九州ブロック講習会 平成13年10月10日(水)鹿児島市

生き残り経営戦略 21世紀の外食産業

株式会社オージーエムコンサルティング
代表取締役社長 講師 榊  芳 生
 
四国一番の飲食店から倒産、そしてコンサルタントに
 ご紹介いただいた榊です。香川の割烹旅館に生まれ、物心付いた時には父親は厨房で、母親はホールで働いておりました。64年間、皆様と同じ飲食業の世界に働いております。
 私自身も大学3年生のとき、松山市で飲食業を始めました。4年生のときには、高知市に2号店を開業。友人たちに四国一の飲食店の経営者になることを誓って、本格的に飲食業界に身を投じました。28才で約束どおり四国一の飲食店となることができました。38才の時には19店舗、1,700席、社員250名のチェーン店となりましたが倒産。まさしく地獄を見ました。
 この業界で小さい頃から辛い思いをしながら働いて、会社が大きくなって大勢の社員を抱えても、もがき苦しみました。「ロイヤルホスト」の江頭氏や「すかいらーくグループ」の横川、茅野兄弟は同じ勉強仲間です。
 倒産して私はコンサルタントになろうと思いました。倒産させた理由は、日本青年会議所の会頭になろうとして青年会議所の活動にのめり込んだからです。38才の時、日本青年会議所の副会頭に決定したのと同時に会社は倒産しました。その後の2年間を会社の整理に費やし、40才で東京に出ていきました。
 2年間、うなぎのタレを全国に売り歩きました。約120社に売り歩き、その時に出会った40社の力を借りてOGMコンサルティングを設立しました。42才でした。
 コンサルティングを始めるにあたって、これまでの自分の経験を活かせば必ず成功すると信じていました。お蔭様でいろいろな出会いの中で、現在では正会員570社、準会員を入れると940社、店舗数は約1万店の会員のお世話をさせていただいています。韓国でも100社、2,700店のお世話をさせていただいております。
 今日これからお話しさせていただくことは、理屈ではなく皆様と同じ飲食業界にいる仲間である私が、今まで経験してきたことの中からお話しするのであるとお聞きいただければと思います。
グローバルスタンダードが通用しない時代
 皆様は当然お感じだと思いますが、世の中が変わってきています。しかし、その変革の姿は不透明です。そのもどかしさが私達の焦りに繋がっているのではないでしょうか。
 日本の近代史において、二度の大きな変化がありました。一度目は明治維新です。江戸幕府が倒れて明治政府が誕生して、武士が刀を捨てました。二度目は、太平洋戦争に負けて、天皇制が変わり、軍国主義が変わりました。そしてアメリカ型の民主主義社会となりました。
 しかし今、その二度の変化に優るとも劣らない変化が起こっているのです。しかしそれが何であるのか、目に見えないのが問題なのです。昨年9月、アメリカで同時多発テロが起こりました。目の前でアメリカの、いわゆるグローバルスタンダードが通用しない時代が来る事を見せ付けられました。
 20世紀から21世紀にかけて、世の中は間違いなく変わりました。我々の世代は、第二次世界大戦以降の世界を実際に見てきました。敗戦後の日本は、昭和20年代には石炭・鉄鋼業に力を入れてきました。30年代に入ると紡績や家電、軽工業、40年代には自動車産業に力を注ぎ、それに伴って輸出に関連して商社が伸びてきました。バブル以後には金融商社が力を持ってきました。気が付くと、今や情報通信の時代になってきています。
 敗戦後にはトランジスタラジオが欲しいと思いました。家庭を持つと電気洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、自動車が必要になりました。20世紀の後半はモノを作り、一人でも多くに届けるシステムを作った社会でした。気が付くと大量生産をするために、中小の自動車メーカーや家電メーカーは統合され大企業となりました。ダイエー、イトーヨーカドー、ニチイなど小売り業界もそうです。すなわち大量生産、大量販売の社会だったわけですが、その概念がくずれ始めているのが21世紀なのです。
 人々は同じモノを作り、同じモノを大量に使うために働いてきました。そして大量消費による大量廃棄を生み、ダイオキシンなど環境問題が起きています。モノを手にして初めて気が付いた人間や地球にとって都合の悪いことの象徴的なものが、バブル後の日本の社会であると言えます。
モノから感動の時代
 私は、20世紀は物欲社会であったと考えます。あの西暦2000年(ミレニアム)を迎える瞬間に、何があったと思いますか。渋谷では12,000人あまりの若者が一斉に携帯を使ったため、通信システムがダウンしました。20世紀はモノを手にする事で、喜び満足することができました。21世紀は人の知らないことを知り、人よりも早く新しいことを取り入れることで喜び、満足する時代なのです。つまり、情報の時代です。そしてモノから心の時代へと変わります。そう考えた時、商売も「モノ」から「感動」を重視した商売に変わらなくて良いのか、ということです。
 商売をする私達の周りには三つの難関があります。まず、消費者が感動するには、今や「安い」ということが第一になっています。今までと同じでは感動できない顧客レベルの高いお客様が商売相手だということです。
 二番目は外食マーケットの成長が5年前から止まっているということです。1975年から1995年まで外食産業のマーケットは、5兆8,000億円から29兆円へと5倍に成長していました。しかしその後の5年間では1.6%しか伸びていないのです。
 第三は大手チェーンが徹底的に安売りを始めたということです。彼らは増収増益が目標です。特に上場企業は一店舗あたりの売上が落ちるので、会社として売上を確保するために、どんどん新規出店してきています。今、皆さんの店は安売り店に囲まれているのです。これらの問題にどのように立ち向かうかが今日のテーマです。
 世の中は”モノ“が行き渡ると、間違い無く”モノ“に対する要求が二極化します。例えば、私たちの高校時代には、カメラを持っていることは珍しいことでした。私は当時では珍しい一眼レフのカメラを持っていました。カメラは写真を撮るために必要であるのと同時に人々の「欲しい」という欲に対する羨望の的だったのです。
 これは必要な物に対する必要需要と特別な物に対する必欲需要に別れてきます。現在のユニクロは、まさに必要需要であり、エルメスやグッチなど高級ブランドは必欲需要です。
 飲食業界においても北海道から沖縄まであらゆる業種があります。必要需要として腹一杯になればいいのであれば、消費者はマクドナルドへ行くのです。一方、「折角なら楽しく美味しい物を食べたい」という必欲需要があります。どちらにも属さない中途半端な商売が一番ダメです。安く売るか、ある程度高くても価値のあるモノを売るかどちらかです。今までの延長戦上で売れるはずが無いのです。
