パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン
平成16年度全青連研修会


「繁盛店をつくるには」

ポイントは 女性に愛される店にすること
お客様は二度と来ない、という前提で商売をすること
店の特長(料理・接客・サービス)づくりに努力すること

  ■コーディネーター
全青連会長  田中  強氏(秋田県)
■パネリスト
前全青連会長 亀岡 育男氏(大阪府)
全女連会長  木村美智江氏(広島県)
秋環連会長  斎藤 育雄氏(秋田県)
■アドバイザー
(株)日本ヒューマン経営研究社 代表取締役 大塚 徹氏
全飲連副会長(群馬県理事長)  加藤 隆氏

さまざまな業態、さまざまな努力。
そして、それぞれの悩み。

田中■まず、はじめに自己紹介もかねてそれぞれのお店の業態をお教え下さい。
亀岡■創業から33年、現在社員数38名、従業員数170名です。大阪府、兵庫県の行政の施設にカフェやレストランを出店させていただいています。路面店ではトンカツ屋やラーメン屋、ショッピングセンターの中にカフェも出店しています。「スヌーピーカフェ」は子どもや女性に人気です。
 この商売は面白い仕事だと思います。各店違うタイプの商売をしているので、それぞれの店がそれぞれ特殊なノウハウを発揮しないといけないので、神経を使います。
木村■昭和40年以来、広島の「お好み村」というところで、お好み焼き専門店の営業をしています。このお好み村、当初はプレハブでしたが平成3年にビルになり、現在このビルに27軒入っています。27の店舗の全てがお好み焼き店、全てが同業種、競争相手です。
 お客様は一般のお客様の他、観光客や修学旅行生も多く、週に2回程昼食時間に旅行客が200〜300人位来られます。5坪ほどの小さな店なので効率よく回転させなければいけないので、てんてこ舞いしながらやっています。
斎藤■私は地元・秋田の川端通りで居酒屋を営んでいます。平成6年から和風居酒屋の形態を始めました。零細企業ですが「できる限りのことをお客様のためにやる」ということを心がけています。また商店街の代表もやらせていただいていまして、商店街の活性化にも取り組んでいます。今日のこのパネルディスカッションで活性化につながるヒントを見つけたいと思っています。

女性が変わって、女性が変える?
田中■大塚先生から、3つのポイントをいただきました。まずは「女性に愛される店にすること」についてお願いします。
亀岡■さまざまな業態の店をやっているのですが、どの店をとってみても女性を無視することはできません。「女性のお客様に支持されるためにどうしたらよいか」ということを常日頃から考えています。
 やはり第一は「清潔感」だと思います。特に女性客はそういうことに敏感ですので、清潔感を高めることに重点をおき、QSCノートを作っております。QSC(Quality Service Cleanness)Qは「品質」、Sは「サービス」、Cは「清潔さ」のことです。まず清潔感を数字で表して点数をつける。細分化して数字で出さないとスタッフ全員が同じ理解ができないので、そのような仕組みを取り入れています。
 もう1つ、ヘルシー・メニューを提案しています。週に一度スタッフ会議を行い、「今女性にどのような物が好まれているか」ということを、現場で直接お客様に携わっているスタッフの声を元に議論するということを定期的に行っています。
 どちらも「続けていくこと」はなかなか難しいのですが、常に今QSCがどこまでできているか、今何が求められているかをチェックし、それをもとにニーズに応えていく。そのためにもこれらのチェックは大切だと考えています。
木村■スタッフは全員女性なのですが、お客様の80%が男性です。なぜ女性客が少ないのか話し合ったり、女性客の多い店に行ってみたりしているのですが、女性に好まれるお店づくりについてはまだまだ模索中です。
斎藤■女性客に何が好まれるについては、整理・整頓・清潔は当然ですが、意識的に女性雑誌を見てヒントを得たりしています。しかし、それだけでいいのかと…。お客様は男性でも女性でも「この店ならではの質の高いサービスをしていく」ことがよいのではないかと考えています。女性・男性関係なく、根本的に「真心で接し、なおかつ清潔さ、そして時代にあったお料理を出す」ということを心がけ、それでは何をしたらよいか、ということをスタッフと一緒に考えています。
 毎日お昼に5〜10分くらいの時間で、料理のアイディアを出しあったり、前日の反省等を報告するようにしています。
田中■大塚先生、女性に愛される店というのはどういうことなのでしょうか?
大塚■時代の変化を捉えていくとよくわかると思います。女性を取り巻く環境に時代の変化が見えて来ていると思うのです。
 例えば、飲食業界でいうと今注目されていることは「お一人様マーケット」。女性が1人で、バーでカクテルを飲んだり、居酒屋で酒を飲んだり、焼肉屋で焼肉を食べたりできる店、つまり女性が1人でお店にいても居づらくない店が繁盛しているのです。仕事ができてお金のある女性、自立した女性をターゲットにしたマーケットが重要なポイントになってきています。
 もう一つ、私が皆さんに提案したいことは、クレジットカードの本格的な導入です。この業界で2千円や3千円の支払いでカードを使われると面倒、などと言っていると時代に乗り遅れます。女性はクレジットカード利用の際に貯まるポイントが大好きです。ドラッグストアでもタクシーでも、喫茶店に入ってコーヒーを飲んで使っても、気軽にカードを使うのです。お店側も気軽に使えるような雰囲気になっています。各カード会社も女性客を意識したさまざまなサービスを考えており、ポイントが貯まると好きな商品と交換できたり、女性にうれしいサービスが受けられたりする。これは大変なことが起きる予感がするのです。女性が根底に持っているお洒落感覚や自由に気兼ねなく一人でも楽しみたいという気持ち、ニーズを掴むことが重要なポイントです。
加藤■トイレが汚い店には女性客は絶対来ないと思います。トイレには花を1輪、買った花でなくても、野に咲いている可憐な花の方がむしろ印象がよいと思います。些細なことですが、こんなことから考えていくことも必要かと思います。
 また、大塚先生のおっしゃるように流れを変えるのは女性かもしれません。私はトンカツ屋からこの商売をはじめ、今は神社にある結婚式場の宴会をやっていますが、昔は結婚式の式場選びの決定権は父親が握っていましたが、今は若い二人、それも女性に決定権があるようです。財布を握っているのは女性なのです。女性に支持されないお店は流行りません。

