味つづり
〈53〉 倉橋 柏山
     かぶの旨い食べ方
                   「鞍馬下り貴船の茶屋の蕪蒸」 草間 時彦

 夏の川床と春、貴船には二度ほど行っている。冬、雪のちらつくのをながめながら、炬燵に入り、蕪蒸を肴に人肌の燗酒を楽しみたいものである。貴船は四季風情がある。
 春の七草の一つ、すずなはかぶのことで、かぶらともいう。日本での食用は古く弥生時代からといわれる。種類も東洋系といわれる日本の在来種とヨーロッパ系などと共に、日本の気候風土に合わせたいろんな品種が各地にあり、食べ方も漬物や煮物、かぶらずしなどと沢山ある。
 蕪はアブラナ科の一〜二年草で、地下に肥大した白い球根状の部分を主に食用とする。色は白く光沢があるほど良く、形も丸いものほどよい。まっすぐに伸びた茎はやわらかいので、葉と一緒に食べることである。カルシウム、カリウム、ビタミンB1、B2、Cなどの栄養価もあり、主に食べる白い球根の部分は少ない。特に茎や葉の部分はビタミンAが多いので捨ててはいけない。蕪蒸には、聖護院蕪か、天王寺蕪の皮を厚めにむいてすりおろし、熱湯をかけて冷めたらしぼり、溶きほぐした卵白を適宜混ぜる。金目鯛、鯛、甘鯛など白身魚に酒と塩を軽く振り、30分ほどおき、食べ良く切る。銀杏、百合根、きくらげなどと一緒に器に盛り、蕪をのせる。包んだり、混ぜてもいい。蒸気の上がった蒸し器に入れて15分弱蒸す。料理屋さんでは銀あんといって、醤油の少ない白っぽい透明なあんをかけて上品に仕上げるが、だし汁5〜6に対し、みりん、濃口醤油各1の割合で火にかけ、煮立ったら水溶きの葛粉か片栗粉を加えてとろみをつける。蒸したての蕪蒸に熱いあんをかけ、おろし山葵かおろし生姜を添え、蒸したての熱つあつをいただく。穴子やうなぎ、椎茸、舞茸などあまりクセや匂いのないものなら大方蕪蒸の材料に用いることができる。
 鯛蕪という旨い食べ方もある。真鯛を用いるのが本筋であるが、金目鯛などでも充分旨く、頭やかまの部分でも上等である。食べ良く切って軽く塩を振って一時間ほどおく。蕪も魚と同じ大きさに切って皮を分厚くむき、軽く下茹でをする。魚は沸騰した熱湯に入れ、回りが白っぽく色が変わったらざるにあげ、流水で血合いやウロコなどをきれいに洗ってざるにあげて水気をきる。鯛と蕪を鍋に入れ、だし汁8に対し、みりん、酒、淡口醤油各1の割合で、材料がひたひたにかぶる位注いで火にかけ、煮立ったら火を弱め、ふたをして15〜20分弱煮含める。最後に味を見て、自分好み、あるいは家族好み、お客好みに味を調節して器に盛り、煮汁も加えて針柚子、細く切った柚子の皮をたっぷり添える。酒の肴としてお出しするなら淡味がいいだろう。飯の菜なら多少濃厚な味の方が喜ばれる。
 私は30年ほど料理を教えている。教室は6人1組で4〜5組が大方である。同じ材料、同じレシピで、同時進行である。が、出来上がった料理がなぜか異なる。本来なら同じ味に出来上がるわけであるが不思議と多少違う。下処理の仕方、調味料の計り方、煮る時間、火加減などで味は大きく変わるようである。
 ほたて貝と一緒に煮ても旨い。鍋底に3ヶ所ほど切り込みを入れて昆布を敷き、蕪とほたて貝を入れ、水8に対し酒1の割合で加え、塩と、極く少々の淡口醤油で調味して煮含める。煮上がる間際に茹でたせり、または春菊を加えてさっと火を通す。器に盛り、煮汁を注ぎ、たっぷりの柚子の千切りを天盛りにする。この煮物はだし汁を用いずとも、昆布とほたて貝から旨いだし汁が出るので美味しくいただける。
 骨付きの鶏もも肉をオリーブオイルで焼き目をつけ、小角に切ったベーコンと蕪を加え、水を注ぎ、酒、みりん、醤油、生姜の薄切りを適宜加え、ふたをして20分弱煮含めても旨い。これも鶏とベーコンから旨味が出るのでだし無しでもいい。