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飲食・サービス業界と音楽著作権
〜演奏権保護の国際水準へ向けて〜
(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)演奏部長 三津木 一守

 新しい世紀は、社会構造のさまざまな変化とともにはじまりました。インターネットの登場など情報伝達技術のめざましい発展の中で、著作権をめぐる環境も大きく変わろうとしています。
 10月1日には、新しく「著作権等管理事業法」が施行され、著作権の管理事業にも〈自由競争〉の時代が到来します。この法律により、私どもJASRAC以外の企業・団体の音楽の著作権管理事業への参入が考えられますが、少なくともカラオケ演奏の著作権管理など「演奏権」の分野で、他団体が参入する可能性は少ないというのが、一般的な見方です。
 また、一昨年の著作権法改正により、店舗内等でのBGMの利用についても著作権が及ぶことになりましたが、具体的な管理に際しましては、JASRACの集中管理体制と、これまで築いてきた飲食・サービス業界の皆様との信頼関係、さらには、有線音楽放送事業者、BGM音源提供事業者など、関係業界の皆様のご協力が欠かせません。
 BGMの管理につきましては、後述しますように来年4月からを予定していますが、この機会に「演奏」という行為に働く著作権を仲立ちとした、皆様とJASRACの絆を再認識し、著作権への一層のご理解を賜ることができれば幸いです。
■「印税」の認識と演奏権
 とかく著作権というと、「作家の○×さんの印税は・・」などと所得番付の発表の時に取り沙汰される「印税」という言葉で、漠然と理解されているようです。また、レコードの売上から支払われる歌手の印税=歌唱印税(アーチスト印税)と、JASRACが受け取り、作詞家、作曲家などに分配される著作権使用料が混同されることもあります。
 印税という言葉は、小説などの著者が著作権料を受け取るため、本の奥付に一冊ずつ捺印をして、発行部数を確認していたところに由来すると言われ、法律用語ではありません。とはいえ、印税という言葉が早くから一般に知られていたことから見れば、少なくとも、レコードなどの有体物に音楽を録音(複製)する場合は、印税(複製の著作権料)が必要という社会的な了解はあり、その限りではしばしば耳にする「わが国は知的所有権への理解が遅れている」との指摘は当たっていないのかも知れません。
 しかしながら、同じ著作権でもカラオケ演奏など「演奏」という形のない複製の権利については、わが国では一般の方々に理解されるまでには、多くの時間と労力が費やされてきました。西欧では、レコードが登場する以前に、その作品が演奏されることから発生する権利として作詞家、作曲家の著作権が社会的認知を受けており、有体物への複製使用料=印税=著作権料として一般的に認知されてきたわが国の歴史との違いが、演奏の著作権への理解が遅れた一因ともなっているようです。
■音楽著作権協会の誕生は、飲食店の演奏
 フランスのSACEMという音楽著作権協会は、今からちょうど150年前の、1851年に設立されました。設立の背景にはある事件がきっかけになっています。1847年のパリ。シャンゼリゼ通りのカフェ「アンバサドール」という店で飲食したブルージェ、パリゾら3人の作詞家や作曲家が飲食代金の不払を宣言。「自分たちの作品(シャンソン)がこの店で歌われているのに、何の対価の支払いもない」というのが不払の理由。裁判の結果、ブルージェたちの主張が認められた事件でした。この事件を機に、フランスの作詞家、作曲家らによってSACEMが、そして西欧各地に音楽著作権協会が設立されていきます。
 食い逃げとは、あまり誉められた話ではありませんが、営業に音楽演奏をすれば、著作権の使用料が必要であることをストレートに理解できる事件として、今に伝えられています。
 エジソンが蓄音機を発明したのが1887年ですから、西欧ではレコードの「印税」が一般化するはるか以前に、演奏することの対価として著作権料が支払われていたことになります。ですから、その後に生まれた録音物による演奏であっても、演奏の形が変わっただけで、著作者の権利が及ぶのは当然のこととして受け入れられています。デパートも遊園地も空港ロビーでも、BGMは無料とされてきたわが国との違いは、歴然としています。
■カラオケ管理と関係業界との連携
 飲食店などで利用されているカラオケ演奏から使用料のお支払いを頂く、いわゆる「カラオケ管理」をJASRACが開始したのは1987(昭和62)年4月でした。営業施設での演奏権については、それまで、バンド演奏、ピアノ、ギター、電子オルガンなどの生演奏店との契約が中心でした。その管理業務の中で、演奏権の侵害責任は店の経営者にあることを始め、さまざまな訴訟により演奏権としての著作権の正当性を主張、社会に定着させてまいりました。
 しかし、カラオケの登場は「客が勝手に歌っている」「カラオケソフトで著作権は処理されている。二重取りだ」など多くの反発があり、演奏という無形の利用への理解を得る迄には大変な苦労と訴訟手段を必要としました。昨年の例でも、全国で500件を超す仮処分申立などの法的措置を実施するという状況ですが、既に契約率は78.1%(カラオケ歌唱室(ボックス)は87.3%)に達するまでに至っています。
 カラオケ演奏の管理開始から15年近く経ちました。この間の生活衛生同業組合中央会をはじめ、組合員の皆様、さらにはカラオケリース事業者の方々、関係業界の皆様の著作権へのご理解、JASRAC業務へのご協力など幅広い連携が、日本の文化として定着したカラオケを軸に広く著作権の普及に寄与したことは間違いありません。
 新たな管理事業法の下で開始するBGMの管理についても、この連携の絆は受け継がれ、利用者と権利者がともに音楽の恩恵を享受できる社会の形成に、JASRACは努力して参りたいと思います。
■BGMの管理について
 一昨年(1999年)の通常国会で、著作権法が改正されました。この改正は、レコード(CD)などの録音物をBGMとして流す場合には、著作権は及ばないとする著作権法附則第14条の規定を廃止するというものでした。この規定は1970年の著作権法の大改正時に、旧法を踏襲する形で附則として設けられたものですが、先に述べましたように生演奏であれ、録音物によるものであれ演奏に権利を及ぼすことのできる諸外国との差異は明らかで、世界に例のない規定として外国から非難されてきました。長らくこの規定があったた
めにJASRACは法律上では権利が及ぶことになっている有線音楽放送を、店内で流している場合の使用料の徴収を控えざるを得ませんでした。
 法改正後JASRACは、現在殆どの店舗でのBGMが有線音楽放送であること、カラオケなどの契約店も増加していることなどを踏まえ、関係業界の皆様と協議をしてまいりました。この協議をペースとして、使用料のお支払い開始時を来年4月からと考え、現在その準備を進めていますが、有線音楽放送などの事業者がお店に代わって使用料をお支払い頂く場合には、各お店にご負担をおかけしないこと、生演奏やカラオケなどすでに使用料をお支払いいただいているお店には二重にご負担をおかけしないこと、また、「福祉、医療、教育機関」「工場、事務所等主として従業員を対象とする場合」「ワゴンセール、露天等」「CDショップ・レンタル店等」でのBGMについては当分の間、使用料を免除する方針です。市販のCDなど、録音物を店内で流す場合は個別に手続きを頂く必要があり、その使用料は年額6千円(店舗面積500平方メートル迄)から最大規模(9千平方メートルを超える場合の年額5万円までとする予定です。
 詳細については改めてお知らせいたしますが、音楽著作権の原点ともいえる演奏権にご理解を頂き、著作権擁護の国際水準をめざすBGMの管理に何卒皆様方のお力添えを賜りますようお願い申し上げます。(『生衛ジャーナル』9月号より)