●あなた自身が声を大にして自慢できること、それが特長
田中■次に店の特長づくりに努力していることについてお願いします。
亀岡■私はトンカツ屋もやっているのですが、この店はどちらかというとディスカウント系、お値段は安いです。関西は豚肉より牛肉のほうがポピュラーで、豚肉はなかなか牛肉に勝てないというマーケットです。そういうこともあって「トンカツ文化」が遅れています。そこで、安くて美味しいトンカツを出そう! ということでやっています。
 ディスカウント系の店ですからお急ぎのお客様が多く来られます。そこで、この店の特長の1つとして「5分間提供」を目標としています。伝票に時間を刻印し、5分間提供ができた割合がどのくらいかについてチェックしています。5分間提供率80%以上が目標です。
 実はこのトンカツ店をやってみてわかったことで、ビックリしたことがあります。夜中11時半から1時ごろまでにピークがもう一度来るのです。この店は深夜2時までやっているのですが、45席が2回転します。私のように年をとっているとそんな夜中に油モノを食べるなんて考えられなかったのですが、そうではないのです。かなりカルチャーショックを受けました。
木村■同業者がたくさん入っているビルでやっているわけですが、だいたい仕入先も食材も一緒ですので、やはり味の工夫ですね。また、メニューもお好み焼きだけでなく、地場産や地域の物を使った単品メニューを作るなど、飲み屋さん感覚がうちの店の特長だと思います。
斎藤■「自分が食べて美味しいモノを出す」というのが私の主義です。月に2つは新しいメニューを出していくようにしています。新メニューについては調理人にもアイディアを出してもらいます。まず私たちスタッフで意見交換をしながら考え、次に女性のお客様に食べていただき、率直な意見をお聞きする。そのようにして今のニーズに合う料理を作る努力をしています。月に2つというのはキツイのですが、お客さんの飽きはすぐわかりますから、必要なことだと思うのです。
 また、同じお客様が月に2、3回宴会にみえたりすることもありますので、お客様のレポートをとり、1年以内は同じ物を出さないようにしています。お刺身などはダブるときもありますが、椀物などはダブらないように。個性ある料理や、昔からある料理をアレンジしたりしてお出ししています。
加藤■結婚式場のほか、企業の社員食堂をやっているのですが、ここは30年も前から「31品目使ったメニュー」や「化学調味料を使わない料理」を、毎日メニューを変えて出すように言われています。加えて高齢者や成人病の人用なども用意しています。毎日メニューが違いますから手抜きはできないのはもちろん、化学調味料を使わないというところに苦労しております。しかし、このことはとても勉強になっていますし、これからの高齢化社会や本物志向のニーズを考えたとき、これを生かした商売ができると思いますし、これは店の特長になると考えています。
大塚■亀岡さんのお店のトンカツを揚げて5分以内に出すということはすばらしい、大きな特長ですね。木村さんの場合、他店もほぼ同じ食材を使い、だいたい料金設定も同じでしょう。それでも木村さんのお店を選ぶということはお店ならではの「エンターテーメント性」があるからだと思います。鉄板の上で焼く動作やリズム感の楽しさ、実際私も「ネギをこんなにたくさん!」という意外性が強烈に印象に残っています。エンターテーメント性や遊び心は飲食業には絶対条件だと思います。また、斎藤さんのメニューに対するこだわりも特長ですね。
 私は、どうせ店を出すなら同業者の真っ只中に出せと言います。その中で勝ち抜いていけなければ、流行る店にはならないのです。これからの時代、「甘い考えの経営者」や「普通の店」では生き残れません。

