味つづり 〈34〉 倉橋 柏山

そら豆は青き初夏の味
「そら豆はまことに青き味したり」細見綾子

 四季がはっきりめぐり来るのに、旬不在の時代である。が、そら豆が店頭に並ぶと、晴天の空を見上げ、「あ〜あ〜、今年も夏がやってくるな〜あ〜」と思う。塩ゆでのそら豆を頬張りながらビールをいっきに飲む。爽やかな喉ごしと共に初夏を感じる青き味である。
 そら豆は夏らしくなった空に向かって莢を付けるので「空豆」と名付けられたといわれる。また、実の形が蚕に似ているところから蚕豆と書いて、そらまめと読ませる。多くの料理人は天豆と書いてそらまめ、「ごがつまめ、なつまめ、やまとまめ」などとも呼ばれる。お多福豆、唐豆、天竺豆とも呼ばれ、中国伝来のものであることがうかがえる。古代エジプトでは主食に用いたともいわれ、日本でも八世紀に試作の記録があり、欧州系のものは明治初期に導入されたといわれる。
 そら豆は莢から取り出すと急速に味が落ちて皮が固くなる。調理する場合、直前に莢から取り出すことである。お歯黒と言って、黒い筋がはっきりしたものは豆が完熟したものである。ビールのつまみには、お歯黒の部分に包丁で少し切り込みを入れて塩ゆでにする。ゆで方にも好みがあるが、ゆですぎは禁物。かと言って固すぎも旨くない。口に入れてべたっとやわらかすぎは旨くない。程良い塩味と感触が大切。北大路魯山人は、「枝豆やこんなものまで塩かげん」といっている。そら豆もしかり、程良い塩加減とゆで加減である。
 皮が黄色になった豆を醤油でじっくり煮含めると旨い。が、豆の皮が黄色に完熟したものが少ないのが残念。完熟豆が入手できたら、皮付きのままふたに重石を乗せて水煮にする。皮と豆が一体感になるほどやわらかになったら砂糖と醤油でじっくり煮含める。この煮方は完熟しすぎほど旨い。ほっくり皮ごとやわらかくは皮にきずを付けないことである。
 金団という料理がある。青く彩りのいい若い豆の皮をむき、塩ゆでにする。氷水に入れて色止めをし、ざるにあげて水気をきって半量を裏ごしにする。なべに入れ、砂糖を適宜加えて火にかけて練り、残りの半量を加え、塩少々を振り入れて仕上げる。砂糖の増減によって菓子、料理のあしらいと、彩りの良い初夏のさわやかな味である。
 彩りのいい汁物に、そら豆のすり流しがある。ゆでて裏ごししたそら豆をだし汁で擂りのばして調味する。葛粉で極く薄くとろみをつける。具は白玉団子、板わらび、鯛などがいい。西京白味噌で調味する手法もある。清し汁が好みならしんじょがいい。すり身(白身魚のすりつぶしたもの)にそら豆の裏ごしを加える法、岩石と言って、ゆでた豆を混ぜる手法とがある。すり身をすり鉢に入れ、昆布だし汁を適宜加えてすりのばし、卵白と大和芋のすりおろしを各少量加え、軽く塩味をつけてすり混ぜ、ゆでたそら豆を混ぜ、水でぬらした汁椀にのせてまんじゅう形にととのえ、沸騰した昆布だし汁に落とし入れて火を通す。水気をきってお椀に盛り、熱つあつの清し汁を注ぎ、木の芽を添える。あしらいは、わらび、うど、生椎茸、細工麩など、彩りを歯ざわりと季節を考慮して取り合わせる。
 刻んだそら豆を海老にまぶし付けた新緑揚げも彩りがいい。海老に小麦粉をつけ、溶き卵白をくぐらせ、皮をむいたそら豆を小さく刻んで海老にまぶして油で揚げる。コツは刻んだ豆にカタクリ粉を少量まぶすことと油の温度をやや低温にすることである。
 ご飯に炊き込む、そら豆ご飯も旨い。米にもち米を二割ほど加えて研ぎ、昆布と酒を加えて塩味で炊く。彩りを重視するなら炊きあがったご飯にゆでたそら豆を加えればいいが、少々彩りは悪くなるが、皮をむいた豆を最初から加えて炊きあげると、豆の香りと炊きあがりのご飯の味が良くなる。