平成14年度生衛振興推進事業

宅配・配食サービス事業関連の調査研究報告 VOL.2
高浜市社会福祉協議会事務局長 森野 隆 氏に聞く

給食サービス事業の決め手は
飲食店相互の協力とボランティア精神

 全飲連では去る3月7日に平成14年度の生衛振興推進事業である宅配・配食サービス事業関連の調査研究の一環として愛知県高浜市の高浜社会福祉協議会が行っている高齢者給食サービスの視察を実施しました。
 前号の全飲連ニュース第41号では、高浜市の高齢者給食サービスの概要を紹介しましたが、今回は高浜市社会福祉協議会事務局長の森野隆氏のレクチャーの内容を報告します。
 
狭い市域と市長の情熱が福祉の街をつくる。
 高浜市の面積は13平方kmという余りにも小さな市です。車で5分も走れば隣町に入ってしまいます。地形的にも80%がフラットな地形となっていますから、小回りのきく色々な取り組みをしています。
 ですから、給食サービスも小回りのきく面積・地形に恵まれ、一軒のお店が市内全域をカバーできることがひとつの特徴だと思います。
 高浜市は瓦の町ということで三州瓦が全国シェアの40%程を占めています。最近では自動車の部品関連の製造品出荷で約60%のシェアをしめ、工業都市に切り替わっているところです。 
 高浜市は「福祉の街」と言われていますが、昔からそういう街だったのではなく、福祉の街にしたのは森貞述市長です。私も市の職員でして市からの派遣です。それまで市長の秘書を4年程やらせていただいたので、市長の福祉への思いがわかりました。市長が手がけた第一歩がここ「いきいき広場」です。これは駅前再開発で県の住宅供給公社が13階建てのビルを建てたわけですが、地下1階から3階までを市が県から借りて、福祉の拠点づくりをしました。高浜市役所に行きましても福祉関係の部署は何もなく、この「いきいき広場」に行政の福祉関係が全てワンフロアーにまとまっています。営業時間も朝7時半から晩の9時まで営業しています。休みも年末年始の6日間だけであとは年中無休です。住民票や戸籍も出せます。また福祉関係の相談はここの窓口で全部済んでしまいます。いわば福祉のコンビニです。

市内300店に給食サービスを呼びかける
 給食サービスの経緯をお話します。高浜市では以前から給食サービスはやっていました。週に2回、市内にある大手の給食センター1社で配っていました。平成10年の8月頃に、お客様の立場を考えると、「決まったものが届けられ、与えられる」というイメージが強く、食べたいものを選び、給食が楽しみになるようにできないだろかという話が出てきました。そのためには何とかメニューを増やそうということになりました。
 そこでまず何を始めたかというと、高浜の飲食店の組合長さんにまず話をしました。実はこういうことを考えているのだと、いろんなお店に協力していただき、出前方式で何か配れないか、市内には300店舗ほどお店があると思うのですが、その中には八百屋さん、魚屋さん、一杯飲み屋さん等も入っていますが、全員の方々に説明会への参加を呼びかけました。チラシを300店舗に全部に出しました。そうしましたら約60名がお集まりくださいました。

ボランティア精神と商売としての採算
 説明会では、利用者に注文を聞いていただき、給食をつくって配達、出前をしていただく。これをお願いしたいと話をしました。皆さん当然、何言っている? 何を考えているんだ、ということで、次の会合の時には半分の出席でした。会合を重ねるごとに、出席者はだんだん少なくなりました。
 最後に残ったのは11のお店でした。これは半ばボランティアだという話をさせていただきました。ですから、現在、協力して頂いているお店はボランティア精神を持った方々です。でも皆さん商売をやっておられる方ですので、決して採算を部外視してはお願いできないわけですし、一応、採算は取れるようにしていただけると思いました。
 11名の方々にメニューを2種類出していただきました。今まで1種類で配っていたものが、併せて20種類くらいのメニューができました。利用されるお客様も食べたいものを選ぶことができるので、最初の週2日の時には70名くらいの利用でしたが、現在350名の方々が利用しています。いかに選べる食事が大事かと思います。私たちは「食」も介護の大事な要素だということを常に思っていますので、お客様のニーズに応えられたと思っています。

