関東・甲信越ブロック講習会 9月20日(水)上越市
生き残り経営戦略
〜波乱の改革と最悪の景気〜
(福井県情報開発研究所 所長) 講師 坪川 常春テロの影響
同時多発テロにより戦争に突入する気配です。根源は、民族と宗教という3,000年以上前からの争い、エルサレムをめぐる争いに端を発しています。アメリカにとって勝たなければならない戦いですが、なかなか簡単にはいかないと思われます。日本にとってもこの戦争は無関係ではないでしょう。私たちの生活にどのような影響を与えるのか。中東における戦争では「油」に直接的な影響が現れるでしょう。油に依存する生活である限り第三次オイルショックもありえます。一時的でしょうがガソリンなどが値上がりすると思います。
また、戦争が長期化するとデフレからインフレになる傾向があります。「歴史は繰り返す」と言います。現在の現象に似ていると言えるのは、昭和2年から8年の間に昭和大恐慌で銀行が破綻しています。その後、昭和12年に支那事変、昭和16年に大東亜戦争。大正末期の関東大震災と平成7年の阪神大震災は共に亥年に起こりました。この年はオウムによるサリン事件のあった年です。それから現在の不況により、金融機関は次々と破綻しています。そして今回の同時テロによる戦争。アメリカ本土が攻撃されたのは60年ぶりです。戦争には、不謹慎ですが復興景気があるのです。長期化により必ずインフレになると言えます。ですから、これ以上の下は無いとも言えます。日本経済では株がどんどん下がっていますが、逆に見ると今が買いなんです。
構造改革は急務
政治に目を向けますと、今年は4カ月周期で変動があります。1月から4月までは森内閣、4月から8月は小泉人気。そして9月に入り、本格的な構造改革に臨むというときに、テロ事件が起こりました。しかし、構造改革を遅らせるわけにはいきません。構造改革とは、戦後60年続いた仕組みを変えるということです。これをやらざるを得ない理由は、来年3月時点の国、県、市町村の借金は666兆円になります。一般的な商売でも1年間の売り上げ金額程度の借金が限度です。バブル時期には1年半、2年分ということもありました。しかし、国家予算の8年分の借金はどうにもなりません。それではどうするか。税金、消費税を上げる以外にありません。おそらく小泉総理が退陣するときには、8%になるでしょう。10年後には15%から25%と財務省では検討しています。666兆を返済するには39%となってしまうんですね。まあこれは極端ですが、飲食業や生鮮食品などは一率ではなく、据え置きあるいは、下げられると思います。
一方、外務省の不祥事が噴出しています。領収書のいらないお金が55億円などと呆れてしまいますが、今年の春には省庁再編で20から13に減りました。更に国家公務員の数を10年間で4分の1減、最終的には半分くらいにする、というのが行政改革です。国会議員は去年の衆院選で20人減、今年の参院選で5人減りました。次の参院選でも5人、衆院選で20人減らすことになっています。国立、国有、国営の民営化が最終的には行われるでしょう。ビジネスチャンスとして捉えれば、業務の外注、人材派遣が生まれます。
道路公団は一般高速と首都高速、阪神高速、本四連絡道路を国有とし、運営を民間に委託。6つの高速道路運営会社を作り、ここから借金を返済していくということです。工事中の高速道路の中には中断されるものもでてくるでしょう。しかし、工事などは民間に発注されます。
また、国立大学は、生き残れなくなるでしょう。95ある国立大学の統廃合を進め、行政法人とすることが考えられています。少子化により小中学校も減ります。無くなった学校の校舎を使って、お年寄り向けの学校を作るなどすれば有効活用になります。
市町村合併はビジネスチャンス
都道府県の再編成も大きな話題となっています。東京だけでは生きて行けないので、「首都県」という県あるいは「州」を作る構想です。東北州、中部東海、近畿、中国、四国、九州になれば47人の知事が不要になります。
そして全国に約3,200ある市町村を、平成17年3月までに合併するように勧める「合併特例法」が施行されています。これは約千の市町村への再編成を目指しています。当然、反対が多いのですが、その理由として「行政サービスの低下」を挙げます。しかし、この問題は民間活力を活かしていけば解決します。そこに大きなビジネスチャンスがあるのです。皆さんにとっても、最初から出来ないという発想ではなく、頭を柔らかくしてご商売における改革を断行することです。キャリアや経験だけでは生き残っていけません。
不況の原因はデフレ
