味つづり〈96〉 倉橋 柏山
がんもどき熱燗でおでんが旨い季節。過日、醤油で黒ずんだ懐かしい味のおでんを肴に、孫と酒を楽しんだ。
いつ頃からか美白なおでんが流行り、年寄りには物足りなさを感じてならない。
大根、卵、蒟蒻、がんもどきと、おでんの好みは昔とあまり変わりがないようであるが、醤油が浸み込んだ黒ずんだおでんが少なくなった。
「がんもどき(鴈擬)」は、飛龍頭と呼ばれ、江戸時代に刊行された「豆腐百珍」天明二年(1782)にも記載され、古くから食べられ、作り方も今とさほど変わりがない。
豆腐百珍は、尋常品、通品、佳品、奇品、妙品、絶品と分類され、飛龍頭は、尋常品と奇品に作り方が記されており、江戸時代から人気が高かったようである。
今日では、海老や蟹、鱧などの魚介類のほかに合鴨などの肉類も用いられるが、本来は精進仕立で、ごぼう、人参、椎茸、きくらげを千切りにして油で炒め、醤油と酒で下煮をしておき、水切りをした木綿豆腐をしぼってすり鉢でよくすり、塩少々と葛粉をつなぎに加え、下煮の野菜と一緒に麻の実を混ぜて丸め、小麦粉をまぶして胡麻油できつね色に揚げる。
豆腐屋をはじめスーパーやコンビニでも買うことのできる食材で、作り方もあまり変わりはないが、葛粉の代わりにすりおろしたつくね芋と、溶き卵白が入るくらいの違いである。
豆腐百珍における奇品は、尋常品と同じ材料であるが、茹でた栗と百合根を加え、折り箱または流し缶にきっちり結めて15分ほど中火で蒸し、冷めたら四角か三角形に切り、供する直前に胡麻油で揚げて出したようである。
前もって仕込んであるので保存がきき、不意の客や、もう一品というときに便利で重宝されたようである。
市販品ではまずいものもあるが、上手に作ると実に旨いものである。
二年前、鎌倉のホテルで130人ほどの新年会が催された。その時の吸物に用いられたのががんもどきであった。
私の前に座った老紳士は90歳前後、左手が少し不自由であったが、椀種がひと口では大きすぎ、箸で切ろうとしたが切れず不自由な手を添え、両手でも切れぬほど固い。悪戦苦闘の末、やっと口に入れることができ、ほっとした。
長いこと料理に携わってきたが、あの時ほどの固いがんもどきは初めてである。
どうしたらあのように固く揚げることが出来るのか、今だに不思議でならない。つなぎに何を入れたか解らないからである。
吸物でも煮物でも、がんもどきは油で揚げるので、油を消すため、熱湯にくぐらせて油抜きをする。さらに淡味で2〜30分弱火で煮含めてから用いるので、味が浸みてことのほかやわらかく美味しいのが普通である。やわらかくても油で揚げてあるので大勢の宴会でも形が崩れることは少ない。
生身(白身魚のすり身)をたくさん加え、じっくり時間をかけて揚げれば固くはなるが、淡味で煮含めるのでやわらかくなるはずである。
料理上手が作ればことのほか美味しく、茶懐石の椀盛に用いるほど品位の高い料理でもある。
おでん種の他、小さく弁当や仕出し料理、淡味に煮含めたり、好みで甘辛く煮るなど、調味も自在である。中に加わる具材やつなぎによって味も食感も大きく異なるのががんもどきの特色である。
若い方は、揚げたての熱々を辛子醤油やマヨネーズ、ケチャップ、ウスターソース、辛子酢味噌やラー油を加えた酢醤油と食べ方も千差万別である。
バターやチーズなどを加えると洋風な味わいになる。
茹でたウズラの卵を入れても小さな子たちは喜ぶようで、工夫次第で変わり味のがんもどきが楽しめる。