平成21年度 関東・甲信越ブロック役職員等講習会 沈む前兆を捉えて危機管理! 飲食店の復活は集客と顧客作り
〜客離れはここから始まる!繁盛店に導くヒント〜
講師プロフィール
販売促進コンサルタント
竹谷 知江子先生(たけや ちえこ)
1963年生まれ。郵政省、足品販売会社を経て、POPクリエイター・販売促進コンサルタントとして独立。現在、大手企業はじめ各地の商工会議所・商工会や郵政局等で販売促進関連のセミナー・実技講習の講師を務める。中小企業の広告宣伝、販売促進用の助言など幅広い分野で実績を挙げる。1.沈む前兆の事例紹介
昨今の不景気は皆様の営業に多大なる影響を及ぼしていると思いますが、全てが不景気のせいではないはずです。私の経験上、売上が落ち込んだ店舗には、必ず原因や兆候があります。まずは、その前兆の具体例をご紹介します。このような状況が出現した後、3ヶ月程でジワジワと売上が落ちてくると言われています。該当する箇所がないかチェックするとともに、早期に対応するよう気を付けてください。(下図参照)
●消費者の不満を理解する
経営者にとって、お客様の声は大切です。お客様がどのような印象を持ち、何を希望しているのかを理解して実施することが売上アップの近道だと考えられます。そこで、「飲食店で不満に感じたことはありますか」という内容のアンケート調査を行ったところ、「不満を感じたことがある」と答えた人が8割以上に上りました。不満を感じた点の1位は従業員の接客サービス、2位は料理・食器、3位は臭い、4位は音、5位は内外装、6位は照明という順番でした。カテゴリーに分類して詳細をまとめましたので、お客様の心理を理解するとともに、今後の営業に役立てて頂ければと思います。—従業員の接客サービス—
感じの悪い接客、注文を取りに来るのが遅い、おかしな言葉遣い、営業時間中の掃除や片付け(お客さんがいるのに閉店の準備を始める)、なれなれしい口調、来店客の前で従業員を怒鳴る、不自然な返事や過剰な挨拶等。
不満の声の大部分を占め、第1位に挙げられた「従業員の接客サービス」ですが、特に接客時の挨拶や言葉遣いに不快感を抱くお客様が多いようです。お客様との最も身近なコミュニケーションツールである言葉ですが、最近では間違った使い方や正しくない日本語が蔓延しています。遣い方に関しては、再度見つめ直す必要がありそうです。(下図参照)—料理・食器—
ひと皿の量が多すぎる・少なすぎる、使いづらい食器、凝った盛り付けで食べづらい等—内外装—
厨房が汚い、ざらつく又は服に付く塗装、椅子・テーブルの高さや素材、トイレのスイッチや場所、コンクリートの床や壁が寒い、看板や案内が無く、店が見つけづらい等—臭い・音・照明—
強すぎる冷暖房(食事に集中できなくなる)、煙草の臭い、席間の狭さと周囲の会話、トイレやゴミの臭い、大きすぎるBGM、暗すぎる照明(照明が弱いとメニューが読みづらい、強すぎて反射する)等
この分析結果を参考に、ご自身の営業を見つめ直してみてください。
繁盛店には「お客様視点である」という事実が共通して見られます。
2.繁盛しない4つの理由
1.「ウォンツ(wants)」販売が足りない
お金を使う時の2大パターンとして、ニーズ(needs)とウォンツ(wants)があります。ニーズとは必要購買のことです。必ず購入する半面、必要量以上に求めることはしません。ニーズ販売は一定量の売上が確実視出来るため、数々の事業者がターゲットにしており、売上を大きく伸ばすことは難しいでしょう。それに対してウォンツとは、欲求購買のことです。「昨年コートを買ったが、今年も新作が欲しい」というように、自己の欲求を満たすためにお金を費やすので、数量も限定的ではありません。ウォンツに訴えかける販売促進や広告によってチャンスが広がります。
