二〇二五年
酒類企業社長年頭挨拶

お客様のワクワクを生む
独自価値・新価値を追求
アサヒビール株式会社
代表取締役社長 松山 一雄
昨年は、1月1日の能登半島地震や全国各地での豪雨による自然災害に見舞われ、改めて想定外を減らす備えをしておくことが重要であると再認識しました。
市場を取り巻く環境変化はさらに加速し、ますます厳しくなる一方ですが、新型コロナウイルス禍前の水準を超えた訪日外国人の「インバウンド需要」や「人生100年時代」を迎え、ライフスタイルの変化が進む中にも、新市場や新需要の可能性を感じています。酒類業界においても、2023年の酒税法改正に伴うビール減税により「ビール回帰」が一段と進んでいることに加え、RTDやノンアルコールカテゴリーなどが伸長、「お酒を飲まない・あまり飲まない人」への提案なども含めて、まだまだ成長余力が大きいと考えています。
当社は、「もっともっと、面白くなる。アサヒビール」を事業方針に掲げ、お客さまのワクワクを生む独自価値や新価値を追求しています。2020年より取り組んできた「Value経営」を基本に、さらなる既存事業の価値向上と新市場・新価値の創造に取り組んでいきます。
既存事業の価値向上と新市場・新価値の創造
「スーパードライ」は、気持ち高まる瞬間を創出するべく、スポーツや音楽などを通じて、ブランドの価値向上に継続的に取り組み、ブランドの魅力を体感できるコンセプトショップとして東京・銀座に「SUPER DRY Immersive experience」を期間限定で開設しました。 また、日本発・世界初のイノベーション商品である「スーパードライ生ジョッキ缶」は需要の高まる「ハレの日」や日常の開放感を中心に描いたコミュニケーションと物性訴求を強化、発売2年目を迎えたアルコール分3.5%の「スーパードライ ドライクリスタル」は中身とパッケージをリニューアルしました。
RTDでは、東北エリア限定で先行販売していた「GINON」の全国発売に加え、世界初の本物のレモンスライスが入った「未来のレモンサワー」を数量・エリア限定で発売しました。「未来のレモンサワー」は、フルオープンかつそのまま食べることもできるレモンスライスが入った“これまでにはない”新商品として大きな反響がありました。本年は発売エリアのさらなる拡大を計画し、より多くのお客さまに届けていけるよう努めていきます。
アルコールテイスト飲料では、昨年全国発売した「アサヒゼロ」が年間販売目標を二度上方修正するなど好調に推移しました。引き続き、アルコールの代替品としての「飲めない時に仕方なく選ぶ」存在から、積極的に「飲みたいから選ぶ」商品として、飲用シーンの拡大と新たなお客さまとの接点の創出を図ります。
昨年創業90周年を迎えたニッカウヰスキーは、新コミュニケーション・コンセプト“生きるを愉しむウイスキー”を掲げるとともに、4年ぶりの国内向け新ブランド「ニッカ フロンティア」を発売し話題を喚起しました。需要が高まる国産ウイスキーを将来にわたって安定的に供給するために、継続的な設備投資も含めて取り組んでいきます。
ビール類の酒税が一本化される2026年に向けて、「スーパードライ」や「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」など主力ブランドの価値向上に加え、お客さまが思わず「あっ!」と驚くような魅力的な新価値商品の開発に挑戦し、驚きとワクワクにあふれた提案に取り組んでいきます。今までよりもさらに「もっともっと、面白くなる。アサヒビール」にぜひご期待ください。
サステナビリティ
経営の実践
昨年2月には、厚生労働省が飲酒に伴うリスクに関する知識の普及の推進を図るため、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表するなど、酒類を扱う企業としてアルコール関連問題の解決が求められています。
当社では2020年12月から「スマートドリンキング(通称:スマドリ)」を提唱し、飲む人も、飲まない人も、お互いが尊重し合える社会の実現を目指しています。昨年9月に「責任ある飲酒の推進」に特化したResponsible Drinking 部を新設しました。これまで以上に「責任ある飲酒」の取り組みを強化するとともに、産学医の分野で不適切飲酒の撲滅に向けた活動により注力していきます。
アサヒグループは「自然の恵み」を享受して事業を営んでおり、豊かな自然を後世につないでいくために、サステナビリティの取り組みを強化しています。
