味つづり〈116〉 倉橋 柏山

  蓮根 れんこん は歯ざわりが命

 シンプルながら椀種にすると実に美味しい蓮餅または蓮根餅と呼ばれる料理がある。
 蓮根は皮をむいて、酢水にさらして水気を切る。目の細かなおろし金ですりおろし、布巾に包んで水気をしぼる。固さの目安は耳たぶくらいである。俵型に型を整えて、清油を鍋にたっぷり入れて火にかけ、指が入るくらいの温度で中に静かに入れる。
 油の温度が高すぎると、油の中で散ってしまったりするので、低い温度でじっくり揚げる。なかなかのくせ者で、上手に揚げるのは難しいもので、私は何度も失敗しているが、ゆっくり温度を上げながら上手に揚がると実に旨い。
 熱湯に通して湯抜きをしてお椀に入れ、脇役の椎茸や青味を添え、熱々の清し汁を注ぎ、薬味のへぎ柚子を浮かした蓮餅の椀盛はまことに美味しいものである。
 ハスはスイレン科の多年水草で、ユーラシア大陸全域、オーストラリアが原産。千葉県下で2000余年前の泥炭層から発芽力のあるハスの種子が出土し、発芽生育させたのが「大賀ハス」である。
 わが国での食用としてのハスの栽培の始まりは定かでないそうであるが、元永元年(1118)宇治平等院御膳の献立に蓮根の記載があるそうだ。
 蓮根は、古くはハチスと呼ばれ、蓮田の泥の中に深く伸びている地下茎を、足元のぬかるみに注意して掘り起こす作業は重労働のようである。
 蓮根はデンプン質に富み、独特の歯ざわりがあり、穴から先の見通しがつくおめでたい、縁起の良い食材である。
 清浄で美しい花は神聖で極楽浄土の花とされている。
 失敗しないで美味しい、「蓮根しんじょ」をご紹介しよう。
 蓮根は皮をむいてすりおろす。豆腐は水気を切ってすりつぶす。蓮根と豆腐に対して三割ほどの鶏のひき肉、彩りに人参と絹さやの千切りを適宜用意して、ボールに入れ、カタクリ粉と卵黄、塩、淡口醤油、みりん、酒各少量を加えてよく混ぜ合わせて流し缶にきっちり敷き詰めて蒸し器に入れ、中火15~16分蒸して切り分ける。ラップに包んで蒸しても良い。また、丸か俵型にして油で揚げる方法もある。
 銀あんをかけて、おろしワサビかおろし生姜を添える。
 油で揚げる場合は熱湯に通して湯抜きをして八方地で煮含めて炊き合わせに用いる。
 中国では蓮子(ハスの実)を心臓薬や下痢止めに用いたという。また、蓮根汁は胃潰瘍、喀血、鼻血、血便、血尿、歯茎の出血に効果があるそうだ。飲みにくい場合は、蜂蜜を少し加えると良い。
 油で炒めてきんぴらにする場合は、皮はむかずに用いる。
 蓮根は、花は観賞用、実は薬用と無駄なく利用できる。
 合挽肉を用いたはさみ揚げはそうざい向きの料理で旨い。挽肉はボールの中でねばりが出るほど良く練り、玉葱、人参、青じそみじん切り、カタクリ粉、味噌、玉子、砂糖少々を加えてよく混ぜ、3ミリほどの厚さに切った蓮根で肉をはさみ、小麦粉をまぶして油で揚げる。また、オーブンで焼き、焼き上げる少し前に溶けるチーズをまぶしても美味。
 花形や矢羽根に切り、酢水でざっと茹でて甘酢に浸し、種子を取って薄く輪切りした赤唐辛子を加えて半日ほど味を含ませて、おせちやおめでたに用いる。歯ざわりと白さが命、火を通しすぎないことである。
 酢蓮(甘酢漬け)は散らし寿司、五目寿司に欠かせない彩りと歯ざわりである。
 九州に辛子れんこんという名物があるが、蓮根の穴にすり身をピンク色に着色して蓮根の穴に詰めて蒸して1センチほどに切り、銀あんをかけて辛子を添える。生身は昆布だし汁でのばし、塩と砂糖を少々加える。