るのです。
 「皆さんのお店があるからこの街が好きなのだ」と言われましょう。お客様に「いらっしゃいませ」というのは当たり前です。お客様から「ありがとう」と言われる店になりましょう。お客様から大事にされる店になりましょう。お客様から大事にされない店は競争に負けるのです。そのためには厳しい戦う努力をしていかなければなりません。

●経営者の資質力をアップさせよう
 営業マン、セールスマンで上手い人、繁盛している店を見て下さい。それは初めて来た人、初めて会った人と短時間で仲良くなれる人です。初めての人と気持ちよく挨拶できますか。誰でも最初から知っている人はいません。生まれた時は親も知りません。社会に出て職場や地域から、商売を始めてお客様と知り合っていくのです。
 繁盛店は常にファンを増やし続けているのです。お店のファンではなく、そこの経営者のファンなのです。ファンを増やしている経営者は、頭も腰も鼻も低いです。そしていつも明るく楽しく親切で、常にお客様の為を考えています。
 皆さんの店は、初めての人からの電話にはぶっきらぼうで冷たく、知っている人からは「どうもどうも」としていませんか。実はここが落とし穴なのです。たとえ間違い電話を掛けてきた人にも親切な応対をする。「一事が万事」、その人のモノの考え方、生き方で商売というのは変わります。
 組合に入っている人で「メリットがない」という人がいますが、お互いに切磋琢磨し合いましょう。自分から何も出さないで、全部相手から求めようとするのでは駄目です。メリットが無いと言う人は、自分で何もしていないくせに、人が何かやってくれるだろうと思う人なのです。資質力をアップする為には「学ぶ」、「読む」、「聞く」、「書く」、「考える」こと。これを一切しないで自分の店が繁盛するとは考えられません。

●経営者にとって最も大切な資質は「気合」です
 東京は巣鴨のとげぬき地蔵に、6.3坪のちっぽけなうどん屋さんがあります。「古奈屋」といって、カレーうどんを武器に一年余りで5店舗出しています。チェーン店理論もしっかり身につけ、セントラルキッチンもできたので全国展開します。ここのカレーうどんの最大の特徴は、野菜や果物、スパイス類が多いのです。22種類の食材を併せ、3日間もかけてルーを作るのです。女性に人気のバナナカレーうどんは1,300円で、全部つゆまで飲んでいきます。潮留店は25.6坪ですが月商1,400万円です。
 自分の店で自慢できるものは何か、何が自分の店で売れているか。定番メニューに力があるところは強いのです。
 こういう時期になればなる程、同業者のこぼしあいには気をつけてください。「どこもヒマだって」という言葉に安心してしまうと、一緒に死ぬようなものです。「あっちが死んだって、こっちは死なない」と思わなくては生きられないのです。
 常日頃、自分の口から出ている通りの人生になります。だから自分の口から出る言葉は、マイナスの言葉を絶対使っては駄目です。どんな状況になろうと弱気にならず、経営者にとって最も大切な資質は命をかけてもやるぞという気合です。
 駄目な経営者は、「誰かにやって欲しいよ、面倒くさいから」。少し駄目な経営者は、「楽にできるならやってもいいかな」。ちょっと成長すると、「確実な方法があればやってもいいかな」。やや良い経営者になると、「今できることからやってみよう、捨てるものがあっても失うものがあっても更に強くなる」。最も強い経営者は「命をかけてもやり抜く」。命をかければたいがいのことはできます。
 ところが、目標が曖昧、計画は成り行き、思いが弱いでは、絶対に物事は上手く行きません。仕事に対する思い、お客様に対する思いが強い人ほど繁盛します。素敵な人、魅力的な人というのは、自分の仕事に命をかけている人です。仕事に命をかけるエネルギーがあるうちは心配ありませんが、だんだんそういうエネルギーは失われてしまいます。ここが大きなマイナス要因になるのです。