本年4月から開催される大阪・関西万博ではSDGs達成への貢献を目指しており、アサヒグループジャパンが主体となりゴールドパートナーとして参画し、当社も機運醸成に貢献していきます。本業で取り組む「サステナビリティ経営」を実践することで「100年後も愛され続ける『未来のビール会社』」を目指します。

お酒の持つポジティブな
価値の創造
キリンビール株式会社
代表取締役社長 堀口 英樹
昨年は世界各地での地政学的なリスクが社会全般に不安定で不確実な影を落としました。これらを背景に資源や原材料価格の高騰が継続し、輸入物価や物流関連費の上昇であらゆる消費財・サービスの価格が上昇しています。一方、賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、将来への不安が支出のa抑制となり個人消費は盛り上がりに欠ける状況です。
酒類業界は、RTD市場・ウイスキー市場は伸長傾向を示す中、ビール類市場はお客様の嗜好の多様化、税率アップによるエコノミーカテゴリーの店頭価格上昇の影響で、前年を若干下回る状況でありました。また、国内では2月に飲酒ガイドラインが発出され、我々の社会的責任の重要性はますます増しています。その中、当社はお客様の嗜好の多様化に対応すべく、強固なブランドポートフォリオの確立と新たな価値を提供する事業・ブランドの成長を軸とした活動を一貫して展開してきました。
まず、強固なブラントポートフォリオの確立では、「キリン一番搾り」がおいしさ・高品質というコア価値でお客様の共感をいただき、いま選びたい・飲みたいブランドとしてその基盤を確立し、また、「一番搾り糖質ゼロ」は、おいしさと糖質の無関係としたコミュニケーションを通じて糖質ゼロに対するお客様のポジティブなイメージを創り出し、「一番搾りとれたてホップ」などバラエティ豊かな提案で一番搾りブランドトータルでも成長を実現しました。
そして、新商品「晴れ風」は、うまさと飲みやすさの実現で嗜好を捉えたことや、ビールとの関わり深い日本の風物詩を応援する“晴れ風ACTION”がお客様の共感に繋がりご好評をいただきました。「本麒麟」は市場同様に苦戦をしましたが、ビール類酒税一本化後もお客様の低価格志向に対応して一定規模の需要が予測され、ブランド強化に注力して参ります。
伸長カテゴリーであるRTDは、各社との競争が激しくなる一方、「氷結®」ブランドは、甘くない食中酒のニーズを背景に「氷結®無糖」が伸長したことでブランド全体を力強く牽引しました。また、規格外で廃棄予定の果実使用で果実農家の支援に貢献できる「氷結®mottainai」は弊社のCSV活動を体現する新たなチャレンジとなりました。
次に、新たな価値を提供する事業・ブランドの成長においては、将来に向けたサステイナブルな事業の確立で多様化したお客様の価値観に対応した魅力ある商品提案を推進しました。当社がビール市場の魅力化を目指すクラフトビールは、主力の「スプリングバレー」ブランドのリニューアル、また直営店舗のスプリングバレーブルワリー東京はクラフトビールを気軽に体験出来る店舗へとリニューアルしました。10月にはクラフトビール事業部を新設し、“日本のビールの新たな100年を!”というビジョンの下、新しいビール文化の創造を目指しています。
伸長が続くウイスキー市場では「キリンウィスキー陸」が取扱い料飲店数の拡大が量販店店頭での購入ニーズに繋がり、大変好調に推移しています。
本年も経済・社会、ライフスタイルの変化の中、企業としてその変化に迅速に適応し、事業を発展させることが極めて重要な課題となってきています。
当社は引き続きお客様の変化を見定め、お客様価値の創造にチャレンジし新たなる価値の提案に積極的に取り組み、人と社会がつながる喜びを通してお酒の持つポジティブな価値を創造していくことに繋げて参ります。同時に、企業としての社会的責任の重要性も高まり、経済的価値と社会的価値の両立で持続的な事業の発展を目指し、ビール類をはじめとした酒類市場全体をさらに魅力あるものにすることで、酒類総需要の拡大そして将来に向けた酒類業界の発展に邁進していく所存でございます。

「やってみなはれ」精神で、力強く歩みを進める
サントリーホールディングス株式会社
代表取締役社長 新浪 剛史
2024年は世界的なコスト高やインフレが継続する中、各国で景気が停滞し、多くのエリア・事業において市況や競争環境が悪化する、厳しい1年となりました。