飲食店においても同様です。来店時に「何を食べようか」と既に決めている人はほとんどいません。86.5%の人がメニューを見て、おすすめを聞いてから食べる物を決めるという調査結果があります。つまりは、皆様方のアピールの仕方、接客方法等でお客様の行動が決まってくるとも言えるのです。2.反応率の高い集客をしていない
客足が伸び悩む店舗は、看板や外観に力を入れていない場合が数多く見られます。思わず入りたくなるような雰囲気を創り出すことが大切です。看板や店名にもこだわったほうが良いでしょう。言いやすく、読みやすいものがベスト。横文字の店名は読みづらいので読み仮名をつける。これらの配慮に欠けている店は思った以上に多いです。チラシや名刺にも気配りをすることがお客様への思いやりとなります。メニューも同様です。デザートに多く見られますが、横文字表記のために読み方が分からないというお客様もいらっしゃるでしょう。読み仮名はもちろん、商品に番号を振り分け、番号での注文もできるように工夫することも有効な手段といえます。3.店頭、店先、入口広告の集客
黒板メニューなど、入口で興味を持たせ、お得感を演出できるような広告が効果的です。何もしていない店はお客様が通り過ぎてしまう。詳しく知りたくなるような広告を掲げることで、電話での問い合わせやホームページの閲覧、そして来店へと繋がっていくのです。
ウェブサイトや携帯サイトは、現代に適した手法と言えるでしょう。是非とも利用してください。ホームページの開設は値段も安く、操作も簡単になりました。効果的で反応の高いツールであると注目されています。
4.安定したリピート客の確保をしていない
お客様がもう一度来店したいと思う動機づけを行う必要があります。再来店のコツは、忘れられないうちに手を打つこと。記憶は時間の経過とともに薄れていきます。来店時の記憶が残っているうちに再来店を促す対策を講じてください。
私が訪れたカラオケボックスでは、初来店のお客様には会計時に「2週間以内のご利用に限り50%オフ」という内容の割引券をプレゼントしていました。新規のお客様をリピート客にするため「すぐ動く」、この姿勢が大切です。
一般的に来店から3日以内、2週間以内、1か月以内という時期が効果的な販促のタイミングだと言われています。来店から2週間後に割引券が届くようにDMを出した際の回収率は19.9%、1ヶ月後は14.4%と高い効果が得られますが、それ以上先延ばしにすると半分以下の回収率となってしまいます。つまり、再来店が期待できないのです。
3.お客様の心理から考える
●基本は挨拶
先に述べたように、お客様の不快・不満は人が原因になる場合が非常に多いです。そういった状況下で最も大切にしていただきたいのは「挨拶」です。簡単でお金をかけず、抜群の効果を発揮します。
挨拶は正しく行わなければ意味がありません。人として当たり前の行為ですが、非常に難しいことでもあります。まずは明るく行うことが大前提。暗い挨拶はマイナス印象を与えてしまいます。いつも自分から先に挨拶することを心がけてください。受け身ではいけません。気持ちや真心を込めて自発的に行ってください。また、「はい」という返事も重要な挨拶のひとつ。声のトーンも大事です。音階で言うと『ソ』の音で行うのが最も好印象とされています。●廃れていく店の原因
お客様の評判によって経営が危機に陥る場合もあります。人間には、自分が感じたことを黙っていられず、他者に話したくなるという心理があります。好印象だと平均8人に伝えるそうです。ところが悪い印象の場合、平均22人と大きく数が増えます。しかも、こういう場合は尾ひれをつけて話すことも多く、さらなる悪評判を招きます。そのため、最低でも「並」の印象を与えないといけません。そのためには、当たり前のこと、つまり「きちんとした挨拶」が基本となるのです。●お客様に感動を
DMやチラシは、お客様に店の情報を、知らせる・呼ぶ・伝えるという役割を担っています。商品や店舗の存在を忘れられないように定期的に情報を提供し、存在感をアピールしていく必要があります。
