全飲連データファイル
国民生活金融公庫の調査から
高齢者配食サービス事業にかかる実態調査
平成12年3月に環衛法が一部改正され、老人の福祉その他地域社会の福祉の増進に関する事業が追加されました。高齢化社会の進行や介護保険制度の創設等を背景として、高齢者への配食サービス・訪問理美容や福祉入浴制度等、生衛業者における福祉事業への自主的取り組みを支援していこうというものです。
これらの各事業のなかで配食サービスは飲食業者による取り組みが可能と考えられる事業であること、また、厚生労働省の「介護予防・生活支援事業」においても配食サービスはその中心を担うとされる分野でもあることから、高齢者配食サービス事業の実態をまとめました。高齢者配食サービス事業の現状
高齢者への配食サービスは、介護保険制度の介護給付・予防給付の対象外となっており、自治体による高齢者保健福祉施策の一環として実施され、独り暮らしの高齢者等がサービスの提供を受けています。
民間の配食サービス事業者で組織されている全国在宅配食サービス事業協議会が、人口5万人以上の市区町村(469カ所)を対象として、平成11年11月に実施した「自治体配食サービス実施状況調査結果集計報告」によると、平成11年度の実施状況は調査対象自治体の42.8%となり、半数近くの市区町村で実施されています。
同協議会による推計では、平成10年の自治体配食サービスの利用者数は総計で8万1千人で、1 人当たりの年間配食数を145.6食とみた年間配食数は約1,200万食となっています。
この事業は、地域の実情に応じ、社会福祉協議会、民間事業者等に委託できるため、民間事業者への委託が急増しており、同協議会では、年間配食数約1,200万食のうち、約310万食を民間事業者が受託したと推計しています。
民間事業者への委託が急激に伸びている理由としては、高齢者が増加の一途をたどっており、自治体や社会福祉法人等だけで対応していくことが難しく、大手の給食業者、外食産業等のように自治体から委託を受けて参入する民間事業者が増加していると考えられます。
企業事例
1、 介護サービス業者の参入事例
[沿革、事業概要]
東京都にあるA社は介護サービス業者ですが、介護サービス業における経験を活かして、高齢者配食サービス事業に参入しています。
[配食サービス事業の概要]
東京都及び千葉県内の市・区役所の委託を受けて実施しています。
配送業務、配達時の安否の確認等における工夫点は次のとおりです。
A.セントラルキッチンで一括調理し、温冷配送車で配送している。また、各利用者宅に温冷蔵庫を無料で貸与している。
B.利用者に対して事前に面談を行い、容体急変等万一の場合の連絡先、健康状況等を聴取し、配送時に起こりうる事態に備えている。
2、飲食業者の参入例(愛知県高浜市の事例)
[実施経緯]
愛知県高浜市は、「福祉の町」として全国の市町村の注目を浴びています。当市における従前の高齢者配食サービス事業は、高浜市社会福祉協議会が委託を受け給食業者一社が週3回のみ実施するというものでした。しかし、市長の一言がきっかけで、次のとおり実施方法の大幅な変更を行いました。
まず、市内300店ほどの飲食店、魚屋、八百屋などを集めて、新方式の説明会を行い、うち11店が同協議会の配食サービス協力会員として登録され、現行の高齢者配食サービス事業が平成11年1月からスタートしました。
会員の業種構成は、食堂、中華料理店、寿司店のほかに、魚屋、八百屋、総菜屋と従前からの給食業者1社という構成でした。
[配食サービス事業の概要]
高浜市の委託を受けて実施しており、営業地域は市内全域、料金は1食当たり450円(公的負担200円)、配食先数は141件でスタートしました。
高浜市社会福祉協議会が「給食サービス調整会議」を毎月開催して、同協議会と協力会員で討議を繰り返し、サービス内容の改善を図っています。工夫点としては次のようなものがあげられます。
A.和食、洋食、中華、寿司など業種が多岐にわたっているメリットを生かし、メニュー方式として日替り、かつ、何種類もの弁当を用意している(毎日約20種類のメニューを用意)。
B.チケット方式とし、食事の偏りがないか把握するため、いつ、何を食べたかを利用者ごとに同協議会がパソコンで管理している。
C.配送は個々の飲食店で行っているが、手が回らない店は他店(主に給食業者)が配達を請け負っている(配達協力料として1食50円)。