2025年も外部環境の厳しさは続き、お客様の商品を選ぶ目もいっそう厳しくなっていきます。そのような中でも、サントリーグループは「世界で最も信頼され、愛される、オンリーワンの食品酒類総合企業」に向けた歩みを国内外においてさらに加速させていきます。
サントリー食品インターナショナル㈱の国内事業は、本年もコアブランドを中心に積極的なマーケティング活動を展開していきます。
「サントリー天然水」では、“未来の水をいま、森から育む”というメッセージと共に「ウォーター・ポジティブ」の大切さの啓発活動を強化し、国内トップの飲料ブランドとして、さらなる価値向上を図っていきます。また、「BOSS」・「サントリー緑茶 伊右衛門」は、R&Dやマーケティング、コミュニケーション活動を通じて、新たな価値の創造・提供にチャレンジし、いっそう愛されるブランドを目指します。健康茶カテゴリーでは、「特茶」を中心に豊富なラインアップを展開していきます。「自販機ビジネス」は、24年に実施した事業再編により収益性が改善しており、本年も経営環境を見極めながら変革を継続していきます。
サントリー㈱は、お客様の価値観が多様化する中、幅広い商品ポートフォリオをもつ強みを活かし、酒類市場の活性化・需要創造に向けた活動を展開していきます。本年1月より、成長市場であるノンアルコールカテゴリーを強化するため、各マーケティング本部内に分散していたノンアルコール担当組織を統合した「ノンアル部」 を新設。お客様からのノンアルコール飲料への多様なニーズにお応えすることで、同カテゴリーのさらなる飛躍を目指します。
ビール事業は、酒税改正により伸長するビールカテゴリーに加え、酒税改正後もビール類(缶)市場の約5割を占めると推定されるエコノミーカテゴリーとの両輪で活動を推進します。「サントリー生ビール」「ザ・プレミアム・モルツ」「金麦」「パーフェクトサントリービール」といった主要ブランドをさらに育成・強化し、強固なブランドポートフォリオを構築していきます。
スピリッツ事業では、スピリッツ分野でのリーディングカンパニーとしてさらなる成長を目指します。ウイスキーカテゴリーでは、「ジャパニーズウイスキー」の表示に関する自主基準が昨年4月より本格施行され、お客様にとってウイスキーを楽しむきっかけが広がる中、昨年の「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)」で「山崎12年」が全部門での最高賞「シュプリーム チャンピオン スピリット」を、「角瓶」が金賞を受賞。今後もいっそうの美味品質を追求するとともに、業界全体を盛り上げていきます。また、ジンやRTDなども含めたスピリッツ市場の活性化を目指し、スピリッツの生産拠点である大阪工場への設備投資を実施。ジンカテゴリーをさらに強化し、RTDでは「-196」「こだわり酒場」「ほろよい」など主力ブランド強化に加え、新たなカテゴリー開発にも挑みます。
ワイン事業では、「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード2024」において、「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が最高賞である「Best in Show」を受賞。引き続き、高品質なものづくりを進めながら、主力ブランドの活動強化、新商品発売による市場活性化に挑戦します。
サントリーウエルネス㈱は、主要ブランドの強化に加え、健康行動促進アプリ「comado」を通じたお客様1人1人に合わせた健康サービスの提供により、個客体験価値の最大化を目指します。
グローバルでは、酒類・食品の両カテゴリーで多数の強力なブランド・開発力を有するグループとしてのユニークネスを生かした事業展開を加速させていきます。特に世界的に伸長著しいRTDの分野では「世界でNo.1」という目標の実現に向け、米国で「-196」を全州展開すると共に、FMB(モルトを発酵してつくられたアルコールをベースとしたRTD)カテゴリーでの新ブランド「MARU-HI」を発売します。またオセアニアに新設した最新鋭工場でも本年半ばからRTD製造を開始するなど、エリアや会社を超えたグループでの取り組みを進めていきます。
