味つづり39 倉橋 柏山
山葵醤油で食べる穴子の白焼き
早春の頃に出る柳の葉のような形をした半透明の穴子の稚魚に「のれそれ」という珍味がある。辛子酢味噌か、山葵酢醤油のようなもので日本酒のあてにすると絶品である。うなぎの稚魚も同じような食べ方をするが、うなぎほどしつこい感じがなくあっさりしたものである。
穴子は、ウナギ目アナゴ科の海産魚で、海鰻とも書く。
穴子は水深百メートル位までの海泥底にいて、冬の間は比較的深く暗いところで生息し、水温が上がる夏には、ヘドロの多い港の中などに集まるようになる。
一年中出回り、味にもあまり変化がないが夏から秋が旬である。
盛夏、穴子の最も旨い食べ方は天ぷらであろう。それも細身のものを一本揚げにする。鮮度が良いと丸まることがなく、真っすぐに揚がる。専門店などでは、箸で二つに切って出してくれる。穴子は天つゆが旨いが、個人的には私は塩で食べるのが好きである。魚はすべてであるが、一にも二にも鮮度である。仕事上やむを得ず冷凍の割き穴子を使うことがある。塩でよくもみ洗いしても特有の臭いが気になる。それと鮮魚特有の旨味と歯ざわりがなくなる。穴子は、特に、活を開いて調理することである。
今日、竿秤など死語であろう。穴子の別名をハカリメ(秤目)といった。長い体の両側を走る側線がぼつぼつと目盛りのように白く目立ち、さらに側線と背の中間に、白い点が同じような間隔をおいて並んでいることから、昔使っていた「竿秤」の目盛りによく似ていることからハカリメの呼び名がついたわけである。
ウナギ目ということで、穴子はうなぎに類似している。稚魚はレプトセフアルス(柳葉魚)の変態をへて成魚になる。特に尾部の筋肉や神経が発達して前進後進が自由で、名の由来である。穴には尾から入り、つかまえてざるなどに入れておくと尾から逃げ出そうとする。
煮含めて冷蔵庫に入れておくと、ゼラチン質が多いため固くなる。それを火であぶってすしに握ると、口の中でとろけるほど柔らかく香りもいい。すし屋の板前が、付け台前のネタケースから取り出して、一寸あぶりますか、などと聞くが、あぶったほうがはるかに口あたりも良く、旨い!!。穴子は蒸したり煮含めると生の状態よりも栄養価が高く、コラーゲンなども多いので女性にとっては美容効果も高いことであろう。
小ぶりの穴子を背開きにして、皮目のぬめりを包丁でこそげ取り、乾いたまな板に皮目をぴったりつけ、身の部分を皮近くまで包丁目(骨切り)を細かく入れ、5〜6センチメートルの長さに切る。小麦粉をまぶして、皮目の中央に生うに小粒とちぎった梅干しをのせて二つに折り、青じその葉で包んで天ぷらの衣を付けて油で揚げる。揚げ立てを天つゆで食べるのもいいが、塩を一寸振りかけてビールのつまみにする。夏向きの肴である。
薄味に煮含めたごぼうをボールペンの太さに割き3〜4本束ねて、開いた穴子で巻き、たれをかけて焼きあげると穴子八幡巻という。うなぎと同様、穴子もごぼうと相性がいい。暑い夏のまっ盛り、柳川風も旨いが、鍋仕立てがいい。たっぷりの笹がきごぼうと刻み茗荷を加え、素焼きにした穴子を、食べよく切って、すき焼き風にして食べる。薬味は、七味唐辛子か、粉さんしょうであろう。あっさりと吸い地強で寄せ鍋風にするのもいいだろう。
白焼きを山葵醤油で食べても旨い。これは絶対生きているものを開いて焼かないと旨くない。背開きにして皮目のぬめりを包丁でしごき取り、まな板に皮を下にして並べ皮と身の間に金串を4〜5本末広状に刺し、炭火で皮のほうを先に焼き、身をうっすらと焦げ目がつくほどに焼いて、焼き立てを山葵醤油で食べる。うなぎの白焼きとは一味異なった旨さがある。残念ながら炎の出るガス火では上手く焼きあげることはむずかしい。