●次はないが前提で、次につながる接客。
田中■次に「お客様は二度と来ないという前提で商売をする」ことについて、お願いします。
亀岡■このことは店を運営していく上で重要なことだと思っています。
 重要なのは接客だと思うのですが、オーナーがいつも店に出て眼を光らせていられるお店はオーナーの個性が発揮でき、それが強みですが、私は複数の店舗を経営しておりますので、すべての店の接客に眼を光らせていられるわけではありません。それぞれ店長任せとなります。そこで店長に、経営について、接客についてどういう姿勢でやって欲しいか伝えたいのですが、言葉で心配りだ、気配りだといってもなかなか伝わらないのが現状です。中には優秀な店長がいて、自分なりに店にあった接客を研究し、それを従業員に伝えているのですが、それでは店長によって店の接客レベルに差が出てしまう。
 そこで「サービスを標準化する」、最低ここまでのサービスをしなさいということを徹底教育することを考えました。基準を決め、それができているかを常にチェックしていくことで、最低レベルの接客は果たしていきたい。そこから先は店長の腕。どれだけ接客レベルをあげるように指導していけるかです。
 それと同時に、調理技術の向上と訓練にも心がけています。また最近、メニューも店長自らパソコンで作ったりする人もいます。週代わりでメニューを新しくしそれに伴って作るわけです。作っているとだんだんとプロ並みになってきていて、目を見張るものがあります。
木村■観光客が80%ですので、お客さんと接する会話の中から、話の糸口を見つけ楽しく商売をやっています。観光のお客様ですからリピーターになっていただくことはあまりありませんが、わざわざ広島にお好み焼きを食べに来られたのですから、楽しく美味しく食べていただきたいという考え方で商売をやっています。
斎藤■今、自分の店で実行しているのが「お客様に邪魔にならない接客」、このことに一番心掛けています。ただ放っておくわけではなく、きちっと接客はするが邪魔にならない接客。週に2、3回みえるお客様がいらっしゃるのですが、端の方の自分の定位置に座った瞬間、漫画や小説を読み始めるんです。その間に、ビール2杯に日本酒1本飲んで終わり。こういうお客様は声をかけたりしては邪魔になる。ですからこういうお客様には声はかけないようにしています。
 反対に会話したくて来るお客様もいらっしゃいます。まあ、あまり会話ばかりしていてはほかのお客様への接客に支障がでますから、従業員には余りしゃべるなと指導していますが…。ただ、話したいお客様、話したくないお客様とも1人でみえたお客様からは、目を離さず気配りするようにしています。
 とにかく接客については「真心で勝負」。従業員にも接客と難しく考えるより「まず自分がされて嫌だと思うことはするな、して欲しいことだけしろ」と言っています。
加藤■それから、斉藤さんは商店街の代表をされているようですが、地域に密着した商売を心がけることは重要なことだと思います。地域のことに率先して参加したり、飲食店のみなさんがその町内の主役になるような街づくりを私は望んでいます。今、商店街で一番元気になれるのは飲食店だと思います。また、地域でそういう付き合い方をしていれば、地元のお客様が2度3度来てくれることにつながると思うのです。
大塚■亀岡さんのところの強みは、データの蓄積があるということですね。それを分析しクーポンなどを使った戦略を考える。また、基本的なサービスマニュアルで接客レベルを上げていく。また木村さんは個人経営ですから、まさに経営者の人柄でお客様が集まる、人は人を求めて生きているのです。人というのは目と言葉で良くも悪くもなる。人はその人の表情を見ています。リピーターというのはそのお店の雰囲気や匂いが好きなのです。
 よく考えてみてください。1回来たお客様がリピーターとなる率はどのくらいですか? 実に少ないと思います。皆さん自身、一度行ったお店に何度も行くことは、ほとんどないのではないでしょう。だから一期一会ではありませんが、一度来てくれたお客様は二度と来てくれないということを肝に銘じて接客することです。
 斎藤さんがいいましたが、1人のお客様に気を配る。1人で飲む酒、1人で食べる飯はわびしいものです。だから1人のお客様に対しては気を使う、まさにその通りだと思います。サービス業、もてなし業というのは、人肌のビジネスなのです。人肌のぬくもりを感じることが飲食業成功の絶対条件なのです。これが個人店の命です。