エキサイティングな店づくり
 これからはエキサイティングな感動できる店を作らなければなりません。我々には、「マクドナルド」や「ジョイフル」、「ガスト」の真似はできません。「ジョイフル」が近くにあるから安くするなんて絶対にダメです。価格以外にジョイフルに負けない価値をどう作るかということです。大企業は安売りという売り方しかできないのです。感動する店づくりができないから安く売っているのです。すかいらーくグループの「夢庵」という店は、当初客単価1,800円から2,500円を狙っていましたが、できませんでした。しかし皆さんのお店は、それができるのです。
 21世紀にそのような大手のやり方では、社会から疎外されるのです。今アメリカではマクドナルドが社会から非難されています。ハンバーグ業界のシェア65%の威力で牛肉メーカーを10社あまりに統合してしまう。これが問題となっています。アイダホポテトも5万軒あった農家を20数社の大会社の再編成してしまっている。手作りのモノが無くなってしまったことを危惧したアメリカのジャーナリズムは、これらの大企業を徹底的に叩いています。
 私が27才でアメリカに行った時、マクドナルドは全米に700店程度でした。今では18,000店です。700店の頃は、マクドナルドでのアルバイトには良家の子供達が働いていたのです。カーターやクリントンもかつては働いていたんです。今ではマイノリティ、つまりアフリカ系アメリカ人やメキシコ系アメリカ人の子供の働き場となっているのです。そしてここ40数年間、各州における最低賃金で働かせているのです。安売りの店とは、訪れる客にとってだけでなく、そこに働く人にとっても決して快適な職場ではないのです。
 私達の世界では、いかに価値あるものを作りお客さまに感動してもらうか、常に創意工夫することが大切です。そして同時に働く人の感動にこだわる店作りをしなければならないのです。
本物を見極める力
 私達が子供の頃は、お腹一杯食べられれば良かったのです。私もサツマイモが沢山入ったお粥で少年時代を過ごしました。「ボリュームいっぱい、スタミナどんどん」が昭和20年頃の飲食店のキャッチフレーズでした。今、それではダメです。「もっと美味いモノを食べたい」というニーズが出てくる。私はちょうどその転換期に商売を始めたのですから、成功して当たり前なんです。時代に乗れたのです。
そして、大阪万博や東京オリンピックなどの大型イベントでアメリカに目を向け、大勢のお客様を受け入れられるファミリーレストランが輸入され、今日に至っています。
 しかし、工場で作って温めるだけで美味しいはずがありません。デパートの地下では、もっと美味しい食品を売り始める。テレビ番組ではグルメを取り上げる。気軽に海外に行って本物を食べることができる。そうすることでお客様は「これはいい」という本物を見抜く力を持ってくるのです。
 そんな中で私達ができることは、「うちの店は、大手チェーンとは違う」という商品力、接客力、店舗力を持つことであり、それを見極める力を持つ事なのです。
感動と喜びを実現する職場づくり
 働く人も同じです。かつて私達は、世間並みに家や車や電化製品などを買うために一生懸命働きました。その時期は、会社のマニュアル通りにやっていればよかったのです。しかし今、欲しい物をすでに手にしている若い人達に20年、30年前と同じことを言っても頑張るはずがありません。働く人がそれぞれの感動や喜びを実現できる職場にする、一緒に働くことで心が豊かになる職場でなければ若い人は付いてきません。お客様の感動と同じように、働く人の感動レベルにいかにこだわるかが21世紀の魅力ある飲食店づくりです。
 私は若者の前で講演する時に、必ず「あなたは何故ここで働いているのか?」と聞きます。また経営の相談に来た店主には、「何故、商売やっているのか?」と聞きます。ある若者は、「家族を養うためです。」と答える人もいますし、「人生の自己実現のためです。」という方もいます。しかしほとんどの人は「わからない」と答えます。私は働くことは自分達の幸せのために働くのだと思います。どのように素晴らしい人生を送るか、そのために働いているのではないですか。
 依頼を受けてコンサルティングを始める前には、必ずその人の人生を聞きます。十年先を聞きます。実は、私は倒産させた時期、社員の幸せを考えていませんでした。自分の日本青年会議所での立場、兄の選挙活動などに夢中でした。その失敗から得た答えとして、商売の前には必ず自分の人生を考えるようになったのです。幸せをどう掴むか。商売の事はその次です。社員やパートさんに「あなたの人生は?」と聞ける社長でなければダメです。
 今までは、アメリカ式の考え方であるQ(クオリティ・商品力)S(サービス・接客力)C(クレンジネス・店舗力)を保つことが繁盛の原点でした。いつ食べても同じ味であることがクオリティであり、ベテランもアルバイトも同じ接客をすることがサービスでした。そして動線を考慮し、少ない従業員でも目の行き届く店が店舗力でした。しかし、これでは誰も感動しないのです。
21世紀はエキサイティングなクオリティ、ピタリティ、アトモスフィア
 21世紀は、Q(エキサイティング クオリティ)H(エキサイティング ホスピタリティ)A(エキサイティング アトモスフィア)です。Qとは、従来のチェーン店が通信簿で言えばオール4であったとすると、2や3があっても圧倒的な存在感のあるこだわりがあれば良いということです。
 Hは、従来の接客が”サービス“であったのに対して、”ホスピタリティ“とはお客様に仕えるのではなく、それぞれの従業員が個性を出しながら喜んでいただくという”もてなし“の精神がエキサイティングホスピタリティであるということです。
 そして、A(アトモスフィア)。かつてのクレンジネス(清潔であること)は、今やそれ以上のことが求められています。厨房がきれいであることは当たり前なんです。今は雰囲気を重視する時代です。例えば、包丁を使う音や食器を洗う音などが聞こえるオープンキッチンが流行っています。作る人間と食べる人間の会話があり、感動を共に作っていくのです。
 今日までは、システムどおりにやっていたチェーン店が流行っていましたが、これからは経営者が「感動」を知っていることが重要です。
 「感動」には四つあります。一つは、人との出会いの感動です。結婚や子供が生まれるなど肉親に対する感動、かつての友との再会など人間同士の感動です。二番目は自然との出会いに対する感動です。海や山、大地に対する感動です。三番目は芸術との出会いの感動です。素晴らしい音楽や映画、本に出会って感動できるかどうかです。最後は、目標を達成した時の感動です。自分の人生の目標を達成することに対する自分自身への感動です。どのようにしてこれらの感動にこだわるか。それによって21世紀型の繁盛店を作る事ができるのです。

