味つづり〈72〉 倉橋 柏山
トロの刺身が最高
三浦市三崎町の海南神社境内に、千葉県千倉の高家神社から分社された「相州海南高家神社」がある。三浦三崎のまちおこしの一環と位置付け「食の神様祭、奉納料理、庖丁儀式」を三柱として食の神フェスティバルが毎年4月に行われ、今年で23回になる。最初の3年はタイを用いて四篠古流の庖丁式を奉仕してたが、三崎はまぐろの町ということで、メジマグロを用いて20年になる。メジは、スズキ目サバ科のクロマグロの若魚である。
「万葉集」の山部赤人のまぐろ釣る長歌があるほど古くから食されたが、江戸時代中期までは塩物で下魚扱いであったようだ。今日では、山深い宿に行ってもまぐろの刺身が出る。小学4年になる孫は、回転ずしに連れて行くと、中トロ、中トロ、中トロと最初から最後までまぐろしか食べない。日本人、いや外国人にもまぐろの握りずしは好まれるようだ。
大間の本まぐろの生の上物は高価で私の口になど入らないが、まぐろと一口に言っても種類が多く、値段もピンキリである。が、今日、日本人の食生活で、最も身近にある食材がまぐろと言っても過言ではない。30年位前までは、冷凍まぐろは刺身に向かないとされていたが、冷凍技術の進歩によって今日では冷凍物が主流になった。
三崎には「まぐろくらぶ」と称し、まぐろ専門の飲食店があの手、この手のメニューで切磋琢磨している。頭から皮、内臓と余すところなく料理する。三崎には庖丁式の指導で毎月行っており、珍しい料理も食べており、メニューの多さにもびっくり。
「めじか売りあたまでもとは過言なり」江戸川柳に詠われ、三崎もしかりで、以前は頭などゴロゴロただでころがっていたが、かぶと焼き、かぶと煮は予約で高い値段で売られる。
最近はB級グルメでまぐろラーメンが上位入賞と、ラーメンにまでまぐろが用いられている。
葱鮪鍋(ねぎまなべ)という、まぐろの脂身と長葱のシンプルながら旨い食べ方がある。江戸は文政の頃に流行りだしたようで、まぐろは下魚扱いで安く、庶民にも愛されたようである。今では上物のトロで作る葱鮪鍋は高級料理であるが、作り方を簡単に紹介しよう。トロと呼ばれる脂身は小角に切る。長葱も3センチほどに切る。鍋にだし汁を注ぎ、濃口醤油、酒、みりんでやや濃い味に調味する。味は好みがある。砂糖なども少し加えてもいいだろう。あとは、煮ながら七味、粉山椒など、好みの薬味を用いる。水菜や三つ葉と、好みで青物を加えてもいいだろう。
デパートやスーパーで入手出来るかどうか? かまという部位がある。やや濃い目に塩を振り、じっくりレンジで焼き、レモンかライムをしぼりかけて食べると実に旨い。
すき身に、刻み葱、みそ、小麦粉、卵黄、おろし生姜、モッツァレラチーズを混ぜて団子状にする。鍋にだし汁をたっぷり注ぎ、淡口醤油、酒、みりん、塩少々で調味する。白菜、長葱、水菜、きのこ類、焼豆腐、しらたきなどの食材で食べるまぐろのつみれ鍋は寒い夜には旨い食べ方だ。
若い方は油を使った料理を好む。すき身に卵黄、ピザ用チーズ、おろしニンニク、生姜、刻み葱を混ぜて形をととのえ、小麦粉、溶き卵の順でパン粉をつけて油で揚げる。マヨネーズに柚子こしょうと醤油適宜で加減したソースで食べてもいいだろう。食べ残した刺身の利用法。刻み長芋をビニール袋に入れてすりこ木で叩く。刻み葱、食べるラー油、醤油で残り物の刺身を和えると少量の刺身で数人分の酒の肴が素早く出来る。上記の他に水気をきってすりつぶした豆腐と卵黄、牛乳か生クリーム少量を加え良く混ぜる。ハンバーグ状に形をととのえてバターで焼く。マヨネーズにケチャップ、醤油、山葵を各適宜合わせた和風の食べ方も少量のまぐろ(1人分の刺身)で4人分のハンバーグを楽しむことが出来る。いろいろ食べ方はあるが、トロの刺身に勝る味はない。