環境省環境カウンセラー 片亀 光氏の紙上セミナー

飲食店における省エネルギー対策
原産地表示の推進

  セミナー
■プロフィール 
片亀 光(かたかめ ひかる)環境省環境カウンセラー
 1959年群馬県太田市生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業(農業経済学専攻)・有限会社環境サポートシステム代表表取締役・高崎経済大学非常勤講師(環境教育論・環境保全論)・環境省環境カウンセラー。
 環境コンサルタントとして講演活動を中心に、企業の環境マネジメントシステム構築のアドバイスから一般市民対象の環境セミナー、小学生から高校生までの環境教育プログラムづくり等、幅広く活躍。
かたかめ

●新たな社会づくりへ向けて
 異常気象が食糧生産に大きな影響を与えています。わが国の食糧自給率がカロリーベースで40%と、先進国の中で最低な数値が続いています。皮肉なことに、穀物相場の急騰により、小麦、麺類、パン類の値が上がったということで、日本の消費者がお米に目を向け始めました。政治家が本格的に取り組み、少なくとも50%以上にもっていかなければいけません。地球全体の石油の枯渇傾向で、石油に頼らない社会をいかに作っていくかが問われています。

●省エネのレコーディングダイエット
 私たちができる自己防衛としての省エネ。みなさんの店でも、エネルギーの使用実態を確かめることから始めましょう。基になるデータは、毎月の電力、ガス、水道の使用量。電力やガスの使用割合を確認してから、使用割合の多いところを改善します。冷凍冷蔵設備、照明、空調、換気など用途別に、どのような使われ方をしているか。季節別の違い、夏は冷房のウェイトが大きく、冷蔵庫の消費量も増えてくるので使い方を見直します。冬は暖房や厨房機器、給湯の消費が上がります。秋は冷暖房の需要が低い分、年間を通してコンスタントに使われている照明など、ベースとなる消費量を確認するのにいい時期。季節別に確認してみましょう。
 最近流行のレコーディングダイエットは、毎日の体重、体脂肪をチェックすることで、やる気を引き出し成功に導きます。省エネの場合も同じで、まず現状の使用量を把握し、減らすべきところを見極めて削減に取り組んだ結果、どれくらい減ったかを確認し、記録していくことで更なる省エネを実現していきましょう。

●片亀家で取り組んだ省エネの実績
 わが家では、11年にわたって省エネを記録し、10年間で32%の電力消費量の削減に成功。今年の6月は156Khで3387円。一戸建て家族4人暮らし、驚異的な数字です。日本の平均家庭で月額1万円前後ですが、その3分の1。10年間何もしなければ、余分に24万8千円かかります。本気で取り組めば、これだけの金額を節約でき“エコ貯金”ができます。わが家では旅行の元手や家電製品の買い替えなどに使っています。