お客様が離れていく理由は、店がお客に対して無関心(69%)、商品に関する不満(14%/美味しくない、心惹かれる商品・メニューがない)、他店へ行くようになった、引っ越し等が挙げられますが、ここでもやはり店主や従業員など「人」が招く原因が目立ちます。しかし、98.9%のお客様は「感動」があると再来店したくなる、という結果も出ています。その感動は、料理や店の雰囲気だけでなく、DMやチラシでも表現できるはずです。お得なクーポンや割引券のプレゼント、再来店を呼びかける真心のこもった手紙などでお客様に感動を与えましょう。
「お客様ピラミッド」の左の図を見てください。ピラミッドの上段に位置する友人客と信者客は、総客数の2割程度と言われています。しかし、ほとんどの店舗において売上の8割を友人客と信者客で支えているのです。新規のお客様を獲得することも大切ですが、売上アップを目指すのであれば、既存のお客様を大切にすることがどれほど重要か、再度考えてみてください。いわゆる『常連』と呼ばれるお客様達は、大事にしてほしい、特別扱いしてほしいという気持ちを抱いているものです。それに反して「昔から知っているから離れていくことはないだろう」という油断やおごりがないでしょうか。事業主を対象にアンケートを行ったところ、7割の方が新規客獲得のための対策を講じていると答えましたが、既存客に力を入れていると答えたのはわずか3割という結果でした。しかし、新規客の獲得は一般客に再来店を促すのに比べて5倍もの労力と時間がかかるとも言われています。一般客にアプローチし、友人客や信者客を増やすことが売上アップの有効な第一歩といえるでしょう。
4.人間の感覚に訴える販促
●右脳に訴えかける広告を
右脳はイメージの脳とも言われ、イメージや欲求が直感的で、感性・感覚・潜在意識を呼び起こします。さらに、情報処理能力が左脳よりも早く、すぐに判断や行動に結びつきます。そのため、右脳を刺激する広告が効果的とされています。メニューの自慢を長々と綴ったチラシよりも、美味しそうに見える写真や色遣い、音や香りを連想させる短いキャッチコピーなどをつけるといいでしょう。●印象は色の効果で左右される
たくさんのメニューを食べてもらいたいという料理自慢の店に青色を多く使用すると、食欲を落とす傾向があります。飲食店は食べ物がメインなので、暖色系がベスト。飲み物が中心のお店は青色系が良いでしょう。色遣いひとつで、お客様に与える印象を変えることができます。その中で、『緑色』はロングヒットする商品の色遣いだと言われています。色の印象は波長と比例すると言われていますが、緑色はちょうど中間に位置するため、万人受けされる色だと言われています。赤色を組み合わせればアクセントも出てさらに効果的です。女性に支持されるにはピンク色。プレミアム感を出したいときには紺色と金色の組み合わせなどが有効です。金色には人を豪快にさせる効果があります。また、黒色と白色の組み合わせが飽きられない色遣いです。
●適切なBGMで売上アップ
音は右脳を刺激します。適切なBGMを選択することで居心地が良くなり、売上アップへと繋がっていきます。私の調査によりますと、店舗のBGM導入率は95%で、ジャズやクラシックを中心に、有線放送を導入している店舗が最多でした。選曲に関しては「店長の好み」という主観的な理由が目立ちましたが、音楽も大切なツールとしてお客様に合ったものを使用する必要があります。開店直後の時間帯は客数も少ないので音量を抑え、ジャズなど静かな曲を流すといいでしょう。お客様が入り始めてからは盛り上がり、リズミカルな曲を流します。軽やかな曲はお客様が長く居座るのに効果を発揮します。閉店間近には次第にクールダウンできるような選曲をしてください。店舗の雰囲気もこれに合わせると、なお効果的でしょう。
5.これからの広告宣伝・集客・接客(モバイルの活用)
