味つづり〈69〉 倉橋 柏山
う ど ん す き節分は、季節のうつりかわる時、つまり、立春、立夏、立秋、立冬の称。特に立春の前日、冬から春の節にうつりかわる時の夕暮。柊の小枝にいわしの頭を刺し、玄関の入口に掲げる風習である。悪臭によって邪気を祓い、聖なる時間を取りもどす。大豆を煎って、鬼打ち豆と称し「福は内、鬼は外」と、大声を出して豆をまくのが、鬼やらいである。
私は小さなマンション住まいで、節分の豆まきは形式的で、極くささやかなものである。
本来は夕刻に行うものであろうが、神社、仏閣においては日中、有名人を招き峠や直垂姿で盛大な節分祭が行われる反面、各家庭における節分の行事は年々少なくなるようである。いや、都会ではやらない家が多い。
鬼やらい(追儺)は中国から伝わった宮中行事が民間にも広まったと、ものの本にある。
節分は立春の前日に行われ、大寒の最後の日。明ければ暦の上では、春である。春とは名ばかりで寒い日がつづく。
そんな寒い夜のごちそうに、うどんすきはいかがだろう。うどんが主役の鍋物であるが、取り合わせる材料によって、かなり豪華な食べ方になる。材料を書き出してみよう。書き出す材料すべて用いることはないが、多いほど良く、旨いだしの出る素にもなる。生のうどんであれば1人1玉あて、茹でて水にさらし、水気をきっておく。海老、蛤、帆立貝、金目鯛など、白身魚の切り身。若い方などには鶏肉もあったほうがいいだろう。椎茸、しめじなどのきのこ類、長葱、白菜、ゆばや生麩、水菜、三つ葉。薬味として柚子、かぼすなども用意すると、より美味しくなる。材料は地産の物を用いる。
海老は背わたを取り、皮をむく。他の材料は一口大に食べよく切る。美味しいだし汁が必要である。昆布と、削りかつお節で引いた、一番だし汁と呼ばれるものが望ましい。1人1と1/2カップを目安とする。コンロに鍋をのせ、4人前なら、だし汁6カップほどを入れ、淡口醤油大さじ1杯弱、酒大さじ3〜4杯、塩小さじ1/2杯弱。これも大方の目安。淡味を好む。やや塩分強めを好むなど、それぞれ個人差が異なる。一鍋を囲む鍋物は、1人1人の好む味というわけにはいかないが、日本全国、北から南と広い。それだけ味の好みも異なるわけである。
本来、調味料の分量など書かないほうが親切というものである。私は長いこと、料理教室の講師をつとめる。1テーブル6人。大きい教室になると6組も8組もある。同じ材料、同じ調味料、鍋やガス器具など条件は皆同じである。が、出来上がった料理の味は、それぞれ異なると言っても過言ではないほど違うから不思議である。調味料の計り方の微妙な違い。火力の強弱、調理にかける時間など、それぞれ1組ごとまったく同じでないから、すべての条件は同じでも仕上がった料理が異なるのである。横道にそれてしまったが、鍋が煮立ったら、旨いだしの出るもの、火の通りにくいものなどを先に入れ、煮ながら食べる。
うどんすきと呼ばれるが、調味や食べ方は、寄せ鍋などと同じと思えばいいだろう。乾麺なら当然、沸騰した熱湯に入れ、表記の時間よりやや固めに茹であげ、ざるにあげ、流水で充分にさらして水気をきる。ゆで麺の袋入りも、さっと熱湯にくぐらせ、手早く水洗いしてざるにあげて水気をきってから用いることである。餅を加えても旨い。
料理を美味しく味わう。だれしも望むことであるが、悪い材料(鮮度の落ちたものや、冷凍焼けしたもの)では、どんな料理上手が作っても美味しい料理にはならない。今晩はひとつ奮発して美味しいものをと思うときは、鮮度(魚介類)の良い、良い材料を求めることである。
うどんすきは、寒い夜の手軽に作れて美味しい食べ方ではないだろうか。節分近くの寒い日、お楽しみください。