コミュニティビジネスとしての飲食店の方向性を示唆する
商店街が手がける給食サービス
全国で商店街の衰退が大きな問題となっています。個店だけでは立ちゆかないし、行政のさまざまな商業活性化や、従来型の振興組合活動でも対処しきれないほどの危機に立たされている商店街は多い。この難題を打破するために、「商店街株式会社」を立ち上げたり、新たなコミュニティビジネスを展開したりして、これまでにない新しい商店街事業を模索している商店街が増加しています。「商店街株式会社」や新たなコミュニティビジネスの仕事から派生する消費を商店街に還元し、組合員や地域への雇用の場を創出したり、地域の福祉にも貢献するなど、新しい動きが広がっています。
商店街が高齢者への給食サービスなどに取り組む事例も数多く出てきています。地域の飲食店や組合も、これからはより地域と密着していくことが求められています。今後、地域の飲食店や組合が、地域の商店街と提携して新たな商売のあり方を模索していく上での参考事例として二つの事例をご紹介します。
東和銀座商店街振興組合(株)アモールトーワ
商店街が地域住民にとっての「コミュニティの場」として、大型店とは異なった役割を果たせることを示している「どこまでも地域に根ざした本当のふれあいの場を創る」ことを目指して、合計41人の組合員が出資し、資本金1,350万円をもって平成2年に株式会社アモールトーワが設立されました。このアモールトーワでは高い収益性が望めない、半ばボランティアのような仕事でも地域のために実施することで、地域住民の共感を呼び、結果として受注が増えるという好循環が生まれています。パートタイマーを含めた従業員数は、最大の給食部が約60人、他の事業部を合わせた総数で約130人にのぼり、その8割が女性です。
●小学校・保育園の給食
現在8つの小学校に学校給食を配給しています。学校給食の請負は、学校給食が自校方式から民間委託方式へと切り替わる中で、地域の子供たちの給食は地域で作ろうとの考えから始めたものだそうです。現在約90人の従業員がこの事業のスタッフとして働いています。
●高齢者への弁当配達サービス
一人暮しのお年寄りや、昼間一人となるお年寄りを対象に現在約50人にお弁当を宅配しています。「地域社会のため」という理念に基づいて始まった事業で、当初は赤字という状態でスタートしましたが、商店街が半ばボランティアで行っていることに地域から高い共感が寄せられ、現在では多くの弁当注文を受けるようになったそうです。宅配先では、寝たきりの方には、枕元の弁当が食べられるところまで届けるサービスをしています。
西新道錦会商店街(京都市中京区)
昔ながらの道端に商品を張り出し、積み上げる露天風の西新道錦会商店街は活気に満ちています。見た目は近代的とはいえないこの商店街は、大手の量販店を圧倒するほどの先進的な流通ノウハウと、強固な地域コミュニティとの絆があります。ICカード事業やファックス宅配サービスはなどを手がけた全国の商店街の先駆けとして知られています。西新道錦会商店街が始めた近隣高齢者向けの昼食サービス事業は、高齢者福祉と商店街という場をマッチングさせた事例として、全国的な注目を集めています。
●高齢者給食サービス事業
高齢化率が高い同商店街地域では、高齢者福祉は大きなテーマ。ヒヤリング調査の結果、高齢者ほど「毎日でも商店街を開けてほしい」と会話やふれあい、交流を求めていることが判明しました。そこで、商店街の元ふとん店だった空き店舗15坪のスペースをサロン風に改装し給食サービスをスタートさせました。
毎週金曜日が給食サービス日で、地域で活動する高齢者向けの配食ボランティアグループが、給仕や配食を担当。食材は商店街で調達し、地域内で消費活動がすべて循環するような仕組みになっています。1食600円で50人前後が毎週食事を楽しんでいるそうです。
飲食店が地域との関わりを考えていく上で、この二つの商店街のサービスは、ひとつの方向性を示唆していると言えます。飲食店や飲食業界(組合)という枠にとどまらず、地域あるいは商店街という広がりや連携の中で、飲食店が果たすことのできる役割があるのではないでしょうか。コミュニティビジネスとしての飲食業という視点が求められています。