味つづり〈107〉 倉橋 柏山
     ビールに枝豆

 ビールに枝豆、あったほうがいい」。テレビコマーシャルではないが、キンキンに冷えたビールに枝豆、誠に相性の良いつまみである。が、枝豆の扱いはなかなか難しいものである。茹でて塩を振ればいいというものではない。
 最近は、流通の関係か、買う方の好みか、根と葉付きの新鮮な枝豆を目にすることが少なくなった。
 色褪せたさやだけの袋入りでは新鮮味が乏しい。
 枝豆に限らず、材料は吟味して良いものを求めることである。
 みずみずしく、彩りの良い新鮮な枝豆を求め、さやをもぎ取り、さやの両端を切る。
 粗塩をたっぷり振って、表面のうぶ毛を取り除くような気持ちでもむ。
 沸騰したたっぷりのお湯に塩を加えて色良く茹でる。茹で加減は、分量や火加減で、時間は決められていない。三〜四分を目安に、二、三粒食べてみる。私の好みで申し上げるならやや固目のほうが好きである。枝豆の柔らかいものは旨くないと思うが、あくまでも好みである。ざるに広げ、全体に塩を振って急激に冷ますと色がきれいに仕上がる。
 時々、茶色に近い色褪せた枝豆を出されることがあるが、食指が動かない。たかがビールのつまみと言うなかれ、最低でもこれくらいの注意を払って枝豆を扱ってほしい。
 露地ものの枝豆の旬は七月から八月。
 豆名月と呼んで、仲秋の名月に枝豆を供える。これが本来の枝豆の旬である。冷凍は一年中、ハウス物は春先から出回り、枝豆も旬不在になってしまったが、ビールが最も旨い季節が、枝豆も実がふっくらと太って旨い季節である。
 昆布と酒を加えて塩味で炊き上げたご飯に、茹でた枝豆を混ぜた枝豆飯。さくら海老と枝豆のかき揚げは風情があって旨いものである。
 枝豆もブランド化して各地から旨い枝豆が出回る。
 丹波の黒豆の枝豆などもある。最近は納豆や豆腐にも枝豆が用いられる。
 枝豆の素地を生かした流し物はいかがだろう。
 茹でた枝豆の薄皮をむき、裏ごし、あるいはフードプロセッサーなどでペースト状にする。
 だし汁に酒、みりん、塩を各適宜加えて火にかけ、60℃前後を目安に、もどしたゼラチンを加えて溶き混ぜ、裏ごしした枝豆を良く混ぜて冷やし固める。滝川豆腐のように天突きにして盛り付けると、流水の風情が出る。
 小角に切り、ガラス鉢に氷水を張った中に入れるなど、工夫次第で風情も楽しむことができる。麺つゆにおろし山葵や、おろし生姜で召し上がる。ポン酢しょうゆは夏らしい楽しみ方であろう。
 辛子酢味噌と、食べ方も好み次第である。
 夏は彩りも見た目も涼やかな風情が喜ばれる。
 冷しすり流し汁も夏らしくて喜ばれる。
 茹でた枝豆は薄皮をむいて裏ごしする。
 だし汁に酒少量を加えて火にかけ、塩と白醤油で調味する。ここにだし汁で溶き伸ばした片栗粉か葛粉でとろみをつけて冷やし、裏ごしした枝豆を混ぜ込み、冷やす。具は玉子豆腐の小角切り、マイクロトマトを彩りに用いる。なければプチトマトの輪切りか、二つ切りを加えると彩りと見た目も美しい。
 手軽で酒のつまみに良いのは、辛子醤油和えである。当然、枝豆は良く茹でて薄皮をむく。辛子醤油に卵黄を少量加えると、味が倍加する。
 包丁でたたいて、柚子こしょう、塩、淡口醤油少々で調味し、酢〆にした鯵の細切りを和えると、東北名で呼ぶならずんだ和えとなる。
 焼き上げたすずきの身にぬり付け、温める程度に火を通す。彩りの良い夏の焼物として喜ばれる。