●一般飲食店における省エネのポイント
〈空調〉
 空調は、どういうエリアで、どういう時間帯で使うのか。温度も過剰に冷やしたり、過剰に暖めたりしない。営業時間になったら、設定を変える。使い方の基準やルールを作り、徹底させる。温度設定で26度でも、断熱効果が高かったり、陽射しが入ってきたり、空気の入れ替わりなどの状況で温度は変化。温度計を数箇所に置き、実際に何度か確かめましょう。基本のルールは、一般家庭で冷房28度、接客業でも26度くらいを目安に。また、定期的なメンテナンスで、エアコンの効率をアップさせましょう。フィルターの清掃は一週間に一度。熱交換器は年一回業者に依頼し、油や埃の付着やカビの発生を防ぎましょう。
 設備費がかかっても省エネ効果の高い最新設備を導入すると、ランニングコストが安くあがります。また運転する際の前提条件として、直射日光を避ける対策や温度を抑える対策をこうじたい。ゴーヤによる緑のカーテンは射光対策としてわが家でも行っています。
冬場の暖房対策として、ペアガラスや樹脂サッシの導入も効果的。
 夏の時期、室内の熱の71%は窓から入ってきます。冬は室内の熱の48%が窓から逃げていくというデータがあり、夏も冬も窓からの熱の出入りに配慮する必要があります。
〈換気〉
 室内環境を保つためには、適度な換気が必要ですが、過剰な換気は空調の関係と矛盾します。営業時間外は客席を換気。厨房は、オンに行います。営業時間外は可能ならば量を調節したい。厨房は換気のフィルターが、エアコン以上に汚れます。過剰な負荷がかかるので、フィルターの清掃は定期的に行いたい。空気を入れ換えながら熱は逃がさないというロスない換気システム≠烽るので、客席に導入すると、空調の負担が少なくなります。
〈照明〉
 照明はエリアや時間ごとに、点灯の仕方を決めます。一つのスイッチで、室内全部が点灯してしまうのではなく、なるべくエリアごとに細分化。また人感センサーの導入も場所によっては効果的。店内照明の場合は普通の蛍光灯ではなく、柔らかな味わいのある白熱電球がよく、最近は電球色の電球型蛍光灯が出ているので、そういうものに切り替えると、冷房負荷も下げられるし消費電力も5分の1になります。ただ値段が高く、電球が120円程度に対し電球型蛍光灯は600円前後。消費電力約5分の1で、寿命が3から6倍長持ちするので、電球型蛍光灯に変えるとトータルでお得です。
〈冷凍冷蔵〉
 厨房の冷凍冷蔵庫の配置には要注意。フライヤーのすぐ隣などは最悪。加熱器具の傍に冷蔵庫は置かない。冷蔵庫のすぐ脇に段ボール箱やビールのケースが積みあがっていたら直ちに排除しましょう。また、詰め込みすぎは品物が傷みやすく効率も低下するので、適正在庫を心がけ、定期的な霜取りも必要です。また、長年使うとドアのパッキンが劣化しやすく、そこから冷気が逃げるので交換したい。冷気を逃がさない工夫が大切です。
〈厨房の加熱器〉
 給湯器、湯沸かし器の温度設定を高めにしすぎない。口火は使うときに点けましょう。
 鍋類は水滴をつけたまま火にかけると、熱効率が約2%違ってきます。炎をはみ出して使用すると約10%ダウン。お湯を沸かしたりするときふたをして加熱すると、空けたままの状態より約20%の効率アップ。ものによっては保温調理というのが有効な場合があります。100度で調理するより60〜80度で保温調理するほうがうまみが出る食材もあります。
 フライヤー、オーブンなど専門の機械は、専門のメンテナンス業者に依頼します。
 以上が飲食店における省エネルギーのポイントです。

原産地表示は食の安全・安心への決意表明

●フードマイレージという視点
 次は原産地表示の話。地産地消、地元で採れた食材を食べる。ハウス栽培のものより旬の露地栽培の野菜を食べるのは、環境にも健康にもいいことです。
 日本の食糧自給率は40%、60%は海外からの調達で、船や飛行機で運ばれてきます。フードマイレージといいますが、私たちが口にしている食材の平均輸送距離は、農水省の統計によると1万5千km(地球一周が4万km)。輸送のために大量の燃料が使われ多くの二酸化炭素が排出され、大気汚染を招く。輸送の時に防腐剤、防虫剤、殺菌剤などが使われる実態があります。従来は家計消費の約三割が食糧消費、その約三割が外食費というデータがありましたが、それが縮小傾向になっています。
 それを食い止め、消費者に足を運んで安心して食べていただくための「原産地表示」。お蕎麦屋さんでも、そば粉の72%は中国産。天ぷらの海老は東南アジア産が半分以上。衣の小麦はアメリカ産。油や醤油の原料の大豆はアメリカ産というように、ほとんどが外国産。食糧自給率を上げるには、お米を見直し食べていこうというのが基本的な考えです。
 また割箸についても、中国の山を裸にして作った箸なのか、大分の山の間伐材を効果的に利用して作った割箸なのか、お客様に分かるように提示し、意識の浸透を図りましょう。

●原産地は業者に確認
食の安全に関する意識調査で、食品の安全性に不安を感じている人は76%。約8割の消費者が外食においても食材の原産地表示を望んでいます。大手の外食事業者で原産地表示をしているのは62.7%。中小事業者で16.8%。飲食店は自信を持って食材の調達を行っていることを表すうえでも原産地表示は必要。
 原産地情報の表示は、原料生産者、卸、小売、輸入業者など食材を供給する業者にとって法律上の義務になっています。分からないところは尋ね、納入業者に対して、原産地表示への意欲や興味を意思表示すると、業者も意識して納めるようになります。

●店が貫く姿勢が大事
 産地が特定できないあいまいな表示はしない。一部の特定産地だけを強調する表示は誤解を招きやすい。例えば鹿児島産の黒豚と国産豚を使っている場合、のぼり旗や店内の表示で黒豚だけを強調すると、お客様は全部が鹿児島産の黒豚と勘違いしやすい。悪意がなくても結果として不一致があると、他の情報まで疑われ店の信用を落としかねません。
 また、店舗全員の認識を高めておくことが必要です。原産地表示の担当者を決め、何か聞かれたら答えられるようにしておくといいですね。
 原産地表示は、経営者の姿勢を示すことであり必要条件といえます。例えばこだわりの食材を表示しても、出てきた付けあわせの漬物が真っ赤や真っ黄色であったらぶち壊し。ポリシーは徹底させるべし!