●人を丁寧に扱う店は伸びる
 皆様のお店でパートやアルバイトを採用するときには、成長させて活用させましょう。まずは人の使い方を覚えましょう。アルバイトの「茶髪」にまで経営を考えさせる店は強いです。多くの店の経営者が、「あれはしょうがない、アルバイトだから」といいますが、これでは店は勝ち抜いていけません。多くの場合、人を使うことの愚痴を聞きますが、それは人の使い方が駄目なのです。
 まずパートでもアルバイトでも、電話がかかってきたら粗末に扱う所は駄目です。反対に人を丁寧に扱う所は伸びます。アルバイトでもパートでも働くのには動機が2つあります。一つはお金の為、もう一つは皆さんの店で働こうと思った動機です。それは殆どが地元の方で、どういう志を持って経営しているかを見ているからです。志を持って、「一緒に頑張ろう」という経営者の所には良い人が集まります。良いアルバイトしか来ない店にしてしまいましょう。
パートやアルバイトの仕事の質を高めるには、考えながら仕事をする習慣をつけさせましょう。「指示」ではなく、何故それをしなければいけないのかという「理由」を教えることが人を成長させるコツです。人間は「駄目」といわれる程、やる気を無くします。仕事を通じて成長感、達成感、充実感を味わいたいのです。誰でも褒められたいし、認められたい。すると働く人は「もっと教えてください」というようになります。人使いのコツ、人が育っていくお店というのは、その店の経営者が活き活きしています。「俺も頑張るから一緒に頑張ろう」というパートナーシップを持っています。必ず「さすがプロだ」と思わせるものを感じます。「仕事に関しては厳しいが、人間的には温かい」と。
 仕事を知らない人は知っている人には勝てませんが、知らなくてもその仕事が好きでたまらない人には勝てません。不平不満と愚痴を言っている人に先はありません。仕事が苦痛で大変だという人は活き活きしていません。仕事に工夫がある人は楽しんで活き活きしています。仕事を楽しむレベルまで資質を高めてください。

●専門知識と技術力を高めていこう
 何の特徴も無い店は生き残れません。今、テナントビルには一斉にスナックが入ってきますが、プロ意識に欠けています。接客力やプロ性がどこにあるのか、お客様は見ています。景気が良かった頃は綺麗なママがいて、どこの店も満員でしたが、今はつまみひとつでも力がないと駄目なのです。
 「食べる」、「遊ぶ」に困らない時代ですから、お客様にどうしたら選ばれるかが勝負です。その人が身につけている知識や技術に感心し、感動し、信頼し、信用する。「美味しい、楽しい、安い」、大手チェーンなんて敵ではありません。皆様の個人店と大手チェーンとの関係とは、「同じお客様の胃袋を奪い合う」という意味では競争関係にあるのですが、皆さんが目標としているものは、同業態における「地域ナンバーワン」です。皆さんは大手チェーンと勝負するのではないのです。寿司屋さんは回転寿司屋が敵ではありません。まったく土俵が違うのです。
 これからは「オンリーワン」。自分の得意とするものや専門を徹底的に追求していきましょう。「スナックだけどあそこの料理はうまいぞ」といわれるように力をつける必要があります。そして「あそこに行くと本当に良い気分にさせてもらえるぞ」と、徹底的に接客サービス力を高めていく必要もあります。それでないと勝てません。