民間にまかせ、素早いスタート
 現在のサービスは先程言ったように、平成10年の年度途中の8月に話が持ち上がり、スタートも平成11年の1月、これも年度途中です。半年でこの事業が始まりました。行政の事業にしては本当に早くスタートできました。
 これはなぜかというと、全て11のお店の皆さんで考えたからです。私どもはお願いをしただけで、やり方やスタートの日にどうしようかというのは、全て11のお店に決めてもらいました。通常行政が考える事業というのは、必ず年度当初の4月1日が普通ですね。ですが、お店の皆さんが決めたことなので、是非早めにスタートしようと。行政が考えると先々のことを色々心配して直にはなかなかスタートできません。皆さんは何かあったら、あったときに考えればいいという発想で1月にスタートしたわけです。 
 ですから、12月に市長にお願いして、12月に厚生予算を組み、1月からスタートできるように短期間で準備することができました。後先をあまり考えずにスタートしたので、11年の1月から、毎月1回はお店と事務局で懇談会を設けています。

お店が相互に助け合い事業を支える。
委託契約でないことが自由さを保障

 一番ネックになったのは配達です。11のお店が全て自分で配れるお店ばかりではありません。当然老夫婦でやっている食堂、夫婦でやっている八百屋、いろんな業者が入っています。つくるのはつくれるけど配達ができないといった時に、さあどうしようかと。それをどうしたかというと、現地のお店同士で協力をして、配達ができるお店が、違うお店がつくった給食の配達を協力する。本当にボランティア精神、やはりお店同士の協力がないとできません。
 行政の方も業務委託でお店に任せたのではありません。委託でやると縛られてしまいます。配達は毎日ですから、例えばお店の希望で、今日は冠婚葬祭でちょっと休みますとか…。委託契約だとこれはできません。だからこういった縛りをなくしました。用事があるときは当然休んでもいいよと。だからそういう時は、そのお店の分は、違うお店屋さんが代わるわけです。利用される方はメニューは色々ありますが、メニューと違ったものが届いてもあまり文句は言いません。ただ配達がなかったとき、これは当然言ってこられます。ですからメニューが違っても、食べれるものがあればまあいいやと文句は出ません。
 配る方も、当初は1食400円で協力してもらいました。各お店は注文を聞いて配達して、また器を取りに行く。これで400円の契約です。それでは配達の手数料が出ません。配達を他のお店に任せているところは、配達をしてもらうお店に1食50円を払います。これも皆さんで決めてもらいました。ですから配達をしないところは350円です。
 しかし、これではあまりにもかわいそうだということで、平成12年の4月からは市長にお願いして、50円を増額しました。さらに4年目の平成14年9月からはもう50円増やし、今は1食500円でお願いしています。それでも皆さん大変ですが、先ほども言いましたが、ボランティア精神でお願いをしているわけです。

お客様、お店、社会福祉協議会がそれぞれ役割
 また、皆さんが協力しながらこの事業を進めて行くということで、お客様、お店、社会福祉協議会がそれぞれ役割を持っています。
 お客様は必ず配達の時間帯は自宅にいて下さい。食べ終わった器は洗っておいて下さい。残したまま返さないで下さいというお願いをしています。当初、注文はお客様が各お店に直接することになっていましたが、スタート当初各お店から、注文が殺到して通常の商売ができないという話になり、注文の発注は社会福祉協議会社が今は行っています。それぞれが協力しながらやっているわけです。だから続いてきたと思っています。

商店の活性化にも役立ち始めた給食サービス
 さて、今の給食サービスが始まる前は、凡そ300万円を一軒のお店に委託していました。目的のひとつには商店の活性化も含めて考えていましたので、現在は年間1,500万円の予算となり、このお金が13店舗に流れているわけです。
 お話してきたように簡単にスタートしたわけではありません。色々苦労はあるわけです。高浜のこの取組みは、雑誌、新聞、テレビ等でかなり取り上げていただいたお陰で、全国からたくさんの視察が来ています。通常、何かやろうという事業は全国必ずどこかでもやっています。給食サービスも全国どこでもやっているわけです。ですがお店の協力でやっているところは、当初調べたのですがありませんでした。
 高浜もこれで完璧だとは思っていません。まだまだ改良の余地があります。全国から視察に来ていただいた中には、参考にしてやっていただいているところもあります。当然人口、面積などでやり方は違います。
 例をあげますと、北海道の幕別町は人口は全然少ないし、面積が広く山あり谷ありということで、担当者が大変だと言っていました。私は、1店舗がカバーできる範囲で、大きなところは大きいところなりに、まずは一店舗でその自治体の全域をカバーしようとしなくてもいいように、地区別、学区単位、町内会単位とかでスタートさせることがいいとアドバイスしました。それと、どれだけのお店にだけ協力してもらえるかだということです。