紙上セミナー
飲食店が取り組めるSDGs(エス・ディー・ジーズ)
5つの視点令和4年5月15日に開催された秋田県飲食業生活衛生同業組合の総会で、収益力向上セミナーとして「飲食店営業のSDGs」について講演会が行われました。講師は全飲連事務局の小城哲郎専務が務めました。内容を紹介します。
SDGsの動きが叫ばれるようになったのはつい最近のことです。「ウチは大手の動きを見てから、取り入れるかどうか決めればいい」と考える飲食店も出てくるのではないでしょうか。
しかし、このタイミングで積極的に取り組みを始めれば、世間からの評価はだいぶ上がります。実際、Z世代と呼ばれる若い世代を中心に、環境改善への興味は広がっていて、消費行動にも影響を及ぼすほどです。敏感な店舗はもう取り組みを始め、高い評価を得ているところも少なくありません。つまり、今こそチャンスと言うわけです。
しかも、SDGsの取り組みは単なるきれいごとではありません。経営改善にも直結し、飲食店が取り組みやすいものもあります。
以下、SDGsの取り組みについて、5つの視点で取り上げます。
1.食品ロスの削減
国の文化によっては、料理は食べきれないほど作り、もてなされた側は残すのがマナーとされているところがあります。しかし、日本は昔から「食べ物を粗末にしてはいけない」と教えら、この思想が深く根づいています。
これは飲食店でも同じこと。店舗では、食材の廃棄をできるだけ減少させる取り組みが必要です。そこで最初に取り組むのは現状の把握。今はPOSレジを使えば商品の出数やお客の入り方の時間帯による差などがわかります。勘に頼らず、こういった文明の利器を使って現状を知ることができます。
●その上で、商品切れを起こさないためにとたくさんの仕込みをするのではなく、「売り切れたメニューは販売終了」という方法をとるのもよいでしょう。商品切れが顧客離れにつながらないよう、「SDGsに気を使っている」とアピールすればイメージアップにつながります。
●また、食べない人が多い刺し身のツマや飾りのパセリなどは、思い切って使わないようにします。これは原価を下げることにつながります。
●お客の意識も高まっているので、持ち帰り用のパッケージを置いておくのも印象がよいです。これであれば、客単価が落ちることも防げます。
●従業員に教育する際も、「もったいない。食品を捨てるな」というより、「SDGsのため」というほうが好印象です。
●廃棄分を最小限にしようとしても、どうしても発生してしまうのがフードロスの特徴です。これを何とかしたいと思うなら、フードシェアリングを利用する方法もあります。これは飲食店で料理が余ってしまったとき、廃棄するのではなく、欲しい人に提供しようというものです。今はアプリも開発されていて、「TABETE」などがあります。このアプリのよいところは、無料で分けるのではなく、有料で希望者に購入してもらうところ。食材を捨てるということに拒否感を感じる従業員の精神的な負担も軽減でき、店舗側の満足度も高いようです。2.プラスチックごみの削減
プラスチックごみ削減は、SDGsの目標の「13:気候変動に具体的な対策を」「14:海の豊かさを守ろう」「15:緑の豊かさも守ろう」につながります。
私たちにとって便利な世の中になった一方、使い捨て容器などのプラスチックごみが増えたことで、海洋をはじめとした環境汚染の原因となってしまったことはご存知でしょう。今は脱プラスチックの動きが主流であり、こん後はますます加速すると考えられています。
●飲食店でできることは、店内で使っているスプーンやフォークをリユース可能なものにすること。そして、テイクアウトなどリユースができない場合は、紙製品など自然に返るものを導入しましょう。
●また、持ち帰り容器もエコフレンドリーな紙製容器にするとイメージアップにつながります。今は耐水、耐油性の紙製容器も多くあります。
●さらに、レジ袋を有料にするだけでなく、マイバッグを持参した人に何らかのサービスをするのもかしこい方法です。たとえばスタンプをためて、一定の量がたまると環境にやさしいグッズをプレゼントすればリピート率も上がり、意識の高い店として評判も上がることが期待できます。
「決まりだから何かをやる」のではなく、積極的に取り入れることでメリットに変え、経営の武器にするというわけです。3.トレーサビリティが明確な食材を使う
トレーサビリティとは、食品がどこで作られ、どのように流通し販売されたのかを把握するための仕組みのことです。最近はスーパーなどで、野菜のパッケージに生産者の名前や顔写真が印刷されているのを見かけます。こうすることで消費者は安心感して商品を購入できます。これがトレーサビリティのわかりやすい事例です。