●お客様を増やす為にはお客様の満足を獲得する以外ない
 プロが作った料理をアマチュアがお金を払って食べているのです。皆様方が調理した美味しい料理がお客様を満足させるわけではありません。お客様が満足した料理こそが美味しい料理なのです。ここを掴まないと腕の良い職人ほど仕事がないのです。これは特に和食屋さんに多いです。
 料理には4つの作り方があります。1つはレシピ通りの標準的な作り方、2つ目は調理人の作り方、3つ目は時代の流行、4つ目はお客様の好みに合わせた作り方です。腕の良い職人や伝統的の世界にはまり込んだ人ほど、作り手の作り方から抜け出せず、時代の流行的な作り方や創作料理に移れないのです。今は西洋、中華、和食料理など、どんどん組み入れられてきています。
 昔はきちんと住み分けさせられていましたが、いつまでも親方から教わった作り方をしていると、結果的に時代の変化に置き去りにされます。
 お客様の好みに合わせた作り方を取り入れるということも、これからの強みです。これはお客様の思考とわがままです。まずは皆様が自分の店の「本音の評価」をお客様からぜひ聞いてみてください。この場合、店にいるお客様には決して聞いてはいけません。お店に働いている従業員の友達やお客様の友達など、5〜6人に、美味しいか?値段は高いか?従業員・経営者の感じがどうなれば行く気になるか?これを聞けばわかります。テーブルの上のアンケートは、チェーン店ではわかりますが、個人店では効果はありません。
 客数が減ったということは、よそにお客を奪われているということです。自分の店の中に原因があるのです。「どうなれば行く気になるのか」というのが一番上の要素です。お客様を増やす為には、お客様の満足を獲得する以外にありません。

●お客様と「心と心が解け合う感覚」を作っていこう
 次に接客サービスですが、全員が活き活きしている。全員が親切で優しい。全員が礼儀正しい。全員が研究熱心で仕事熱心。全員が仲良く働いている。お客様の話を良く聞く人ほどお客様は好感好意を持ちます。売る為に喋る人からは買いたくありませんが、お客様の話を良く聞く人からは買いたくなります。商売はお客様の気分を良くするほど、財布の口が開くのです。気分を悪くさせればさせるほど、財布の口は堅くなります。お客様の為に働いた分だけ、情熱はお客様に伝わっていきます。一生懸命小走りに働いているお店は感じがいいです。人を喜ばせる事が大好きなお店は繁盛します。
 お客様とは「来て欲しいことを、来て欲しいときに、来て欲しいと言える」関係になりましょう。なかなかこれは言えそうで言えませんが、これは信頼関係です。「して欲しくないことを、して欲しくないときに、して欲しくない」といえる関係です。お客様はつい我慢してしまうのです。我慢したお客は来なくなる。この心と心が解け合う感覚を作っていかなければいけません。
 そのためには会話です。「こんばんは」、「こんにちは」、「ようこそいらっしゃいませ」が、無表情ではいけません。全部お客はわかります。この関係はお客様との距離を限りなく縮めていきます。会話をしていく為にはどうすればいいか。文字理型の口上では会話にはなりません。
 入り口で出迎えのときに、繁盛している店ほど沢山の言葉がでてきます。入り口で喜ばせて財布の口を広げさせる。入り口で喜ばない店は夫婦仲が悪いか、経営者と従業員の仲が悪いのです。さらに注文を受けたときにも喜んで会話をするのです。さらに料理を提供するときも、ただ配らずに喜んで会話しながら提供する。食器を提げるとき、お客はケチなので気をつけてください。下げればお客は帰ると思えばそうではないのです。まだ料理が残っていれば、取り皿を持っていって器を変える。氷も新しいものを持っていけば、またお客様は飲むのです。ビールグラスも変えてあげれば一杯早く売れるし、お客も喜ぶのです。始めから終わりまで、「この店にまた来てみたい」と思わせる努力は「接客力」でやるのです。
 特に帰り際、お会計を喜んでしては駄目です。絶対に「ありがとうございます」を言ってはいけません。「もう帰ってしまうのですか?」と袖を引きながらこれを言います。ホステスはすねて甘えて駄々こねるのです。お客様を喜ばせるには「演技」をするのです。我々はプロなのですから、引き止めて、入れたてのお茶を持ってくる。この帰り際のサービスが大事です。
 食事が終わる寸前にお茶を入れます。お客様から「すみません」と何度も催促されている店は、2年以内に潰れます。サービス業は催促をされては駄目なのです。気が効くという店しか繁盛しないのです。お客様を困らせない、イライラさせない、恥かかせない、不安にさせない、寂しがらせないことです。そしてこの街になくてはならない店にしていくことです。