高齢者市場は大きなビジネスチャンス

公庫の調査から1
高齢者の集客を図る企業事例調査(生活衛生企画部調査課)
            
  平成12年3月の生活衛生法改正により、生活衛生同業組合が行う事業に「地域社会の福祉増進に資する事業」が追加されて3年が経過します。この間にも、国民の4人に一人が65歳以上の高齢者となる時期が、最近の推計で従来より一年繰り上がるなど、我が国の高齢化は予想以上に進展しています。
 このような状況の中、拡大していくことが予想される高齢者市場には、生活衛生業者にとっても大きなビジネスチャンスが潜在していると考えられます。そこで、今回の調査では高齢者に焦点をあて、現状を分析するとともに、高齢者をターゲットとして、集客を図っている企業事例の取材を通して、高齢者から喜ばれるサービスのポイントを検証し、紹介します。
 
■高齢者の現状
●高齢者人口の推移と将来推計
 総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(中位推計値)」 によると、総人口が平成18年をピークとして減少が見込まれるなか、65歳以上の高齢者人口は、12年が2,500万人、25年には3,000万人を超え、増加を続けるとしています。また、総人口に占める割合は26年に25.3%(4人に1人)、53年には33.6%(3人に1人)に達すると予測しています(図1)
●高齢者の可処分所得と金融資産
 厚生労働省「平成13年国民生活基礎調査」によると、一世帯当たりの可処分所得は、65歳以上の高齢者世帯で284万円となっており、全世帯の半分程度の水準です。しかし、これを世帯一人当たりの可処分所得でみると、高齢者世帯は一人4万円で、全世帯と差はありません(図2)
 また、総務省「平成11年全国消費実態調査」によると、世帯主年齢別の貯蓄額は全世帯が1,304万円であるのに対し、60〜69歳が2,005万円、70歳以上が1,821万円であり、高齢者世帯の貯蓄額のほうが多くなっています。
 一方、住宅ローン等を含めた負債額では、60〜69歳が217万円、70歳以上が110万円となっており、貯蓄額とは反対に、全世帯の平均より少なくなっています(図3)
 このようなデータから、高齢者の消費拡大に期待が持てることがわかります。



■企業事例
 次に、高齢者向けのサービスに工夫を凝らし、高齢者の集客に取組んでいる企業の事例について紹介します。

1、元気がでるメニュー
柾駕(おうが)/中華料理店  東京都東久園田米市
 メニューのコンセプトは体にやさしい。味を落とさずに辛さを抑え、肉より魚介類、野菜は無農薬、調味料は無添加にこだわります。また、一品のボリュームを抑え食べやすくして、和風の食器を使用するなど、高齢者の心をくすぐる工夫があります。食事を終え「何か元気が出た」と言って帰っていく高齢客も多いそうです。
 主な客層は、初老の女性客や夫婦客で、グループでの利用が多く、食事後一時間近くお茶を飲んで談笑するなど、くつろぎの場としても利用されています。

2、見知らぬ者同士の社交場
野島(のじま)/焼き鳥店 東京都東村山市
 お客様が12人も入れば満員となる立ち食いの焼き鳥店。一人での来店客が多く、午後3時の開店からの数時間は60歳前後の男性客が多いのが特徴です。
 店主が心掛けていることは、お客様の名前を覚え、その名前で呼ぶこと。自分の名前で呼ばれると、それだけで店とお客様との距離感は一気に縮まるそうです。店主や店主を介して見知らぬお客様と話の輪が広がる社交場としての魅力があります。

3、日本茶が飲める喫茶店
栞(しおり)/喫茶店  福島県白河市
 メニューの特徴は日本茶。煎茶やほうじ茶など5種類がお菓子付きで500円からとなっています。使用するお茶葉は、白河のおいしい水と相性が良かった静岡産のものを店主自らが選びました。
 3年前の店舗改装時に以前のコーヒー喫茶店からメニューを一新しました。その理由は、団体観光客の減少等により隣接する南湖公園の来園者層が変化したことでした。メニュー変更後、地元の人を中心に中高年客の割合は従来の3割から7割に増え、特に平日は高齢者が大半を占めており、公園内を歩いた後にゆったりとくつろげる喫茶店として好評を得ています。

