味つづり 36 倉橋 柏山

白菜は、冬霜にあたって旨くなる

「大白菜かがやく芯に刃を入れる」村田 脩

 春の七草ですずなは蕪であり、すずしろは大根である。奈良時代、大根は高級野菜であったといわれ、蕪は神代の時代にさかのぼるほど古くから日本にあった。
 冒頭の白菜もしかり、万葉の昔から、日本にあったような顔をしているが、日本における白菜の歴史は、明治8年(1875)とまことに浅い。それも東京博覧会に、中国(当時は清)から山東白菜を出品したものを、愛知県植物栽培所が払いうけ、苦節十年をかけて県下に普及出来るようになったといわれ、日本における栽培の歴史は明治末期からであると、物の本にある。
 わが国と中国との交流は、二千数百年に及び、農作物をはじめ、古来多くのものが中国から伝来してきたが、白菜は明治になってからとまことに浅い歴史である。
 白菜は蕪や小松菜等と親類で、アブラナ科で、日本で最も普及しているのは、山東系の結球白菜である。この大白菜の根元に包丁で切り込み、四つ割にし、半日ほど干して塩漬けにしたものが白菜漬けである。樽が理想であるが、容器の底に塩を振り、白菜の根元と葉先を交互にして並べ、その上から塩を振る。これを繰り返し、落としぶたをして重石を乗せる。水が上がったら白菜を取り出して水を捨て、昆布、赤唐辛子、柚子などを間にはさみながらもう一度塩漬けにする。待つこと一週間。手作りの美味しい白菜は手間も時間もかかる。キムチの国、韓国でも若い娘はキムチを漬けられないと聞くが、日本における白菜漬けの普及率はまことにおそまつであるようだ。
 やや黄色味を帯びた白菜漬けを青磁の器に盛り、天盛りに刻み柚子をたっぷりのせる。ところどころにまっ赤な唐辛子の輪切りがのぞく。実に美しい。そして口に入れると実に旨い。
 白菜鍋という手軽で旨い食べ方がある。白菜はざっくりと一口大に切る。しめじ、えの木茸、椎茸、舞茸などを1〜2種と豚の3枚肉を適宜。あとはスープかだし汁を5〜6カップ鍋に入れ、酒と醤油と塩少々で調味し、煮立ったら豚肉を加え、白菜やきのこ類をさっと火を通していただく。合鴨や鶏肉などを用いても旨い。
 ベーコンと白菜を重ねて蒸した博多蒸なども白菜の旨い食べ方ではないだろうか。白菜は一枚ずつはがして芯のほうから先にゆでてざるにあげて水気をきる。この時、熱湯にサラダ油と塩を少量加えてゆでると白菜の甘みが増すようだ。白菜はたて半分に切ってバットに交互に並べ、その上にベーコンを並べ、3〜4段の厚みにし、塩、こしょうで調味したスープを注ぎ、軽く重石をのせて2〜30分蒸し煮にする。冷めたら四角に切り、器に盛って5〜6分強火で蒸し、熱つあつに辛子を添えていただく。この上に温めたホワイト・ソースをかけても旨い。ホワイト・ソースは、鍋にバター1、小麦粉1を入れて火にかけ、しゃもじでよく練りあげ、牛乳6、生クリーム2の割合で作るといいだろう。
 一週間かけて白菜漬けが無理なら一夜漬けという方法もある。白菜は3〜4センチのざく切りにする。彩りと歯ざわりに大根と人参を薄く半月かいちょう形に切って各一割ほど加え、約2%ほどの塩を振って卓上漬け物器に入れ、水が上がったら水をすてる。薄い昆布をハサミで細く切り、刻み柚子、輪切りの赤唐辛子、柚子かスダチのしぼり汁、醤油、酒をそれぞれ少量ずつ加え、もう一度卓上器で漬ける。胡瓜なども少量加えるとさらに彩りが美しく、翌日から食べられる。
 白菜も一年中店頭に並ぶ旬不在の野菜であるが、冬、霜にあたると甘みと風味が増して一段と美味しくなるくせのない野菜で利用範囲の広い素材であります。