味つづり〈64〉 倉橋 柏山
たらの仲間ではない深海魚銀鱈という魚の切り身がスーパーなどの店頭に周年並んでいる。
たらという名が付いているが、たらの仲間ではなく、カサゴ目、ギンダラ科の海産魚である。
北海道から北太平洋の水深300メートルから600メートルという深海に生息する。体長が一メートルにもなる大型魚の部類に入る魚で、頭が大きいので、内臓と共に頭が切り取られ冷凍魚として市場に出される。
本の受け売りによると、鮮度の良い銀鱈の刺身は旨い。そうだ。私は50年以上庖丁を握っているが、残念ながら銀鱈の刺身は食べたことがない。
ニシン、スケトウダラ、イカ、エビなどを捕食するそうで、餌を考えてもまずかろうはずがない。
多く冷凍で出回るため刺身で食べることの鮮魚が少ないのはまことに残念である。
この魚身はやわらかいので、八割ほど解凍した頃合で3枚におろし、腹骨をすきとって水気をふきとり、全体に淡塩をあてて、ペーパータオルでしっかり包んで一晩冷蔵庫でねかせると、身がしまり、水っぽさも抜ける。
本来の旬は秋だそうだが、冷凍物として出回るため、時知らず、つまり食べる時が旬の味。切り身で売られるので惣菜魚としても利便である。
素材の持ち味を生かした上品な焼物に幽庵焼きがある。江戸時代、近江の国(現在の滋賀県)の茶人、北村祐庵が創案した料理といわれ、今でも茶懐石では、甘鯛やまながつおを用いてこの焼物が用いられる。手法は簡単で、醤油、みりん、酒を合わせた地に柚子の輪切りを加え、この中に魚の切り身を3〜40分ほど浸して焼きあげる。
本来は、祐庵焼きと書くのだろうが、柚子を用いることから柚庵焼きとも書く。
銀鱈もこの幽庵地で焼いても旨い。
味噌漬けにしても旨い。西京味噌にみりん、酒を適宜加え、良く混ぜ、この味噌に魚の切り身を1日か2日漬けて焼く。
信州味噌や仙台味噌など塩分の強い味噌を用いる場合は砂糖を加え、漬け時間も短くする。
今風の味を好むなら、味噌に砂糖・みりん・酒・卵黄を加えて良く混ぜ、火にかけ、弱火で7〜8分練り、当り胡麻、マヨネーズ、ヨーグルトを各適宜加えた味噌に銀鱈を2時間ほど漬け、味噌がうっすら表面に残る位に取り除いて焼くと旨い。フライパンに油を少しひき、ふたをして蒸し焼き風にすると簡単で旨く焼きあがる。
紅葉焼きという秋らしい料理もある。人参は茹でてフードプロセッサーにかける。トマトケチャップ、卵黄、粉チーズを各適宜混ぜ、味をみながら塩を補う。八分通り焼きあがった魚にたっぷりのせて焼きあげる。スダチと菊花かぶを添える。
この魚脂がかなりあるが、軽い味の白身で、油で揚げても煮ても旨い。煮る揚げる場合でも、水気をふき、ごく淡塩をしてペーパータオルで包み、半日ほど冷蔵庫で身をひきしめながら水分を抜く。(切り身の場合)
ひと口大に切った銀鱈をポテトサラダで包み、みじん切りにしたピーナッツを混ぜたパン粉を付けて油で揚げると若者に喜ばれる。
黄身煮という方法は彩りが美しい。白胡麻をすりつぶして、ひと口大に切った銀鱈にまぶし、卵の黄身をたっぷりからめて煮る。煮汁は、だし汁に、酒、みりんを各少々加え、塩と白醤油で調味する。煮立ったら卵の黄身をからめた銀鱈を静かに入れて煮る。取り合わせは、ブロッコリーとエリンギ。歯ざわりと彩りも楽しめる。
煮る、焼くなど料理の味には、それぞれ好みがある。自分の好みに合った味付けが美味しい料理ということになるが、彩りも大切な要素であることも忘れてはならない。