●携帯ツールが今後の鍵
今後は携帯電話がお客様を呼び込むための重要なツールとなるでしょう。もはや一人一台の所有率となった携帯電話は、誰もが使いこなす情報端末となりつつあります。2010年には携帯を使った広告効果は1,000億円にまで達すると言われています。●メールマガジンの活用
メール機能に注目してみましょう。メールを利用している(1日に1回以上メールを確認・送信している)人は96.9%、そのうち76.8%は受信後すぐに内容を確認しているというのです。以前は、イベントを開催したいと考えた時、DM等で知らせるしか手段がなく、どうしても時間と出費がかさむ方法でした。しかし、メールであれば瞬時にお客様の元へ配信できます。費用を抑えるばかりか、タイムラグを埋め合わせることができるので、思いついたらすぐに告知することができるのです。例えば、悪天候等で客足が鈍いと感じた時は臨時キャンペーンを開催しましょう。アドレスを登録してあるお客様に情報をメールして来店を呼びかければ、食材のロスも減り、一定の客数を確保できるでしょう。メール確認後、20〜25%の人が来店するという検証結果も出ています。郵便物の場合は気付かない、開封されない等で広告そのものを目にしてもらえないことも多いですが、携帯の場合は先程説明したように、ほとんどの方が受信直後に内容を確認してくれます。いつでも、どこでも確認できるというのが最大のメリットなのです。
●ホームページの併用
メールマガジンに加え、ホームページも充実させれば、さらに効果的になるでしょう。携帯でも容易に確認してもらえるように、QRコード(カメラで撮影することで簡単にアクセスできる)を名刺やスタンプカード、箸袋等に掲載するといいでしょう。ホームページを見てもらうということは、会員登録のチャンスです。会員の20〜25%がメール効果で来店すると仮定すれば、会員を多く獲得することが売り上げアップの鍵となります。●お客様との繋がりを大切に
不況と言われるご時世なので、いきなり売込む、即売上アップというのは難しいです。そこで、まずは種蒔きに力を入れてください。つまり、『お客様との繋がりを生みだしていくこと』です。携帯電話の活用は、その繋がりを生み出すのに欠かせないツールとなっています。不景気が去るのをただ待つのではなく、行動する、変化していくことが今後は重要になることでしょう。
(紙面の都合により、講演会要旨を掲載しました)
●沈む前兆の事例
1.客数のバラつきが大きい(常連客が減っているという現象の始まり)
2.メニューに無い注文が増える(今出している料理が飽きられている)
3.昼のピークがずれる(目的客が減っている)
4.意外なお客が来る
5.クレームがゼロになる(お客様に諦められている、二度と来ない)
6.看板料理ばかりよく雑誌に載る(人気の旬が去ったことを示す、いつも同じということ)
7.期せずして回転率が上がる(客席の居心地が悪い場合に起こる)
8.従業員がお客として来ない(身内からも見放された危機的状況)
9.ショップカードの減りが遅い(新規客が獲得できていない)
10.社員が数字に無関心(危機感がない、やる気の低下)
11.従業員の出入りが激しい(信頼関係が構築できていない→不穏な空気を与える)
12.売上が伸びた理由がわからない(努力をしなくなる)
13.厨房から声が出ていない(ホールと厨房との連携が取れていない)
14.クリンネス(掃除)が行き届いていない
15.お通しに手つかず(料理全般の質が落ちている)
16.更衣室が乱れる(従業員の気の緩みが表れている)
●お客様が気になる言葉遣い
・馴れ馴れしい
・丁寧語と雑な言葉の混在(こちら○○というヤツになります)
・過剰で誤った敬語(お名前様)
・語尾を上げたり伸ばしたりする
・「さ」入り言葉(本日は休まさせていただきます)
・「〜から」(1万円からお預かりします)
・「〜の方」(タバコの方は吸いますか)