●みどりちょうちん
「みどりちょうちん」という取り組みが始まっています。使用食材が国内産50%以上で“ひとつ星”、60、70と増えると星の数が増え、最高は五つ星。全国で1434店が登録し、毎月100店舗の勢いで増えているそうです。“みどりちょうちん”とネットで検索してみてください。私は“応援隊”という利用者の立場で登録。地元の群馬県では19店舗あるそうで、そういう店を優先的に利用したいです。

●節水の成功事例
 節水も大切です。地球は水の惑星と言われますが、使える淡水の真水は0.1%にも満たない。世界的にみると貴重な資源で、コストもかかっています。上水道で1立方メートルあたり100円から120円くらい。下水道につながっていれば100円前後の処理費がプラスされます。
 私もお手伝いした『赤城青年の家』という施設の食堂がISO14001に取り組んだとき、無洗米を導入しました。美味しいうえにとぎ汁も出ないので、排水を汚さない。また、刻んだ野菜をシャッキリさせるために、かけ流していた水を氷に変えました。シーズンオフは、食器洗い機を稼動せず手洗い。ゆで汁を捨てずに洗い物に再利用するなどして、年間の上水道使用量を40%削減しました。
 また、農産物の調達を国産100%に切り替え、その半分が県内産で、25%が地元産。地元のJAと連携して、調達コストを下げつつ地元調達率100%を達成。利用者からも好評で、バイキング形式の朝食では、生産者を写真入で紹介。

●片亀家の脅威の節水事例
 わが家では、10年に及ぶ節水で約20万円、節電で約24万8千円の貯金ができました。
 去年の暮れに洗濯機を超節水型のドラム式洗濯機に買い換え、ものすごい効果がありました。今までの洗濯機だと、風呂の残り湯を全部使う感じでしたが、新機種は水が100リットルくらい残る。それを20リットルのポリタンク2つに入れて、1階と2階のトイレの洗浄に使っています。
 今年は最初の年に比べ半分の5万円以上を削減。一日の一人分が173リットル、先月のデータでは165リットル。今、日本国民の平均が一日320リットルですから、その約半分。排泄物を飲料水で流すというのはもったいない話で、新築、リフォームのときにお風呂の残り湯をトイレに持っていけるような配管をするのがお勧めです。

●明日の社会は変えられる
 省エネに取り組むとき、イニシャルコスト(初期投資)がかかります。税制上の優遇や補助金制度などが整いつつあり、皆さんのような飲食店が利用しやすいものが登場しつつあります。税額控除の対象になるような特別償却の制度もあり、利用すれば投資の回収が少しできます。
 組合を通じた皆さんの努力が、点ではなく面として広がると、多くのお客様の目に触れて意識されるようになります。お客様とのコミュニケーションの中で、皆さんの気持ち、姿勢をしっかり伝えていってください。
 明日の天気は変えられないが明日の社会は変えられる。他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる。皆さん自身がまず問題があるところは見直し、変わる勇気を持ち、経営の改善に取り組みながら、環境の改善にも貢献していただきたいと思います。

(紙面の都合により講演会要旨を掲載しました)

今すぐにできる省エネ対策(「一般飲食店における省エネルギー実施要領」より)

 下記の表は、一般的な飲食店における、すぐに実践すべき省エネポイントをまとめたものです。スタッフルームなどに貼って、省エネ取り組みを実施して下さい。

エコ対策

省エネルギー設備導入に対して税制優遇、補助金等が受けられます。下記を参照ください。 
■エネルギー需給構造改革投資促進税制 → http://www.eccj.or.jp/enekaku/
■住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業
 → http://www.nedo.go.jp/itaku-gyomu/hojo_josei/index.html
■金融上の助成措置 → http://www.eccj.or.jp/promote/06/index.html
■食品流通構造改善促進法に基づくリース等支援事業(食品流通構造改善緊急対策事業)
 →http://www.ofsi.or.jp/strct_dept/kinkyu_taisaku/index.html