東海・北陸ブロック講習会 9月12日(水)高山市
「繁盛店の条件」
〜いかにして人気の店をつくり上げるか〜
日本ヒューマン経営研究社 大塚 徹不景気の今にあっても繁盛している店は沢山あります。今日はお客様の気をひきつけるお店とはどういうお店なのかということをお話ししたいと思います。実際に自分のお店で、どうやったらそれを活かせるかという話をさせていただきます。
皆様方が初めての土地に行って飲食街を歩いた時、「ここは美味しそうだな」と感じる雰囲気があるはずです。電球が切れていれば、「ここはやる気がないな」と感じるのです。簡単なことが初めてのお客様に対するアピールになっています。そしてどんなに努力しても、今までと同じ方法を続ける限り明日はありません。
商売を長くやっているほど、物事が見えなくなってくるものです。プライドが壁になることもあります。「今さらそんなことできるか」と。しかし、私たちは世間に受けられて商売しています。難しいことですが、意識を変えていかなければなりません。また、「俺は真剣にやっている。」と言う人に限って、厳しさから逃げようとしていることが多い。「真剣さ」というのは厳しさを追い求めるものです。
人気の店をつくり上げる条件を八つお話しいたします。
第一の条件は、「損して”お客様“を取れ」ということです。繁盛店の中には、原価を考えない安いメニューを取り入れるケースがあります。これは口コミ宣伝費だと考えればいいのです。チラシとは全然違うんですね。口コミは、お客様のお腹を満足させる一番の宣伝です。
東京のあるお店は沢山食べられない高齢者向けに小皿料理を出しています。少しの量でいろいろ食べたいというニーズに応えています。そこではボルシチが50円。オムライスを頼むお客様が、ほとんどボルシチを頼みます。キャベツの酢漬けサラダが10円。
博多では焼酎一杯50円。店の一角に焼酎が並べてあり、自主申告で作って飲むというシステムです。これが、このお店の人気になっています。焼酎一本の仕入れが1,200円とします。30杯作れます。すると1,500円ですから、原価ぎりぎりです。でも飲みながら何かを食べる。焼酎は、あくまでも宣伝として使っているのです。
繁盛店では必ずお値打ちメニューがある。お客様は、価値ある商品を提供される事によってファンになるのです。
第二の条件は「トップ自らメニューを磨くこだわりを」です。
人気メニューは磨き育てるものです。小さな店が生き残るには「専門化」が必要。つまり今あるメニューの評判が人気店の絶対条件なのです。
前橋のそば屋は、買ったそば粉では納得いかず、石臼で挽いたそばで有名なお店になりました。これが磨き上げるということです。従来ある商品に満足しないで、プラスアルファを加えて人気メニューにしようというこだわりがあります。
手延べとんかつを考案した社長がいます。ひれ肉を柔らかくしてお箸でちぎって食べる。それとソース。スパイスが30種類くらい入っています。ちなみにスパイスは漢方薬です。これからは主流になると思います。この社長は全国のとんかつ屋を食べ歩いて味を追求しました。小さい店が生き残るのには、徹底した専門化を進めていかなければならない。手間暇をかけて商品提供をしなければだめだと言っています。
長野の餃子店は一日1万食売ります。6個で180円と安い。息子が喘息のため身体にいいものを作りたいと独自に研究しました。驚くのは32種類の具を作っているところです。時間をかけて作りあげた料理、メニューは地元の人は見捨てません。地元で美味しいという噂が出るかどうかです。
第三の条件。「業者を裏切らない仕入れを」です。仕入れは商品力をアップさせる重要な要素です。出入り業者とのパイプをできる限り太くしましょう。約束した数を売り切れば、業者も値下げに応じてくれます。仕入れにどれくらい本気になって取り組んでいますか。キャベツを自ら市場に仕入れに行くだけで、月50万仕入れ額を減らしたお店があります。食品メーカーは、安い食材を求めて自ら産地に足を運びます。経営者は金銭感覚がずれてきます。自ら仕入れに行くところに経営者としての意識がそこに生まれてくるのです。
東京・笹塚のイタリアンレストランはハウスワインを500ミリリットル1,400円で売っています。ファミリーレストランと同じくらいの値段です。1,000円代のワインが一銘柄。2,000円代が10銘柄。3,000円代が八銘柄あり、一日15本売れています。樽ワインが月に40樽売れています。年間200樽売ると業者に約束して、安く仕入れています。値切って業者をいじめるのではないのです。
川越市のスペイン料理屋。ここの社長さんが言うには、業者に対して発言が強くなるには、できるだけその業者から大量に仕入れるということだそうです。ここは業者と太いパイプがあるため、子羊のステーキはチルド肉を仕入れることが可能で、それによってジューシーなステーキを提供しています。業者としっかりビジネスとして追求する。コロコロと変えるのではないのです。
人間は美味しいものを食べるとニコニコします。感動するということは、お客様に支持されているということです。お客様第一至上は卒業して、いかにお客様に大事にされているかということを追求するべきです。強い者が生き残るのではなく、時代に敏感な者が生き残る、適者生存ということです。
第四の条件。お客様の声は「天の声」。繁盛店はお客様の「声」を吸い上げる仕組みを整え、絶えず店の改善に生かしています。料理を残す無言の苦情は暗号で吸い上げよ。繁盛のヒントは、いつも現場にあります。
また味の半分はお迎えの仕方にあります。お客様がその店に入った瞬間の迎え方です。丁寧に、元気良く、優しく、愛想よく歓迎したかどうかです。自分を本当に歓迎してくれているというムードです。「すみません。」と言われてやっと注文を取って、それで食事をしても美味しいはずがありません。