では、なぜ最悪の景気にまで落ちこんだのかご説明します。
インフレの間は、担保となる土地の価値が上がる一方でしたのでお金を借り易く、返し易かった。平成11年以降、物価は下がり続けており、デフレとなりました。皆さんの商品も値上げができません。消費者物価が下がると同じ量を売っても売り上げが下がる、当然、人件費も下がることになります。
デフレには資産デフレと輸入デフレがあります。資産デフレとは、土地が売れないので資産としての価値がないということです。吉野の山には三人の山林王がいましたが、すでに価値が無くなってしまいました。日本家屋が減り、床柱のある家が少なくなった。そういうことも原因ですね。つまり、農業、漁業もが潰れる時代なのです。30億円の土地が競売で1億5,000万円になる時代です。そういった不良債権を買いに来ているのが、ユダヤ人や華僑なんです。
資産デフレは、お金を借りた企業がダメになり、金融機関がダメになるやっかいなデフレと言えます。金融機関が破綻した時、預けているお金が全て戻ってくるのは来年3月まで、それ以降は1,000万円までしか戻りません。
輸入デフレは、輸入品に見られる価格破壊です。やっかいなのは日本人自らが引き起こしているのです。椎茸、タオルなど様々なものを中国で作って輸入しているのは日本商社であり日本人です。この価格破壊はまだ続くと思われます。
百円ショップのダイソーではレンズを含めて老眼鏡が原価20円で販売価格が百円です。日本製の老眼鏡は販売価格が1万円くらいです。衣料品のユニクロは、社長がジャスコで商売を学んで、山口で会社を興しました。製造から輸送、販売をすべて一括しておこなう、つまりメーカー、卸、ショップを社内でおこなった結果、安く販売することが可能になりました。卸や問屋は必要ないわけです。まさしく、飲食業を含めた「商業革命・流通革命」がおこっているのです。
昔は土地の高いところにあった百貨店は必要なくなってきており、郊外に生鮮食料品を中心としたスーパーが登場しました。スーパーはショッピングセンターとなってキーテントを伴って、全国展開してきました。しかしショッピングセンター方式も今後続きそうもない中、ユニクロ現象が与えた影響はどういうものか。百貨店の一階には宝石と化粧品、女性のハンドバッグが並んでいたところに、ユニクロが出店しているのです。
価格競争で輸入デフレに対抗するようなことは考えないでください。あくまで価格を維持することを考える。一度下げた価格は元にはもどりません。薄利多売で生き残るなら設備からシステムからすべて変えなければなりません。例えばJRが始めて話題となったのが、ハンバーグ弁当330円とうのがあります。これはアメリカに工場を建設して、そこで加工食品として輸入しているのです。米のままだと関税が非常に高くなりますがこのように加工して、輸入すればこの価格は可能です。このような商品には対抗できません。
そして、デフレをさらに深刻にするのが不安デフレです。インフレの時、消費者は値上げ前日に買いだめをしたりします。今はその逆の状態です。
お金を持っているのは65歳以上の高齢者です。そういった高齢者の不安を取り除いてあげる商売はこれから伸びると思います。サービスとは、自分が人にして欲しいと思うことがサービスです。安心感を与えるサービスが求められているのです。
アナログからデジタルへ
暗い話が続いたので、少し明るい話をしましょう。株ではバイオテクノロジー、ITを含むハイテク産業。特に、テレビはデジタル放送開始に向けて5年くらいで入れ替えになるでしょう。バイオではどんな動植物でも作れる技術があります。また携帯電話は全てデジタルです。今年の4月から徘徊性老人に携帯端末を持たせて、どこにいても見つけられる商売が始まりましたね。また車が盗まれてもすぐに分かります。これが、アナログからデジタルへ変わったことを示しています。将来は家のモニターで家族が誰とどこにいるかすぐ分かるようになりますよ。IT化されていく中で、飲食業がどう変わるか。発想を変えなければ着いていけません。かならず生き残れる方法がありますので、暗くならずに明るく、まずはお店を明るい笑顔でお客様を迎えてください。講師プロフィール
昭和8年、福井市生まれ。
早稲田大学卒業後、福井新聞社入社。編集部長、編集局次長、論説委員を歴任。日刊福井常務取締役編集局長。
公職として、福井県社会教育委員、福井市豊(みのり)公民館館長などを務める。現在は、福井県情報開発研究所所長、ふくい経営構造対策推進機構アドバイザー。
著書に、「あしたの人間」「生きているふくい昭和史」がある。