味つづり〈56〉 倉橋 柏山
寒 さ と 共 に 味 が 深 ま る 魚「鱈腹喰う」の言葉がある。鱈は悪食、大食で、口に入るものはなんでも食べてしまう。そのためか生命力が強い。1年で体が倍近く大きくなり、成長が早く3年で成魚になる。大きい物は10kgを超すのも少なくない。寿命も10数年と長寿な魚である。江戸時代津軽藩では12月と正月に塩鱈を献上魚とした。交通の不便な時代はもっぱら塩鱈、干鱈で流通した。今日、東京周辺でも刺身で食べられる鮮度の良い物が入手出できるようになった。
魚偏に雪と書くことでもわかるとおり、冬場が旬の魚である。主な分布域は日本海北部から北海道の水深百m以上の深海に棲息する大型の海産魚で、寒さと共に味が深まる。
青森県津軽地方の郷土料理に、雑端汁というのがある。焼き干しというイワシのだし汁を使い、頭、中骨、内臓などの「あら」の部分をぶつ切りにして、大根と葱を加え、味噌で調味する。じゃっぱとは、あらという意味だそうだ。身の部分や白子を加え、大根、人参、里芋、こんにゃくを加え、味噌をベースに、酒と醤油少々で味をつけ、刻みせりを振り入れ、七味唐辛子の薬味で食べると旨い。葱や豆腐を加えれば申し分のない味となる。2時間ほどおいてから調味すると味も倍増する。素朴だが、鱈の旨い食べ方であり、寒い日を家族団欒で味わうことができる。
お客を招いてのもてなしなら、ちり仕立てがおすすめである。土鍋に昆布を入れて、水を注ぎ、頭や身をぶつ切りにして鍋に入れ、煮立ったらポンズ醤油、薬味は紅葉おろし、刻み万能葱で食べる。白菜、春菊、長葱、しめじ、エノキ茸、椎茸、焼豆腐などのほか、白子(菊子)が入るとさらに美味である。紅葉おろしは、大根の切り口に菜箸で穴をあけ、種を取った赤唐辛子を4〜5本刺し込んでおろし金ですりおろし、軽く水気をしぼって用いる。白子(菊子、雲子)は別売りされるので、食べよく切ってさっとゆでて水気をきり、ポンズ醤油で、日本酒のあてに最高である。吸物、味噌汁の具に用いても旨い。種を取った梅干と一緒に裏ごしする。山葵を加え、昆布じめにした鱈の細切りと和えると絶品の小鉢物となる。鶏の笹身、いか、小海老、白身魚などのクセの無いものなら大方合う。梅干は赤い彩りの美しいもののほうが、盛り付けてきれいである。
鱈昆布という、簡単で旨い汁物がある。昆布でだしを引き、鍋に入れて酒と塩と淡口醤油で好みの味をつける。だしを引いたあとの昆布を細く切り、ぶつ切りにした鱈を加え、ひと煮立ちしたら出来上がり。おぼろ昆布を加えるという方法もある。
生食可能な新鮮なものが入手できたら、昆布じめの刺身をおすすめする。3枚におろして作取りし、皮を引いてそぎ作りにする。軽く塩を振って1時間ほどおきます。大さじ2〜3杯ほどの酢と酒を合わせ、ペーパータオルに含ませ、昆布の表面を3度ほどふき、その上に鱈のそぎ身を重ならないように並べ、昆布ではさみ、軽く重石をのせて冷蔵庫に入れ、3〜4時間昆布でしめて、昆布の旨味を鱈に浸透させる。生醤油に柑橘類(レモン、柚子、カボス、スダチ、ダイダイ)のしぼり汁を1割ほど加え、山葵か紅葉おろしの薬味で食べる。生姜醤油という食べ方もある。握りずしにしても旨い。
器に昆布を敷き、大ぶりに切った鱈、豆腐、椎茸、長葱をのせ、酒を振って蒸し、ポンズ醤油でたべるちり蒸しも旨い。鱈は軽く塩を振って調理すると味が倍増する。たら子は一口大に切って静かに熱湯に入れると皮がそり返り、花が咲いたようになる。静かにざるにあげて水気をきり、生姜の薄切りと一緒に煮含める。だし汁に酒、みりんを加え、好みに合わせて、砂糖、醤油で煮る。切り身は味噌や酒粕につけても旨い。塩焼き、照り焼き、田楽、煮付け、揚げ物と料理万能の素材である。