味つづり〈68〉 倉橋 柏山
楽 し み な べ今年の夏は猛暑がつづき、熱いものを食べて暑さをふきとばそうと、鍋物がもてはやされたそうです。しゃぶしゃぶに、レタス、トマト、ゴーヤと夏野菜をたっぷり用い、汗だくで暑さをしのいだ。鍋料理は、木枯らしの吹くころから寒さの頂点が定番とされたが、異常気象がつづくと、食べる物にも異常がきたすようである。
全飲連ニュースがお手元に届くころには、そろそろ鍋物が恋しくなる季節と思い、楽しみ鍋物をとりあげてみた。鍋料理というものには、おしなべて材料にきまりがあるようでない。楽しみ鍋という位であるから材料は出来るだけ多いほうが良い。
魚は1匹丸ごと、当然あらまで使いきる。頭やあらまで使いきることによって、魚から出る旨味で味が層倍良くなる。
魚は鮮度が良い物でも、魚特有のアクが出るので霜ふり≠ツまり、一口大に切った身を、沸騰したたっぷりのお湯の中に入れる。身のまわりの白っぽく色が変わったら手早くざるにあげ、すぐに冷水に入れる。流水でウロコや血合などをていねいに洗い、ざるにあげて水気をきる。だし汁(昆布とかつお節)は1人あたり2カップ位を目安に用意する。酒とみりんをだし汁に対して1割弱を加えて火にかける。
卓上で煮ながら食べるから土鍋が理想であろう。まず、煮立ったら頭やあらの部分を最初に入れる。こうすると魚の旨味がだし汁に浸透する。次に魚の切り身、野菜、焼豆腐などを加え、火の通ったものから汁と共に小鉢にすくい取り、薬味を適宜に加えて食べる。各自用にちりれんげ、穴杓子、お玉、骨や殻を入れる大き目の鉢や取り箸も用意する。
薬味は、浅葱の小口切り、紅葉おろし又は七味唐辛子、刻み柚子などがあると鍋料理の味が倍加する。味が濃くなったら味を薄める昆布だし、なければ水と酒同量で薄めるために準備するとさらに味が良くなる。
参考までに材料を書き出してみる。
たい、きんめ、いなだ、たら、ほうぼう、こち、かれい、いか、貝類。伊勢海老が入ると豪華で美味であるが、彩どりに海老は是非加えたいものである。焼豆腐、生麩類、しらたき、白菜、春菊、ほうれん草、水菜、長葱、みつば、しめじ、舞茸、椎茸、えのき茸などきのこ類、他に小かぶ、うどなどが加わると味に深みが出る。沢山書き出したが全部そろえる必要はないが、楽しみ鍋と名が付くごとく、せめて14〜15種類あると楽しみが増す。
肉類が何も入っていないが、鶏肉やうずらの卵などが入ってもなんらかまわない。いや楽しみが多くなる。
食べる物は、それぞれ趣味趣向が異なる。書き出した以外の地産の材料を加えて大いに楽しみたい。
鍋料理は、1つ鍋を囲んで煮ながら食べるということで、臭いの強いもの、すぐに煮くずれするもの、ことのほか固くて味の含みにくいものはさけたほうがいい。
食べ終えたら雑炊である。うどんや餅などの好みもあるが、雑炊が食べたくて鍋物にするという人が多い。
鍋の中の食べ残しは出来るだけきれいにすくい取る。汁の味をたしかめる。ご飯は、4人分なら茶碗に2杯ほどざるに入れ、ご飯粒は1粒ずつほぐれるように洗って水気をきる。煮立っているところにご飯を入れ、再び煮立ってきたら火を少し弱め、待つこと2分位か、卵を2個ほどときほぐし、上から平均に流し入れる。半熟状で火を止めて少し蒸らす。
おじやのように汁気がなくなるまでしっとりと炊くを良しとする人もあるが、雑炊は汁にご飯粒が浮くほど汁気が多いほうが旨い。卵を流し入れたら火を通しすぎないように心がける。そんなことも、雑炊を美味しく味わうコツのひとつでもある。熱々をふうふう吹きながら食べるのが、雑炊の醍醐味である。あとは食べてまんぞくまんぞくである。