●飲食店ではこのトレーサビリティを意識した食品を取り扱うこともSDGsの一環となります。特に飲食店では海外から輸入されてくる食品を使うことが多くありますが、その国ではどのような農薬や食品添加物が使われているかが分かりません。それを知ることが、お客の体を守ることはもちろん、地球環境を守ることにもなり、店舗の信頼につながるというわけです。
●また、食材に関しては開発途上国で生産しているもの、たとえばバナナやコーヒー豆、茶葉、チョコレートなどにも注意が必要です。未成年が教育を受けられずに強制的に働かされて生産していたり、対価が正しく生産者に払われていなかったり、生産性を上げるために農薬や成長促進剤が使われているものなど、しっかりとチェックしたい点です。
こうした心配を排除するために、「フェアトレード」と呼ばれる制度があります。これは、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」をいいます。
フェアトレード商品を使うことで、原価が上がり、商品の価格も上がることになるでしょう。しかしそれは客単価が上がることを意味します。SDGsを推進する姿勢をPRし、お客様の理解を得るよう努めることで、お客様の納得と評価を得ることにつながります。4.サステナブル・シーフードを活用する
世界中につながっている海洋環境の改善は、一カ国だけでできるものではありません。だからこそ大きな問題となっています。海の生態系が崩れていることは多くの人が知っていること。SDGsの目標でも「14:海の豊かさを守ろう」という項目が設定されています。
●つまり、海の生態系や自然に配慮した漁業で収穫された水産物を使うこともSDGsにつながります。これを「サステナブル・シーフード」と呼びます。
「サステナブル」とは、「持続可能」という意味。つまり、将来もずっと水産物を摂取し続けられるように、水産資源や環境に配慮されたものを取り入れましょうということです。
日本には、サステナブル・シーフードと関係が深い認証が2つあります。
ひとつはMSC認証。水産資源や海洋環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業に対する認証制度で、この認証下で行った漁業で収穫された天然の水産物には、「海のエコラベル」が貼られています。
もうひとつは、ASC認証。これは、環境への負荷を最小限にし、地域社会にも配慮した養殖業を認証するもので、この環境下で収穫した養殖水産物には、ASC認証マークがつけられます。
マクドナルドは環境に配慮した経営を行うことを推進しています。定番メニューのフィレオフィッシュにはMSC認証のものだけを使い、パッケージにMSC認証が印刷されています。5.雇用の創出
ここまでは食品に関することをお伝えしてきましたが、実は、雇用の創出もSDGsのひとつです。身近なところで言えば、学生の中にはアルバイトをすることで生活が成り立つ人もいます。ところがコロナ禍でアルバイト先がなくなったことで、学校を辞めざるをえなくなったケースが増えています。これは貧困につながるものであり、これを防ぐのは立派なSDGsといえます。
もちろん、外国人に対しても同じことがいえます。外国人は日本で得た収入を母国の家族に送ることで生活を成り立たせているケースが多くあります。物価は国によって大きな差があり、日本ではわずかな金額であっても、現地では何人もの家族が貧困から脱出できるということもあります。
つまり、アルバイトを人員整理することが、何人もの人の生活に影響する可能性があるわけです。飲食店経営者がスタッフの雇用を守ることは、単にそのアルバイト個人の生活が守られるというだけではないことを知っておく必要がありそうです。まとめ
人類は急速な経済成長を遂げてきました。その恩恵を最も受けたのは先進国であり、間違いなく日本もその一員です。排出された二酸化炭素は地球環境を悪化させ、将来の温暖化という大きなツケを突きつけています。また水産資源の減少は年々問題となっており、このままでは将来、十分な食品を得ることができないという学者もいます。
このような状況で、環境負荷を軽減するのは非常に意義のあること。SDGsは国連サミットで採択されましたが、最終的には企業や個人がどのような取り組みをするかにかかっています。まずは小さなことでもよいので、どのような取り組みがSDGsにつながるかをしっかりと考えてみてください。