講師プロフィール
 香川県観音寺出身。中央大学法学部卒業。学生時代に飲食業界に飛び込み、四国で19店舗をチェーン展開するが、倒産。その後、食品販売で全国を回り、そこで出会った企業各社の協力を得て、OGMコンサルティングを設立。自ら飲食チェーンを経営してきた現場の経験を活かして、現在では国内の飲食業界940社、約1万店のみならず韓国でも100社、2,700店のコンサルティングをおこなう。OGMコンサルティング代表取締役社長。

OGMコンサルティング
OGMスモールビジネスについて
 OGMコンサルティングは、創業以来20年間余、「小が大に勝つ」、このことに多くの会員企業と取り組み、その結果が、今日の会員企業540社の繁栄を実現してきたコンサルティング会社です。
 OGMスモールビジネスのメリットは、成功事例を持っている企業のFCになることが可能。人生観を共有するOGMグループ企業のバックアップ体制が整っている等々です。
 OGMスモールビジネスの特徴は、投資金額が2千万以下のパッケージであり、転業の場合は改装で対応できる可能性がある。時代のニーズに適合したニュービジネスで繁盛店への検証ができている。他社との差別化ができていて、競争に戦える事業フォーマットである。システムができており、研修を受講することにより安心して開業できることです。
 OGMスモールビジネスの加盟については、全飲連組合員の転業という側面でとらえる。OGM会員企業になるという制約はない。紹介から加盟店成約の場合はフィーを支払う。加盟に関する相談は無料とするとなっています。
 また、全飲連の事業展開へのOGMのサポートは、組合員の経営指導の受諾(有料)。会員になるまでの企業診断相談は無料となっています。