味つづり〈115〉 倉橋 柏山
なつかしい焼とうきび私は栃木県山間部の貧農の生まれ育ちで、夏の楽しみはとうきびであった。水遊び後など、小腹の空いたとき、もぎたてを塩茹でにしてむしゃぶり喰った味は今でも忘れられない。
当時旨いと思って喰ったとうきびも、今のものと比べると、味、食感、固さ、甘さがまるで異なる。一粒ずつ指でほぐすことができるほど固く、甘みも少ない。ハーモニカを吹くように加えて、歯でぼろぼろほぐして嚙み砕くのである。囲炉裏の五徳の上で転がしながら醤油で焼いた味もなつかしい。
イネ科の「玉蜀黍(とうもろこし)」の原産地は、南米アンデス山麓地帯とされる。現在のような栽培種は紀元前二千年頃、南アメリカでできた。十五世紀にコロンブスがヨーロッパへ持ち帰り、日本へは十六世紀に伝わったが、本格的な栽培は明治初期に北海道で始められたそうである。
たんぱく質、脂質、ミネラル、ビタミンを含み、栄養価も高い。
わが国における文献上の初見は、林羅山の「多識編」(1630年)で「多未岐比、異玉髙梁」と記されている「とうもろこし」であるそうだ。
とうもろこし、とうきび、なんばんきび、もろこしきびなどと呼ばれる。「とう」は外国の意。「なんばん」は南方。「もろこし」は髙梁(こうりゃん)のことである。
長女の孫は、小さいときから「もろこしご飯」が好きで、夏になるとひんぱんにもろこしご飯が食卓に上る。
作り方は簡単で、皮をむいてひげ根を取り、包丁でそぎ落とす。水加減した米に、昆布、酒を加えて塩で味加減を調え、そぎ落としたとうもろこしをほぐして加えて炊き、火が止まったらバターをたっぷり加える。ほぐした軸を香りづけに加える方法もある。
生または、塩茹でにしたとうもろこしをそぎ落とし、卵黄に冷水を加えて溶き混ぜ、小麦粉をざっくり混ぜて衣を作り、もろこしを加えて、お玉ですくい取り、170℃位の油の温度でかき揚げにする。途中、菜箸か金箸でかき揚げの中まで通して揚げるとカラッと揚がる。
彩りに青とうの素揚げをから揚げに添え、天つゆか抹茶塩でいただく。天つゆは、だし汁4に対し、みりん1、濃口醤油1を煮立てて用いる。抹茶塩は、塩に三割ほどの抹茶を混ぜ合わせる。
とうもろこしには、ベビーコーンと呼ばれる小さなものもあり、クリームタイプの水煮缶、ホールタイプの水煮缶が市販されている。
すりつぶしたすり流し汁という旨い汁物は、塩茹でしたもろこしをざっくり刻んで、すり鉢ですり、さらに裏ごしにかけ、鶏ガラのスープでのばし、塩で味を調え、水溶きのカタクリ粉でとろみをつける。具は玉子豆腐にジュンサイ。薬味は粉山椒。白味噌仕立てという方法もある。吸口は水辛子が最適である。水辛子は溶き辛子を味噌汁で薄めたものである。
鶏のもも肉に酒と塩をまぶして良くもみ込んで一時間ほど置き、平均の厚みになるように重石をして20分ほど蒸し、冷めたら表面に粉を振り、卵黄を加えたマヨネーズを塗り付け、塩茹でしたとうもろこしをまんべんなく埋め込むように乗せ、オーブンか電子レンジで焼いて切り分ける。器に盛り、くし形レモンを添える。彩りに輪切りにしたミニトマトを散らしてもいいだろう。
塩茹でのとうもろこしを幅2・5センチ、長さ5センチほどに切り、トマトケチャップに卵黄を溶かしバターを混ぜ、はけで三度ほど塗り付けてレンジで焼く。ビールのつまみにいかがだろう。
豚の薄切り肉に塩コショウを振り、とうもろこしに卵黄をからめて塩味を付け、豚肉で巻き、ラップで包んで15分ほど蒸して切り分け、切り口を上に盛り付け、前菜か突き出しに用いる。