お店をはじめる時には、誰もが自分らにも理想を持っています。しかし、その理想は自己満足であることがあります。そこから客観的に見る必要があるのです。あるラーメン屋さんが、「このあたりの客は、うちの味がわからない」と怒っていました。でも、近所で聞いて見ると皆「美味しくない」と言うんです。つまり経営者が、客観的な判断がだんだんできなくなってきているのです。その時、お客様の”苦情“とか”意見“を素直に聞くことが一番です。繁盛店には、必ずお客様のクレームを吸い上げる仕組みができています。
豊橋市の魚介料理屋には、お客様が言われた言葉を記入するメモがあります。接客中に言われたことを記入します。これは、アンケートではありません。お客様同士でしゃべる言葉というのは本音です。文句を言われて怒るのではなく、謙虚に人の声を聞いているわけです。「味、サービスなどご不満の点ございましたら、心ゆくまでしっかりと叱ってください。そして笑顔でお帰りください」と壁に堂々と貼ってあります。
第五の条件は、「お客様に尽くす」ということです。お客様は食欲を満たすためだけに外食をするのではなく、いかにすれば居心地良くいられるかを真剣に考えています。家族構成でやっている方は、気をつけなければならない事があります。「父ちゃんが悪いんだ、母ちゃんが悪いんだ」と押し合いやっているような雰囲気ではお客様は来ません。入っていくとスポーツ新聞を読んで、お客が入ってくると、慌てて「あっ、いらっしゃい」。お客様は料理と一緒に雰囲気を食べているのです。水割りと一緒にサービスを味わっているのです。「外は暑いでしょう寒いでしょう」「いつもありがとうございます。」一人一人のお客様と会話をしてください。言葉や態度で味覚というのは左右されるんです。やる気のないような店主が作っていると食べる気がしないのです。
六番目の条件。「利益」は自ら動いて得る。低価格志向の中で「安い」は必要の要件です。「安い」というのは低価格志向による価値観の問題ですね。いかに質を下げずに安い値段で提供するか、多くの繁盛店では様々な工夫を凝らしています。複数の市場を活用して、魚や野菜などの値段を知る。電話一本で注文したのではダメです。直接店へ行って値切るんです。長いお付き合いがあれば、「これいいよ、持っていきな。」ということもあり得ます。また、今はどこの市場でも入れますから、値段を言うのです。今市場は大変です。
第七の条件は、女性のお客様には「ちょっと嬉しい」演出をということです。女性客をつかむことは、経営上の大きなポイントです。男性のお客様以上に味だけではなく、雰囲気などプラスアルファを求められているのです。
女性というのは外食人口が高いです。店舗選択の決定権はご主人ではなく、奥さんです。
東京の居酒屋では、大きなテーブルに年間七回ディスプレイを変えています。女性客は、そこに座りたがります。また、サラダバーとアイスクリームが女性に大人気です。女性客からは「うわー、ステキ。」「わー。」と喜びの声があがる。そして印象が強いと友達に話をするのです。これが口コミです。
世田谷の蕎麦屋では「冷たいお茶がよろしいですか、熱いお茶がよろしいですか。」と聞くんです。そして一緒に蕎麦で作ったかりんとうが付いてきます。これがまた女性に受けるんです。こういうちょっとしたことに女性は非常に喜びを感じるのです。
第八の条件です。繁盛は、従業員の幸福から。店を盛り立てるのは従業員の役目。従業員がイキイキ働けばその熱気がお客様に伝わる。繁盛店づくりには、従業員の活力をいかに引き出すかがポイント。経営者自ら「夢」を語る。目標も計画もない店に成功は見られないということです。
従業員が苦しいのは、自分の働くお店に夢がないからです。兵庫県のお寿司屋さんでは、一年に3回、純利益を従業員に分配します。店長には21%。二番目の調理人には12から13%です。福井県の洋食屋さんでは、従業員の独立を応援しています。お店の初期投資金額、例えば2千万や2千500万が回収できた時点で、店長に名義を変更しています。大体、5年から7年間で回収をしています。
従業員に元気がないと活気が出ないんです。ニコニコ、ハイハイ、キビキビ動かなければ、意味がありません。水を一杯サービスすることでさえ、いやいややっていることがあります。「すいません。お冷いただけますか。」これではお客様は水を飲んだらすぐ帰ってしまいます。こういう店にしたいんだというような夢を語りつづけるという事、ここが大事なんです。皆顔がイキイキしてきます。やる気があるところにのみ、人は集まるのです。暗い顔をしたところに人が寄ってくるとは殆どありえないのではないでしょうか。講師プロフィール
大塚 徹(おおつか とおる)/1940年生まれ。 66年に法政大学経営学部(二部)卒業。74年株式会社パイプのけむり設立。翌75年大塚経営研究所設立。91年大塚経営研究所を株式会社日本ヒューマン経営研究社とする。
TBS系テレビ「ガチンコ」に出演経験を持つ、”ガラガラヘビの大塚“こと大塚徹。”人間学“をテーマに発達心理学、人間行動学、社会心理学、社会と経済等の研究を続けている。実践経営医の中から修得した独自のサービス学、接客学、人間学、経営学をベースとしたユニークな理論の展開と具体的な事例による説得力・指導力は、多くの方々にヤル気と感動を与えている。情熱溢れる感動的な講演と、人との縁を大事にする人間味は、全国各地から非常に強い支持を受けている。
主な著書に「繁栄の決断」「商売繁盛の人間学」「自分を生かす仕事学」「人心掌握の幹部学」など。