味つづり〈32〉 倉橋 柏山
大豆の結晶 豆腐「湯豆腐や昔ながらの四畳半」本田あふひ
外は木枯らしのふく寒い夜。炬燵に入って一つの鍋をつつきながらさしつさされつさし向いの湯豆腐、冒頭の句ではないが、四畳半での味わいは身も心もあたたまる冬の醍醐味である。
豆腐は中国の発明で、おそらく唐(618〜907年)の末頃であろうといわれる。豆腐とは変な名前であるが、大豆を水に浸してすりつぶし、これを火にかけてしぼる。しぼった乳白色の液が豆乳で、しぼりかすがおから。豆乳に凝固剤を加えて火にかけ、木箱に布を敷き、流し固めたものが豆腐。戦前までは苦汁(にがり)が使われていたが、取り扱いが容易で滑らかな豆腐が比較的簡単に作れることから現在は主として硫酸カルシウムが使われていると聞く。大豆の風味や甘味を引き出す特性があるためか、最近又、苦汁を使った豆腐も作られるようになった。
ものの本によると、わが国で最初に豆腐のことがでてくるのは、平安時代の寿永2年(1183年)、奈良春日神社の神主の記録であるといわれている。室町後期の「71番職人歌合」には女性の豆腐売りが描かれ、一般庶民の口にも入るようになったのではないかと書かれている。
江戸時代、天明2年(1782年)「豆腐白珍」が出され、さらに百種の料理法が書かれた続編が出されるほど豆腐は日本人好みのものとして、独自の味を育て上げつつ今日なお愛されてつづけている。
「豆腐百珍続編」に「合歓(ごうかん)とうふ」というちょっと艶しい名の料理がある。豆腐と餅を組み合わせた美味しいものである。切り餅の倍位の厚さに豆腐を切って熱湯で充分に温めておく。餅も形を崩さないように湯煮して柔らかにする。器に熱湯を注いで温め、湯をすてて布でふき、豆腐を穴杓子ですくい、静かに器に入れ、その上に餅をのせ、生姜あんをかけ、削りかつお節を天盛りにする。今風に彩りよくするなら紅葉麩を添え、刻み三つ葉を散らすとよい。又、豆腐の上の餅が滑らないように間に海苔をのせて餅をのせるといいだろう。
拍子木に切った豆腐を熱湯で温め、水気を切って器に盛り、練り味噌をのせてその上にご飯を盛り、柚子、生姜、粉さんしょう、胡麻、七味唐辛子などの薬味で食べる「埋豆腐」と言う古い料理がある。今日で味噌汁や清まし汁などをかけた汁かけめしの一種になっているが、酒のあと、茶漬け代りにいいものである。さいの目に切った豆腐を薄味で煮て器に盛り、熱いご飯を盛り、熱あつの清まし汁又は、薄葛仕立てのあんをかけ、おろし生姜、刻み三つ葉を散らして、熱あつを食べる。関西では白味噌仕立の味噌汁をかけるようである。八杯豆腐という古い料理がある。奴か拍子木に切った豆腐を、水四杯、酒二杯、しょうゆ二杯で煮たもので、葛を引いてとろみをつける場合もある。その現代版、酒豆腐はいかがだろう。湯豆腐の湯を酒に代えたもので、土鍋にたっぷり酒を注ぎ、その中に豆腐を泳がせ、湯豆腐と同じように食べる。注意することは酒に火が入らないように火を弱め、じっくり豆腐を酒で温めることである。
豪華な気分で至福の味である。鍋物は一人ではさびしすぎるが、湯豆腐はさし向いに限る。
豆腐料理は江戸時代でさえ300種近くあったといわれ、数限りなく料理法はあるが、こだわり豆腐の美味なるものはシンプルなほどいいようだ。寒さと共に大根おろしを使ったあわ雪鍋などはいかがだろうか。土鍋に清まし汁強のだし汁を注いで火にかけ、手でちぎった木綿豆腐を入れて煮立ちさせ、軽く水気をしぼった大根おろしに、溶き卵白を混ぜ合わせて上から平均に流し入れ、卵白に火が通ったらぽん酢醤油で食べる。薬味はおろし生姜、刻み葱、七味や柚子など、好みのものを用いればいいだろう。