サステナビリティの分野では、水源涵養活動「天然水の森」や次世代環境教育 「水育」など20年以上にわたる水の取り組みや、容器・包装のバイオ化・リサイクル化の活動に加え、今年は当社が環境目標を掲げる2030年を見据え、さらなるGHG排出量削減に向けた活動を加速させていきます。年内には、山梨県・白州に国内最大級規模の「グリーン水素」生成設備である「やまなしモデルP2Gシステム」をサントリー天然水 南アルプス白州工場およびサントリー白州蒸溜所に導入し、同地で使う熱エネルギー源にグリーン水素を活用していく予定です。
また、創業精神「利益三分主義」のもと、社会貢献活動も引き続き幅広く行っていきます。直近では子どもたちが、生まれ育つ環境に関わらず意欲・希望・夢を持ってチャレンジできる社会の実現を目指す次世代エンパワメント活動としてNPOとの連携も深めています。
今年は、いよいよ大阪・関西万博が開催されます。創業の地である大阪・関西を盛り上げたいという思い、今回の万博の「いのち輝く未来社会をデザイン」というテーマへの共感から、未来社会ショーケース事業にプラチナパートナーとして協賛します。会場では「アオと夜の虹のパレード」という水上ショーをダイキン工業株式会社様と共同で出展。世界中から来場されるお客様に、ショーを通じて「水と生きる」に込められた私たちの思いを伝えるとともに、会場内外でサントリーグループの商品・サービスの魅力を伝えていきたいと思います。
わたしたちは、「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」というパーパスのもと、これからも1人1人が新たな目標を掲げ、「やってみなはれ」の精神で、力強く歩みを進めることで、未来をリードしていきます。

ひとりひとりの心を動かす物語で、お酒と人との未来を創る
サッポロビール株式会社
代表取締役社長 野瀬 裕之
昨今は生成AIをはじめとしたデジタル技術の進展が著しく、また持続可能な社会を目指す動きが加速する中で、めまぐるしい環境変化に柔軟な対応が求められています。このような環境下で、我々は「誰かの、いちばん星であれ」を合言葉に「ひとりひとりの心を動かす物語で、お酒と人との未来を創る」活動に継続的に挑戦していく所存です。引き続き宜しくお願いいたします。
昨年も、「ビール強化」をはじめとした各施策に力強く取り組んでまいりました。特に4月にはヱビスビールの新体験拠点『YEBISU BREWERY TOKYO』を開業し、のべ20万人以上のお客様にご来場いただきました。お越しいただきましたお客様に心から感謝申し上げますとともに、本年も様々な施策を展開してまいりますので、ぜひヱビスビール発祥の地である恵比寿に足をお運びいただきたく存じます。
また「サッポロ生ビール黒ラベル」はおかげ様で大変好調に推移しており、ビール類合計(全容器計)の売上でも着実な成果を上げることができたと感じています。
RTD カテゴリー(注1)では主軸ブランドである「サッポロ 濃いめのレモンサワー」が大きく伸長し、4年連続で過去最高の売上を達成することができました。また、ノンアルコール分野でも「サッポロ 濃い搾りレモンサワー」を発売し、好評をいただきました。
海外酒類事業においては「SAPPORO PREMIUM BEER」が力強い成長を遂げ、過去最大の販売数量を記録し、アメリカでの現地生産体制が整いました。本年もこれまでの取り組みを継続し、さらなる飛躍を目指していく所存です。
当社は、事業を通じてお客様の課題・社会の課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献できる酒類メーカーであり続けたいと考えます。ビールの原料では、気候変動による降雨量増加への耐性と、ビールのおいしさを長持ちさせる性質を併せ持つビール醸造用の大麦「Dual-S 大麦」を新たに開発いたしました。創業当初から140年以上にわたって取り組んできた育種技術により、次世代のビールづくりに貢献していきたいと考えています。
また脱炭素では、購入電力において100%実質再生可能エネルギー化する計画を2030年から4年前倒して2026年までに実現することを決定しており、より一層の温室効果ガス排出量の削減を進めていきます。
本年もサッポロビールならではの取り組みを通じ「いちばん星マーケティング」を追求し続けてまいります。 引き続きご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
(注1)Ready to Drink の略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料。