D.利用者からの注文は同協議会が受けるとともに、一店舗で作れる数にも限度がある(10〜20食程度の店が多い)ため注文の調整も行ったうえで、各協力会員に発注するシステムをとっている。
● ● ●
配食サービス事業の事例を2点みてきましたが、拡大する高齢者市場を見込んで、大手の給食業者、外食産業等各業態からの参入が相次ぐ一方で、小規模な飲食業者の参入事例はまだ少ない状況にあります。
しかし、一社提供による日替弁当の単調な味は利用者から飽きられてしまう可能性を持ち、飲食店数社が協力し多彩な味を提供できる形態のメリットも小さくはありません。小規模飲食店が結集する方式のほうが長期的には高齢者からの期待に応えられる利点を備えているとも言えます。事実、高浜市の事例では、給食業者1社による方式よりも、11店の飲食業者それぞれの味が楽しめる新方式のサービスのほうが利用者に好評で、利用者数も倍増しています。
この事例は、飲食業者が高齢者配食サービスに今後取り組んでいく一つのモデルとなると思われ、小規模店ならではのメリットを生かして、飲食業者が参入していく余地は十分あると考えられます。
問題点と解決策
配食サービス事業の問題点と解決策
[配送業務]
○市町村を小規模店でも配送が可能ないくつかの地域に区分し、それぞれの地域内での配食サービス事業形態とする。
○配送料はかかるものの、広範囲かつ多数に効率よく配送するには専門配送業者とタイアップする方法もある。
[受注業務]
委託元である市町村、社会福祉協議会に受注管理業務を引き受けてもらう。高齢者配食サービス事業は行政との連携が不可欠であり、うまくタイアップしていくことが必要である。
[安否確認]
安否確認は配送業務と一体化したものであり、安否確認も含めて配送業務を専門配送業者に委託する方法がある。
また、委託元である市町村、社会福祉協議会等と連携し、緊急事態への対応をマニュアルで定めておく。
[栄養管理]
社会福祉協議会等において栄養士を設置し、食事内容をチェックする、メニューに分析表示する、利用者の酎食状況をパソコンで管理する等、栄養バランスに配慮したサービスを行う。
今後の課題
1、早急な対応
外食産業をはじめ様々な業態から食事宅配への参入が相次いでおり、さらにそのターゲットを高齢者にあわせつつあります。これらの参入業者は、小規模な飲食店に比べて、資金力、知名度、ノウハウ等を有しているため、こうしたメリットを生かして、短期間に小規模飲食店の参入の余地がないほど基盤を築きあげてしまわないとも限りません。そのため、早急に対応する必要があると言えます。
2、組織化(体制づくり)
小規模な一店一店の飲食店が個々に配食サービス事業に取り組むことは難しいため、地域の飲食店が結集して組織化し、協力しあって取り組む必要があります。
このためには、その中心となり、オーガナイザーの役割を担うものが必要で、それは、社会福祉協議会の場合もあるでしょうし、生活衛生同業組合、生活衛生営業指導センターの場合もあります。
全国飲食業生活衛生同業組合連合会等が昨年三月に「福祉普及セミナー」を開催するなど生衛業界の取り組み姿勢からみても、生活衛生同業組合における役員、特別相談員等がその担い手となることが期待されますが、いずれにせよ、小規模な個々の力を結集して取り組むという体制づくりが必要になってきます。
3、行政サイドヘの働きかけ
飲食業者が配食サービス事業に参入する体制づくりを完成しても、待っていて話がくるわけではありません。
前述の企業事例からもわかるように、市町村が配食サービス事業を民間委託する場合は、一社から数社の大手給食業者や介護サービス業者へ委託することが多くなります。高浜市の事例においても、市長からのトップダウンで現行のサービス形態となったものの、当初は地元大手給食業者一社のみの実施にとどまっていました。
高浜市のケースは希であり、取り組み体制が整うと同時に、オーガナイザー役が中心となって行政サイドに働きかけていくことが必要です。
こうした課題はありますが、これらを克服して飲食業者が高齢者配食サービス事業に参入する意義は大きいと考えられます。
高齢化はさらに進行していくため、新たな市場を開拓するという意味で参入していく意義に加え、それ以上に、改正された生活衛生法の精神に則り、飲食業界が高齢化社会における福祉事業に真摯に取り組んでいるという姿勢を示すことが更に国民生活との密着度を高め、ひいては飲食業界に対する社会からの評価を高めることにつながっていくと考えられるからです。(田上和彦・「生活衛生だより」2001年121号より)
![]()