4、シルバー割引とコミュニケーション
カットインありがとう/理容業  東京都武蔵野市
 平日午前9時から午後3時まで「シルバータイムサービス」を行い、通常、総合調髪3,800円のところ、60歳以上の方は2,600円に割引しています。その結果、平日のアイドルタイムに多くの高齢客が来店するようになり、平日と土・日曜日との来店客数の平準化にもつながりました。
 接客面では、スタッフが積極的に声をかけ、会話の中から高齢者の髪の毛に関する悩みを発見し、対処法を提案するなどコミュニケーションを大切にしています。

5、大きな声で歌って健康増進
梅の湯ほか銭湯六軒/公衆浴場業  東京都町田市
 町田市では、65歳以上の高齢者を対象に、町の銭湯を利用した「デイ銭湯」を実施しています。毎月第2、4週の月・水・金曜日に市内6つの銭湯が交替で、午前11時から3時間実施し、初めの2時間はカラオケや体操、ゲームなどを楽しみ、途中昼食を挟んで、最後の一時間は皆でお風呂に入ります。
 「デイ銭湯」に参加した高齢者の方が、一般客として入浴に来たり、銭湯の良さを参加者から聞いた人が来たりと、少しずつではありますが通常の営業の集客にもつながっています。

6、日本初の温泉保養士
いわき湯本温泉旅館協同組合/旅館業  福島県いわき市
 いわき湯本温泉では、団体客から個人、グループ客中心に旅行スタイルが変化していることや、宿泊客の高齢化を背景に、「一泊宴会型から連泊滞在型への移行」を目指し、独自の温泉利用アドバイザー制度「バルネオセラピスト(温泉保養士)」を創設しました。その役割は、地元温泉の効能をよく理解し、高齢客などに肩こり、腰痛等の持病に対する適切な入浴方法を説明するとともに、入浴事故の防止を図るもので、最終的には平日における高齢者の連泊需要を開拓することです。第1期生40人のうち旅館関係者は7割で、残りは温泉街の商店主など多岐に渡り、街全体で温泉をアピールする意気込みが感じられます。
 また、社会福祉協議会と連携して、高齢者向け入浴サービスを行っており、ここでもバルネオセラピストが安全な入浴方法を説明するなど活躍しています。

■まとめ
 ここまで紹介してきた企業の取組みから、高齢者の集客を図っていくためのポイントを左の表にまとめてみました。
 近未来社会や生活をテーマに活動する(株)ヒューマンルネッサンス研究所が50〜70歳代を村象に実施したアンケートによると、「何が暮らしの満足度を決めているか」の問いには「健康」が一番多く、また、「居心地のよい場所は」の問いには「家庭」に続いて「趣味・サークル活動の場」「友人の集まり」が上位を占めています。
 高齢者における「健康」や「コミュニティ」へのニーズが高いことが推察でき、企業はそれぞれの業態の特徴にあわせて、これらの要素を盛り込んだサービスを提供することにより、高齢者の集客が可能になると考えられます。
(佐々木広和)


高齢者の集客を図っていくためのポイント


1、サービス面での工夫
(1)健康に良い
 サービスを享受する高齢者にはっきり“健康に良い”ものであるというイメージを伝える。
(2)コミュニティ
 そこに行けば、一時を友達と一緒に快適に過ごすことができるなど、コミュニティの場としての役割を提供する。
2、アイドルタイムの活用
 平日でも十分な余暇時間を有する高齢者に対して、アイドルタイムを有効に活用し、他の時間帯とは異なるサービスを提供する。
3、公的機関等との連携
 公的機関等へ働きかけ連携することにより、サービスを受ける高齢者の裾野が拡大する。

 生活衛生だより 2003年No.129(4月号)より